第3話 変装
2021/1/23 軽度な編集をしました。
2021/5/27 軽度な(台詞の言い回し、誤字脱字)編集をしました。
Bランク冒険者三人と謎の野菜売りの少年と少女が旅立った数日後、ギサールの街にかつてないほどの緊張感が溢れていた。
その中でも冒険者ギルドの受付はそれと真正面から立ち向かわなければならない。
「あ、ああ、あの、こ今回はどどどどういったご用件でしょうか?」
受付嬢は目の前に立つ圧倒的な存在感に声を震わせながら、定型文を読み上げる。
「人を探してる」
端的にそう尋ねたのは聖騎士の装備を軽装で固めたレナだった。
本来なら聖騎士は冒険者にとって嫌悪する対象であるが、Sランクの肩書も持つレナの前に罵倒はおろか声を出せる者もこの街にはいない。
さらに、
「それだけでは足りないですよ、レナ。ここにBランク冒険者の『新しい波』が来ていたと情報を得たのですが、その後の所在を知りませんか?」
冒険者ギルドでは似つかわしくない綺麗な言葉使いで話す少女もまた、Sランクの称号を持つ元聖騎士。
姿恰好は聖騎士とも冒険者とも取れない綺麗な恰好ではあったが、その立ち姿は圧巻だった。
受付嬢は思う、粗相をしたら死ぬ。
いつのまにか隠れて居なくなったギルド長を恨みながら、必死に質問されたことを脳裏で復唱し、震えた声と手で説明し始めた。
「あ、あああ『新しい波』の、みみ皆さんは数日前に、こここの街を出て行かれましたっ」
その様子にレナは首を傾げ、
「どこに?」
端的な質問が余計に受付嬢に緊張感をもたらしていることをなど知る由もない。
さらに、その情報は持っていなかった受付嬢は、後ろにいる仲間に助け船を求めた。
だが、どれも同じように首をぶんぶんと横に振る。
「すすすすすすしません、そそそこまではっ」
歯がガタガタぶつかり合って、謝罪にすらなっていない。
「普通、冒険者の足取りが分かるように、聞いておくものですが?」
アンは素朴な疑問を漏らした。
ただそこに責める意思は含まれていない。
あるのは、各ギルドでの違う対応に、今後は思慮を深めようとする向上心のみ。
「申し訳ありませんっっ!」
受付の机に頭を強打する勢いで頭を下げた受付嬢を、アンは心配しながら戸惑いを見せる。
「あ、ああ。知らないのであればしょうがありません」
丁寧に受付嬢に頭を上げる事を要求しながら、隣にいるレナの視線が冒険者の掲示板に注がれているのに気が付いた。
「どうしました?」
「依頼」
「なるほど……」
その意図をくみ取り、再び受付嬢に視線を戻す。
「彼らはこの街で何か依頼を受けませんでしたか?」
「い、依頼ですか」
受付嬢は言い淀んだ。
元々『新しい波』は冒険者ギルドに依頼を受けに来たわけではなかった。
それが情報収集だけならまだ説明しようもあったが、彼らはこの地ではゆかりのないゴーゴンの情報を集め、その挙句、この街のCランク冒険者を片っ端から捻り潰していった。
確かにその悪評の説明ならできなくもないが、目の前にいる稀有な存在が『新しい波』に対しての目的がわからない。
万が一、懇意な間柄であった場合、物理的に首が飛ぶかもしれないと受付嬢は自身の身を案じる。
しかし、受付嬢の心配をよそに助け舟が入った。
「横から失礼します」
Bランク冒険者である『新しい波』を対応した受付嬢が、タイミングよく用事を済ませて帰ってきたところだった。
「せんぱ~い」
今にも泣きそうになる後輩受付嬢を宥めながら、場所を変わってもらう。
「『新しい波』の皆様は、この街を出る際、大量発生しているカマソンの依頼を受け、旅立たれました」
この対応にアンはほっと胸を撫で下ろす。
おそらくこの先輩受付嬢も少なからず緊張感を持っているが、仕事をそつなくこなしている。
それに高い評価を下しながら、アンは聞くことを躊躇っていた質問を安心して尋ねられた。
「では、その依頼の場所を教えていただけませんか? それと、彼らがこの街で何をしていたか、それ以外にも知っていることがあれば教えてください」
その質問には先輩受付嬢も困った様子を見せた。
何か困らせる質問だったかと、辞めるべきか考えた所で、
「依頼の場所はここから、北西にいった森です。名前のない森なので、細かい位置までは分かりませんが、カマソン発生場所は暗く光の届かない場所という情報があります。そして、そのほかのご質問に関してですが――」
その内容に、受付嬢たちが言い淀んだ理由をアンは察し、礼を言うとレナと共に冒険者ギルドを後にした。
ギルドから離れた所で、
「怒ってる?」
レナがアンに尋ねた。
もくもくと歩き続ける中でピリピリとした緊張感がレナには伝わっていたようだった。
「レナにではないわ。ただでさえあの子達、汚点とされている中でここまで好き勝手やっていると思うとね」
「冒険者だから問題ない」
そう言われアンはため息を吐いた。
確かに、ただの冒険者というだけなら問題はなかった。
「でも、その前にあの子たちは『聖騎士団国家(セントクロス)』の出なのよ」
問題は、由緒正しき『聖騎士団国家』の名に泥を塗り、冒険者になったこと。
「うん」
そして、アンがもう一つピリピリしている理由。
それが、ジャンオル・レナンが『新しい波』に興味を持ったということだ。
「まだ話せない?」
その理由をアンは教えてもらえなかった。
「…………うん」
そう、とだけ返しそれ以上は追及しなかった。
「そういえば、」
アンは受付嬢が話したもう一つに話題を移す。
「ゴーゴンに関して山に入ってから、戻ってきた時に少女と少年が増えていたって言っていたわね」
「子供」
「少年の方はね。どこかに野菜を卸していたって話で、少女の方はその保護者……」
そこで疑問が浮かぶのは、なぜこの二人と同行していたかという事と、その後にその二人を連れ旅立っているという事。
「情報収集をこの街でしてもあまり意味がないかもしれない」
情報が集まる冒険者ギルドでもその程度の情報ならば、本人たちを追いかけた方が圧倒的に確かなことがわかる。
「暴走」
「え?」
「女の子の方がゴーゴンで、原種の力を持っている」
「だとしたら、この街へ一緒に来ていることはおかしいわ。それに少年の方がゴーゴンの可能性があるし」
レナは首を振る。
「子供はこの街にいた」
確かに受付嬢の話では少年の情報の方が数は多かった。
「女の子は突然ここにきてる」
アンも気付かなかったわけではない。
それでも暴走した種族がいた場合の措置としては『新しい波』の行動は普通ではない。
だから、自然と否定していた。
「少女がゴーゴンだったとしても暴走は勘違いだった?」
「それは分からない。でも、私は子供の方が不思議」
「え?」
これまた予想外な視点にレナの続きを待った。
「子供はこの街の住人じゃない。それなのに、ここで野菜を売っていた。でも、この街から一番近い場所でも子供の足ではこれない」
「荷馬車を使っていたのでは?」
「それでも、子供一人は不思議」
確かに、村に住む子供が働いているのはざらだったが、金銭の受け渡しがある使いに子供一人で送るのは些か疑問が残る。
それこそ、畑仕事を中心に子供に任せ販売を大人がやる方が、交渉を含めても自然ではあった。
「これで決まりのようね。『新しい波』に追いついて確認するほかなさそう」
「うん」
目的がはっきりすると、アンは伸びをして見せる。
「疲れた?」
「ううん。でもどこに行っても私たちが受ける対応って緊張感を持たれるでしょ? それが少し窮屈だなって」
今も街の中を歩いているだけなのに、ちらちらと住民たちの視線を集めている。
すでに聖騎士としての任は降りており、冒険者としては元々活動していない。
それでも、有名税はついて回る。
「田舎だと少しは和らぐかなって思っていたけど」
後輩受付嬢の対応を思い出し、それは田舎の方が悪化しているとアンは痛感した。
「……うん」
「あの受付さんの名前くらい聞いておけばよかったかしら、あの子ここに置いておくには勿体ない」
先輩受付嬢に高い評価を付けながら、二人は街の門まで辿り着いた。
「あ……、買い物」
「必要な物がある?」
「変装しよう」
「…………え?」
時差にして数日、すでにその道筋に二人は追いついていた。




