第30話 タダシだから
鬼ごっこの結末だけいうと、引き分けともいえない曖昧な形で決着はついた。
時間を掛け俺とレナが一緒にテトラの場所まで帰ると、そこには動けなくなったジオラルとカルバン、テトラにアン、アイミがすでに集まっていた。
神妙な面持ちで息をのみ、結果の報告を待っていたのは冒険者の三人で、アイミとアンはどの結果であれ受け入れる態勢はできているようだった。
ちょっとふざけて結末を先延ばしにしてやろうかといたずら心を覗かせたが、あまりに重い雰囲気に俺の度胸では実行できない。
仕方ないので相変わらずの助走を一言加えて、
「とりあえず、聖騎士団国家にいく事にした」
その瞬間、三人から息が漏れる。
元々予想していたであろう結末なのだろうが、どこかで勝利を信じていてくれたのかもしれない。
ただ、俺からすれば、役に立ったのってアイミぐらいなもので、そんな小さな期待を裏切ったような反応は心外以外の何物でもない。
そんな中で、目ざとくアンが気付いた。
「いく事にした?」
些細な表現。
「そっか、まだ鬼ごっこは続くんだね」
その可能性も考えていたようにアイミが言う。
「続くっていうか、一旦保留みたいな。ちょっとルールまだ調整必要だったから」
この会話に着いていけない三人が尋ねてきた。
「ちょっとまて」
「なにが? どうなって?」
「私一番、理解できないんだけど?」
根本的な話であれば、この世界の常識が必要だと思ったのはもっと前の事だ。
結果的にずっと後回しにしてきて、流れで引っ越しをすることになった。
その引っ越し先を見つける道中で勝手に常識が身に着けばいいなと思った俺の甘さが、この鬼ごっこの失敗だった。
事はそう簡単にいきそうにないし、学園という学びの組織が存在するならその方が手っ取り早いと考えてしまったわけだ。
おあつらえ向きに、アンの提案で学園への足掛かりはできている。
「まぁ、ちょうどいいなって話」
色々面倒な部分は端折りながら説明すると、
「舐められたものだわ」
まぁ、確かにアンからすればそう言えてしまうだろう。
さらにいえば、元々負けた時の報酬として学園に連れて行くと言われていたのはアイミであり、俺はついででしかなかった。
「そのへんは申し訳。一応俺の推薦人はレナがしてくれるっていうし、俺はテキトーにやるからさ」
適度に目立たないように過ごすといった意味だったのだが、
「君の実力に関して今更何かを言う気は無いわ。問題は、聖騎士団国家の価値を低く見られていることよ」
俺の実力? あったかそんなもの?
「ちょ、ちょっと待って! タダシ、君は騎士を目指すということなのかい⁉」
カルバンはテトラに手を借り動かない体を起こしながら、自身の過去を重ね心配でそんな事を聞いてきたのだろうが、
「んなわけないだろ」
「「「はぁあああああああああああああああああああああっ⁉」」」
それには三人まとめて大きな声を上げた。
アンは声を出さないまでも驚いた様子だったが、俺からすればなんでそう考えたのか不思議でしょうがない。
「俺が必要なのは一般的な常識だけ、つまりちょこっと勉強したら出てく」
カルバンとテトラは頭を抱えた。
そんな中、ジオラルがけがその後に声を張り上げる。
「お前っ、分かってねぇ! 聖騎士団国家は入るのも選ばれた奴だけだ! 逆に卒業できなかった奴は、レッテルを張られる! レッテルを貼られたら、どれだけ……」
そんな話は聞いていたが、寝転んだままの態勢のジオラルの言葉に説得力が掛ける。
なにより、
「別にいいかな」
「は?」
「ようは落ちこぼれのレッテル貼られて、世間で蔑まれた目で見られるってことだよな?」
それがわかっているなら、と口を開こうとしたジオラルが口を開く前に、俺は思ったままを言う。
「だって、俺山の中で生活するつもりだし」
ちーん、と短い静寂が森の中で鳴り響く。
「あ、いや、そういうことじゃ……ん? いいのか?」
返す言葉が見つけられなくなったジオラルは、カルバンに助けを求める。
どっちに呆れたのかカルバンはため息を吐いた。
「ジオラルが言いたいのは、山で暮らすにしても町へ買い出しに言ったりはするだろ?」
「そう、それだ!」
なるほどと考えた後質問する。
「物も売ってくれないほど?」
と、再び沈黙する。
「そこまでではないと思うけど」
「じゃあ、いいんじゃない?」
それでいいのかと、誰もが天を仰ぎながら普通ってどうだったかを考えている。
その間に、
「あー、そもそもだ。蔑まれる分にはいいじゃんって話」
「んん?」
「んん?」
「んん?」
「んん?」
「んん?」
余計に混乱を生んだようだ。
今度は、アンとレナも混ざって考える。
「蔑むよりは蔑まれた方が楽だろ」
騙すよりは騙されるほうがマシ、と同じ考えで言ったのだが、今度は腕組みで考え始まった。
どうやったら伝わるんだと俺まで悩み始める。
すると、その助け船を出したのはアイミだった。
「ふふ、答えは簡単だよ」
その一言に視線が集まった。
俺はみんなが納得してくれる一言に、安堵と共にアイミの言葉を待つ。
そして、
「だって、タダシだもん」
「ああ」
「確かに」
「なっとくー」
「今までの言動を考えればね」
「うん」
「いや、納得できるかいっっっ!」
その一言は、俺にだけ疑問を残したのだった。
次話は本日中にUp予定です!
よろしくお願いいたします!




