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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第一巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第5話 勇者と魔王と必殺剣

2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。

2021/3/17 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。

ボコッ。


突如、斜面の止めが膨れ上がった。


「でりゃあああああああああああああああっ!」


足で蹴飛ばし最後の土を蹴りだしたのは、Bランク冒険者の少年だった。


「どうだいジオラル?」

「ああ、ようやく外だ」

「ほんとっ」


ジオラルと呼ばれた少年の後に、手を引かれて修道服の少女が、次いで灰色のローブにハットを被った少年が続く。

その姿は共に泥だらけで汚れていた。


「くそ、カルバンが土の精霊術を使えてたら、こんなに時間もかからなかったってのに」


すでに外は暗くどこからか獣の鳴き声が空を駆け巡っている。


「使って崩れたら、そのまま生き埋めだよ」

「そうだよ、それに万が一山が崩れたなんて、笑い話にもならない」

「わかってる。だから、掘って突き進んだんだろ。んで、どうする?」


それはどの事を言っているのか、ため息交じりにカルバンがハットの土を払いながら尋ね直した。


「とりあえず、どうしようかテトラ」

「水浴びがしたいかな」


さすが女子と言ったところか、テトラと呼ばれた修道服の少女は腕を広げて汚れをアピールする。


「なら街でも探すか」

「この辺だと近くに【ギサール】って街があったはず」

「結構大きい街?」


「確か、商店が多く立ち並んでいる田舎街だったはずだよ。そこそこ大きいギルドもあるね」

「ちょうどいいか、そこで情報収集もできそうだ」


テトラは念を押す様におずおずと尋ねる。


「やっぱり、さっきの子追う?」

「当たり前だろ」


「私情は挟んでない?」


「挟むに決まってんだろ! 誰のせいで、こんな目にあった! だいだい準備もなくあんな深い落とし穴なんて作れるわけがねぇ! つまり、奴は山ん中で何かを企んでた。その準備を進めるために、俺たちを誘い込んだんだ」


テトラは少し考える素振りを見せながら、


「う~ん、元々すれ違いざまにジオラルが喧嘩腰に突っかかったことが始まりだったと思うけど」

「確かに、向こうは最初から僕らに関わろうとはしてなかったね」


「あぁ? カルバンまでっ――」

「全てを否定する気は無いよ。実際、あの禍々しい気配は良いモノではない」


ふふん、とジオラルがテトラを見下す。


「それに、二人はあの子の種族に思い当たる節がある」

「え、ほんと?」

「なんだ?」


息を飲み、その正体の答えを待つ。


「ゴーゴン」

「「⁉」」


滅多に耳にすることのない種族の名に二人は顔を見合わせる。


「正直確証はない。でも文献で読んだゴーゴンの特徴に似ていた気がするんだ」

「でも、ゴーゴンって滅んだ種族のはずじゃあ」


「原種という意味では、確かに滅んでる。まぁ、そもそも原種なんてそれこそ、頂点にいる一族くらいなものだけど。血が薄くなっただけで、途絶えたわけじゃない。今となっては大人しい種族の一つとされていて、静かに人里離れた場所で暮らしているって聞くよ。ただ、二人も知っているとは思うけど、種族の中には遺伝で原種に近い力を目覚めさせる者は確かにいる。そして、先祖がえりで得た原種の力は暴走する可能性が限りなく高い」


「それがあの子?」

「おそらく」


「あの禍々しい気配か?」

「付け加えると、山いた蛇の威嚇や容姿がゴーゴンかなと」


周りを気にせず追跡していただけのジオラルと、二人の後を追いかけていただけのテトラは気まずそうに苦笑いを浮かべた。


「でも、それだけで決めつけるのは……」


「確証はない。でもふと過ったって程度だと思ってくれていい。いうなれば勘っていうのが一番近いかもね」


「お前の勘は当たるからな」

「確かに……」


「まぁ、用心に越したことはない。なにせ僕たちはBランクの称号を預けられている冒険者だからね」


用心ね、とジオラルが呟く。


「ゴーゴンっていうと石化だっけか」

「フードで顔は隠してたね」

「歴史上、魔王配下の一族」


魔王と勇者がいた頃の話。

今となってはおとぎ話になりつつあるほど古い時代のことだ。

しかし、事実としてその歴史は確かに存在した。


そして、滅んだ後も魔王とその直属の配下は今も尚有名な存在だった。


「……魔王復活の兆しか?」


真剣な表情のジオラルの一言に、きょとんとした表情が二つ。


「それはない」

「はぁ、まじめの話をしてたのに」

「うぐっ」


それはもう遥か昔の存在。

それこそ、種族としても存在していない、今となっては幻の災害。

その時代に悪さをしていた種族が存在しているのは事実、だが、魔王が消え迫害されている時代でさえとうの昔。


すでにその時代を知るものもいなくなり、何も知らない世代は差別することが悪となっていた。


「少年の心を無くさないのはいいことだね」

「そうだね、そういうジオラルが良いって人がきっといるよ」

「じょ、冗談で言ったんだってのっ」


「必殺剣っブレイカークラッシュ! だっけ?」


たちの悪い幼馴染に過去をほじくられる。


「ぷふっ、一刀両断だね」

「んぐっ、てめぇら……」


「さ、早く町へ向かおう。間違って魔王様が復活する前にね」

「魔王よりも自称勇者様が現れる前にじゃない?」


「「ぷっ、あはははははははははははっ!」」


「コロスっ」


勇者も魔王も現れることは決してない。


しかし、彼らは出会う。


勇者も魔王も古い言葉にしてしまう存在。


見た目は十歳、中身は二十八歳のおっさん兼少年。


その名は――中村正。


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