第20話 口は災いの元
冒険者三人の体調が回復する為の休みに入ってから、二日目の事だった。
この余計な引き金を引いたのは、この日の不用意な一言。それが、二人を本気にさせる事件を作ってしまった。
悲しくも特になにもすることのない俺たちは穏やかな日々を、緊張と気まずさを交えながら同じ空間で過ごした。
といっても、借家で過ごす時間の方が短い。
相手である二人は基本その有名ぶりから外に出ることはなく、俺たちは作戦会議などで外に出ることが大半だった。
そんな時間の中で考えるのは、鬼ごっこのことだ。
そして、俺は一番大切な事を話していなかった事に気が付き、相手である二人の所へ赴いた。
まるで、時間が流れていないのかと思えるほど二人は定位置にでもなっているのか、レナは席に座り、アンは壁に体を預け立っている。
「一個だけいいか?」
「ええ、どうぞ」
家に入るなりそう声を掛けると、決まってアンが返答してくる。
レナは顔だけ向け反応はしてくれるから、よしとしている。
「勝負の報酬というか、罰ゲームというかその辺の話決めておこうと思って」
「報酬?」
「罰ゲーム?」
罰ゲームの意味が伝わらなかったとしても、報酬はさすがに理解できただろう。
だから、俺はそのまま続ける。
「まぁ、アンさんの方は、俺とアイミの学園に連れて行くってことで良いんだろうけど、」
「ああ、あなた達が万が一勝った場合の事」
相変わらず、負けることを想定しない口ぶりで言われる。
「好きに決めてもらっていいわよ」
だから、どんなことでも受け入れると言ってのけた。
それに俺はイラつきもしない。
それはカルバンの話と、すでに負け試合と受け入れている三人の冒険者の面持ちで理解できた。
加えて、俺は端から勝っても負けても、どちらでもいいとさえ思っている。
もちろん、作戦会議の中で新たなる切り札を用意はしているけど。
「じゃあ、俺たちに金輪際関わらないってことで」
だから、俺たちが勝った時の報酬はざっくりとしていた。
「ええ、覚えておくわ」
今思えば、ここで終わりにしておけばよかったのだ。
なのに、俺が余計な事を聞いてしまった。
「アンさんは言いいけど、レナさんの方は?」
その瞬間、二人の頭の上にクエスチョンが浮かぶ。
その反応に俺は冷静に対応できるだけのコミュニケーション力があれば、焦らず口を滑らすことなんてなかった。
「え、あ、いや、この勝負って、アンさんの提案から始まったから、報酬はレナさんも同じでいいのかなぁって、あはははは」
誤魔化し笑いが空しく響く。
「……私が勝ったら?」
「あ、いや、アイミはなんだか、勝負そのものよりも、なんか経験的なものに興味があるらしいから、逃げる側としてはおまけというか、だから、実質俺を捕まえた方が勝ちみたいなことにもできるし、」
沈黙が恐怖だ。
「つまり、俺を最初に捕まえた方が報酬を……みたいな?」
その瞬間だった。
二人の目つきが、変わったのは。
「なるほど、つまり」
「私とアンも敵」
へ? どういうこと?
「じゃあ、私が勝ったら、タダシとの二人旅をもらう」
はい? どういうこと? それは俺にとっての恐怖でしかない。
「余計な事を提案してくれるわね、君」
俺は何かをやらかしたらしい。
「ちょ、ちょっとまって、あくまで、まだ提案――」
「もう無理よ」
そう言ってアンの視線には、
「勝とう」
意気込みを口にしたレナがいた。
「あ、はははははは、やらかした……」
もう後の祭りに、俺はこの事を後悔する羽目になる。
その事を他の四人に隠しながら、その二日後、いよいよ決戦の時がやってくる。




