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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第二巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第9話 住む世界

2021/5/27 軽度な(台詞の言い回し、誤字脱字)編集をしました。

ジオラルの炎が氷の針を溶かし水蒸気であたりが見えなくなる。

次いでテトラが目には見えない守りを張り、追撃を防ぐ。

その間に、(もや)の中の人影をカルバンが二つの壁で挟み込んで攻撃を仕掛けた。


「壁が持たない!」

「横に飛べっ! 対象を絞らせるな!」

「手ごたえがないっ! 避けられてるっ!」


前方から飛んでくる攻撃は未だ続いている。


「舐められたものですね、戦闘中にお話ですか」


そんな折り、後ろから聞こえてくる声に背筋が凍る。


いつの間に――。


そう感じる暇もなかった。


「【氷の世界(アイスフィールド)】」


そう言葉が耳に届いた時には、全てが凍らされていた。


緑豊かな景色を永遠にその姿で留めておくように辺りは氷塊とかし、三体の氷の像が出来上がる。


「この程度……? レナは何に興味を持ったのかしら?」


アン・クラナディアはその景観を眺めながら、空しさだけを感じていた。

そして、思い出したように封筒の依頼書を手の中でくしゃくしゃに丸める。

躾けができている元聖騎士副長はゴミをその場で捨てたりはしない。


そのゴミをどう処分するか、考えは始めた時だった。


「優秀でしたね、そういえば」


氷の像の一つから蒸気が立ち込める。

最初は、小さな白い蒸気も次第にその大きさを広げ、辺りの氷を溶かしていく。


「なめんじゃねぇぞ!」


炎人(ファイヤーマン)】、精霊の力で源素を体に纏わせエネルギー体となったジオラルが飛び出し、剣で襲い掛かる。


アンは上空に跳び、迎え撃った。


「ご親切にどうも」


アンは切りかかってきた斬撃を避け、残り火で依頼書に火をつける。


「もらったっ!」


避けられることなど、初めから分かっていたかのようにジオラルは剣を捨てていた。


一瞬の隙。


その間にアンの両腕を掴んだ。


「あら、失礼ね」

「燃えちまえ!」


それでアンは燃えつくされる。


――はずだったのだが、送り込んだ炎がみるみるかき消され、反転しジオラルの体は氷に浸食されていく。


「く、くそったれ……」


【炎人】が解け、ジオラルの体が白く氷結しながら地面に落下していく。


落下していく中でジオラルはにやりと笑った。


「【巨人の(ジャイアント)絡繰り泥人形(ギアゴーレム)】」

「――⁉」


巨大な影をつくり現れたそれに、初めてアンの表情が驚いたものに変わる。


カルバンが拳を振り下ろす。

巨大な泥人形(ゴーレム)はカルバンの動きに同期し、振られる拳は人のサイズをはるかに超えアンに襲い掛かった。


巨大な拳に反動を付け振り下ろされる。


未だ空中にいるアンは避けることはおろか、氷の壁を作っても間に合わない。


「くらえぇええええええええええええええ!」


影と共に襲い掛かる拳にアンは、目を瞑った。


「――っ⁉」


カルバンは声を出すこともできなかった。


巨大な泥人形の腕がアンに直撃する瞬間、泥人形の腕がピタリと止まる。


「泥が目に入らなくてよかった」

「…………止められた」


「ただのゴーレムに絡繰り仕掛けを組み込むことで、こんなに繊細に操作できるなんて驚いたわ、本当に」


【巨人の絡繰り泥人形】の泥で出来た心臓部に氷の矢が刺さっている。


「でも、弱点が剥き出しなのはどうなのかしら?」


パチンと指を鳴らす。


「【氷の心臓(ハートブレイク)】」


泥人形の心臓を起点として巨大な図体が一瞬で凍りついた。


カルバンが力尽き膝を着く。


「随分、出力が多い術なのね」


ピシリ。


凍ったはずの泥人形の氷がひび割れる。


「仕掛けはまだありますよ」


ひび割れた氷、そして泥人形の体の中から風の刃が無差別に空を駆ける。


「二重契約⁉」


本来精霊との契約は一つと限られている。


それは制約というわけではないが、人の適正と源素の容量から非効率で二つ以上の契約はメリットがないとされていたからだ。


今度こそ、アンの初動作が遅れた。


所詮、書類上でのカルバンの情報は、その費やしてきた時間と努力を計るものではなかった。


アンは反省する。


精霊使いが持つ杖は精霊との交信を円滑にし、より効率的に行う為の初心者の用のものだという認識を。


カルバンは杖を持つことで、極限の源素の無駄使いを削減していたのだ。


「本当に……、驚かされます」


そう言い残し、アンの体に風の刃が無数に切り裂いた。


アンの体が、首、胴、腕、脚、と切り離され液体(・・)に変わる。


「う、うそだろ……」

「これでもまだ……」


いつ入れ替わっていたかすらわからず、二人はもう動けない。


「【水陽炎(サブスティート)】を見るのは初めてですか?」


最初にいた場所から、一歩も動かず、アン・クラナディアは水の球と戯れそこにいる。


「水の上位精霊……」

「それも氷に変換できるほどの源素の出力……」


それでも、終わってはいない。


「ようやく、本体がわかって安心しました」


水の精霊使いとわかった時点で切り札はテトラだと、決まっていた。


「聖女が補助(サポート)もしないでどこにいるかと思え――ッ⁉」


晴天だった空が分厚い雲に覆われ、雷土(イカヅチ)の槍を持ったテトラがそこにいる。

聖女とは思えない立ち姿。白く長い髪が逆立ち、修道服が雷土の余波で激しく踊る。


「私が補助なんて言った覚えはないですけど」


初めてアンの表情から余裕が消えた。


水と雷、相性を見ても不利。


しかもあれは、精霊とは違う。


「私もまだコントロールしきれないので、死なないようお願いします」


【神の奇跡】の一端。


「……聖女の立ち振る舞いとは思えません」


雷鳴轟く中、魔王が君臨するかのようにテトラは構えた。


「お利口さんではいられなかったんで」

「困ったわね、本当に」


「困ってもらわなくちゃ、こっちが困ります!」

「本当に……、あなた達は――」


「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!」


切り札、【天界の怒り(イカロスの翼)】。


高出力の電撃が人外の速さでアンに飛ばされた。


地鳴り、地響き、轟音、鳴動、爆音、全てを混ぜても足りないほどの衝撃がやってくる――。


――はずなのに。


「ま、まじかよ……」

「し、信じられない……」

「あ、ありえない……」


そう思い身構えたテトラ、ジオラル、カルバンの三人はいつまでやってこない衝撃に、違和感を覚え、それは次第に恐怖に変わる。


驚かされる立場はアンだけではなかった。


「ふぅ、久しぶりに神経を研ぎ澄まされたわ」


雷土が水の球の中に閉じ込められている。


「あの速度の雷土を受け止めるどころか……、捕縛するなんて」


絶望がテトラから力を奪った。崩れ落ちるようにへたり込み、ただ茫然とその姿を眺める。


そして、改めて三人の脳裏に目の前の少女の肩書が刻まれた。


聖騎士団国家(セントクロス)』『聖騎士機関(セントオルガン)』所属、元『聖騎士副長(ロイヤルサブナイト)』アン・クラナディア。

彼女はまだその座でも二番手であることを。


その差が天と地ほどにも遠いことを。


「手土産にはならないわね」


雷土が閉じ込められた水の球が圧縮される。


「――ッ、わぁあああああああああああああああああああああああああああっっ!」


その意味を理解したのはカルバンだけだった。


残された源素を振り絞り、二人の前に小さな土壁が出来上がる。


そこで力尽きた。


「「カルバンッ!」」


交わらない平行線が、その途中であっけなく切断されようとしている。


「あなた達は本当に優秀(・・)だったわ」


住む世界が違う。


アン・クラナディアが済む世界は化け物の巣窟。


「今更だけど、敵意はなかったわ」


そう言い、圧縮された雷土を包んでいた水の球が適当に放たれ破裂した。


形を失った雷土の欠片は目的を持たず三人に向かっていく。


カルバンが最後の力を振り絞った土壁もおそらく、意味をなさない。


そうして、鳴ることのなかった鳴動はこの瞬間、大きく響き渡った。




「………………?」


アン・クラナディアが立ち去ろうとした瞬間、妙な気配を感じ取る。


妙な気配を持つ者が、手を翳しながら土煙の中から声を出した。


「いったいこれは……?」


ジオラルとテトラ、カルバンの三人は目の前の石壁に守られていた。


ジオラルとテトラは命のあることに驚くよりも早くその姿を見つける。


「「アイミさんっ⁉」」


元、原種の暴走者、アイミケ・ゴースキーの姿がそこにはあった。







その頃、

「すぐにアンの所に行かないといけない」


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」


全く意味のわからないことを言われ何度目かによる発見に俺は悲鳴をあげた。


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