表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー第三巻ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
64/243

第1話 訪問者と大遅刻者

第三巻の二話を削除させていただき、一話をかきなおさせていただきました。


第一回編集(2022/3/23)

誤字脱字の修正、文章の修正、文章の追加、ふりがなの追加、言い回しなど編集しました。



「まったく困ったものねぇ」


聖騎士団国家(セントクロス)学園長クライブ・イェールはぽつりと零した。


「いかがなさいますか?」


金縁の眼鏡をくいっと上げ、ぴっしりとした正装でその身体を纏い、女性らしさを持ちながら凛々しさも兼ね備えた秘書であるモデル・ミツナが訪問者の処遇を尋ねた。


「無下にはできませんしね、通してください」

「畏まりました」


間もなくして園長室の扉が開かれる。


ミツナに連れられ入室してきたのは、煌びやかで青を色彩とし甲冑を正装とした聖騎士の青年。

甲冑が擦れる音と共に、イェールの前で立つ姿にはどことなくあどけなさも残る。


「急な訪問を許可していただきありがとうございます。聖騎士国家学園長、クライブ・イェール様」


しかし柔らかな物腰の中に、最強の一角とし一つの大国を守る英雄の気配が窺える。


「ご訪問うれしく思いますよ、アバレン・アレクさん。座ったままで失礼いたしますね」


お気遣いなく、と非礼を気にした様子も微塵も見せず、アレクはにこやかな表情を崩さない。


「一国の聖騎士さんの時間を取るのも心苦しいので、早速要件を伺っても?」


本音を隠しつつ、その真意をイェールは探る。


アレクはその質問に、一瞬驚いた様子を見せた後、少年のような笑みを浮かべた。


その瞬間、イェールは全てを悟った。


聖騎士国家とはまた別の機関の聖騎士であるアレクは、いわば同業のライバル関係にある聖騎士である。

それが、何の意味も持たず、敵である敷地に足を踏み入れる事など本来ならばない。


しかし、このアレクという聖騎士は英雄の前に変わり者として有名でもあった。


ようは、


「レナンさんですか……」


完全に個人の用事で聖騎士国家に足を踏み入れたのである。


「もちろん! 彼女の情報はすぐに耳に入るようしておりますので。それで、その件の少年を一目拝見したく参上いたしました!」


イェールは、表向きは変化を見せず、心の中で深い深いため息を吐いた。


「お忙しいでしょうに、よく時間を作れましたね」


嫌味をふんだんに含める。


「ええ、お恥ずかしながら同僚にひどく怒られました」


そうは言うが、全く反省の色は見えない。むしろ、それでも好奇心を抑える方が悪だと言わんばかりで、嫌味だとすら感じている様子もない。


「ですので、仕事はきちんと終わらせてここにきているのでご心配には及びません」


「そうですか……。しかし、【ドラグニクル】部隊を個人で動かすのは些か軽率で身勝手だと思いますよ」


遠回しでは理解されないと直接的な言葉で言い放つ。


一つ間違えば、争いの火種になりかねない。

同業のライバル関係といえば聞こえは優しいが、争いの場面で敵対すれば、この青年と聖騎士団国家の騎士は剣を交え、命を奪い合う。


横に立っていたミツナの表情がピクリと動くが、立場を弁え横から口を出したりはせず、秘書は秘書のまま見守る。


「ははは、ご冗談を。僕の一存だけで【ドラグニクル】は動かせませんよ」


簡単に言って退けたが、その瞬間、ミツナの眼光が見開き、イェールも驚いて見せた。


「まさか……、あなた、」

「はい、一人で参りました」


自国で育て上げた聖騎士隊【ドラグニクル】を筆頭に、数々の防衛陣を汲み、数々の戦を制した大国の聖騎士。

中でも、最強の聖騎士として君臨する男こそアバレン・アルクだった。

その存在だけでも脅威とされ、存在そのものが防衛システムとして機能している。


そんな青年が、たった一人で自国を離れたという。


イェールは頭を抱え込んだ。


「いったい何を考えてるの……」


それもそのはず、この青年の強さは世界中が知っている。

しかし、敵がいないかと言えばそれはまた違う。

そして、そんな存在が一人でいると知られれば、戦場になる可能性を生む。


そして、その戦場が聖騎士国家になってしまう。


そういう意味で、【ドラグニクル】はアバレン・アレクという青年への敵対勢力への牽制でもあるのだ。


「それもご心配なく、誰にも(・・・)気づかれずにきたので」


その一言がさらに、不安を煽る。


「それは――」


事実、この青年がこの場にいるのに、誰ひとりこの学園内で騒いでいる者がいない。

つまりこの青年の言っていることは真実であり、それをやってのけた。


言いかけていた言葉をイェールは止め、代わりに、


「今頃、大騒ぎね」


他国とはいえ、同情するほかない。


「話を戻して申し訳ないのですが、(くだん)の少年、あのジャンオル・レナンが推薦した少年にお目身通りをお願いしたいのです」


アレクはついでにレナとも久しぶりに会いたいと付け足す。


イェールは背もたれに寄しかかり、遠い目をして見せる。


その対応にアレクは首を傾げる。


「そうね、そこまでして会わせないというわけにはいかないでしょう」


「それではっ――」

「しかし、」


好奇心に胸躍らせる少年のように明るい表情を作ったアレクだったが、


「両者ともここにはいませんよ」


その言葉に初めて表情が固まる。


「え?」


「ジャンオル・レナンはその少年の推薦をねじ込むために、こちら側の要求を呑んで一つの依頼でしばらくは帰らないでしょう」


それならば少年の方だけでもと、食い下がろうとしたアレクだったが、これに関してはイェールも頭を抱えている問題の一つ。


「まだ到着していません」


学園長室に沈黙が支配した。


「わ、私がこの話を初めて聞いたのは三月(みつき)ほど前の事ですよ……」


初めてアレクの中で疑念が生まれる。


「あら、奇遇ね。私も初めに聞いたのはそれくらいだったわよ」


しかし、イェールは嘘を吐いていない。


それを証明するかのように、イェールは窓から遠い空を見ながら、


「レナンさんの依頼もう少し時間が掛かればいいわね」


これでは約束が違ってくる。

例え、件の少年の意思で学園に来ないとしても、ジャンオル・レナンの掴めない性格上、縁ごとなくなりかねない。


それこそ、学園の信頼ごと地に落ちる。


「この時の為に当面の仕事ですら、必要以上にこなしてきたのですが……」


「私も色々と便宜を図っていたのですが……」


世界の頂きの二つの存在が脱力感に襲われるという、過去に類を見ない異様の空気に学園長室は包まれていた。


そんなこと知るはずもない件の少年であるナカムラタダシは、


「言ってた時間より三倍は掛かってるじゃねぇかっ!」


ジオラルに掴みかかり、Bランク冒険者の一人と喧嘩していたのだった。


更新が大分滞っております。


詳しくは、活動報告に書かせていただいております。


引き続き頑張りたい所存ではあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ