第3話 タイミングさえあれば、叫びたくなる
2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。
2021/3/17 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。
身体能力向上で移動速度を速め、破壊音がする方向へ跳びながら移動した。
なんだかんだ言って、これが一番のお気に入りの移動方法だ。
空を飛ぶことも考えたが、怖いので今のところ試していない。
「さてと」
とりあえず、近づくことまではした。
今後の事を考えれば正体を見られるのは何かと都合が悪い。
理想を言えば、山に住んでいるという事実そのものを隠しておきたい。
情報は極力誰にも与えないことが、平穏への一歩だとしているからだ。
腰を落とし離れた位置から視力と聴覚を強化、向上。
「……四人」
構造としては一対三の争いのようだ。
三人組の方は見た通り冒険者だろう。
鎧に身を包む少年が前衛で剣を構える剣士。
その後ろに杖を持つ灰色のローブにハットを被った少年の魔法使い。
その隣に白い修道服の少女がヒーラー。
バランスの取れた三人パーティーだろう。
かえって一人の方はというと。
「……人族じゃない?」
よくよく考えたら、冒険者がこんな山奥に来るのは依頼の為だろう。
今まで冒険者どころか、人すら見かけた事のない山奥で、この騒ぎは珍しい。
もちろん、絶対ではないからこそ、様子を確認しに来たのだが。
思いつく限りで、討伐対象が偶然近くまで逃げ込んできたと云った所だろう。
『私は何も……』
その対象はフードで顔を隠し、体を震わせながら懇願してみせる。
『依頼ではないにしろ、その禍々しい気配を見逃せるほど俺たちBランクの冒険者は甘くない。姿を隠しているようだが、分かるものには分かるんだよ』
冒険者がその対象に剣先を向けて言い放つ。
「魔力に禍々しさとかあるんだ? 視覚化ってできるもんなのかな? 今度試してみよう」
そう思ったのは自分の魔力が他人にどう見られているのか疑問に思ったからだ。
そもそも魔力というのもよくわかっていない。
この分かっていないというのが実は危険な部分である。
たとえば人よりも魔力が多い→隠さなければいけない。
魔力が禍々しく人に害を与える→隠さなければいけない。
魔力? なのそれ→隠さなければいけない。
「生活を中心に動いてきたけど、今後はこの世界に合わせる基準を自分なりに見つけないといけないな」
ちなみに口調も十歳用に訓練した。
一人の時でも元のしゃべり方だと咄嗟の時にぼろが出るからだ。
『種族はなに?』
今後の事を考えている内に、話が進んでいた。
修道服の少女が尋ねている。
「(種族によって対応が変わるのか?)」
ふと疑問に思う。
俺は人族でいいんだよな……。
『……わ、わたしは、人です……!』
震える声で答えた。
『⁉』
『⁉』
『⁉』
ただその回答に「人なんだ」と素直に受け止めた俺とは対照的に、三人の冒険者の目つきが鋭いものに変わる。
それと同時、前衛の剣士が三つの炎弾を上空に発生させた。
「森の中で炎の魔法っっっ⁉」
『フードを取れ』
『できません』
お互いに強い口調だった。
しかし、もはやその対立なんてものはどうでもよくなった。
俺の脳裏には当たり前に起こる事象で埋め尽くされる。
木々が生い茂った森の中で炎をぶっ放したら、山火事必死。
「あいつら馬鹿のBランクだ!」
思わず素の声が出た。
だからといって、こんな状況で飛び出したらどちらの味方に付いても俺という存在の記憶がどちらにも残ってしまう。
理想を言えば、俺の存在を隠しつつ、両者に山を出て行ってもらう。
考えた結果。
答えはすぐに出た。
「無理、そんな良いアイディアはない。そもそも、僕関係ないしね」
幸いここから俺の家までは距離がある。
最悪、山火事になっても風向きによっては被害がない。
人差し指を口に突っ込んで濡らし、風向きを調べる。
「くそっ」
ばっちり家のある方向に風が吹いている。
この問題に向き合うしかなくなった。
『おとなしく斬られるか、炎の餌食になるか選べ』
なるほど。
「斬られる方を選択してほしいな」
『嫌です!』
そりゃそうだ。
『なら焼かれるだけだ』
「それはダメ」
『それはダメです!』
『わがままも大概に――』
修道服の少女の言葉を最後に、剣士の少年の体重が前に傾けられた。
『は、話をっ、話を聞いてくださいっ!』
『問答無用っ!』
「話くらい聞いてあげればいいのに……。ん、あれ、まさか……っ!」
俺が気付いた時にはもう遅い。
前衛の少年剣士が標的へと距離を詰める。
それと同時、魔法使いの少年と修道服の少女は左右から距離を詰める。
――ベキベキッ。
助けを求めた声に耳を傾け、そこに留まり体重を掛けなければ、もしかしたら避けられていたかもしれない。
だが、そうはならなかったのだから、俺は言うべきことを言うしかない。
俺は立ち上がり、手のひらを広げ、腕を前に突き出し高らかに宣言する。
「罠発動っ! 昔作った落とし穴っ!」
三人の悲鳴が天高く抜けて行った。
狩りの為に作ったもので、不思議な能力に浮かれていた時期ともあって、調子に乗ってそこそこ深い。
だが、しかし、腐ってもBランク冒険者、落とし穴の深さが功を奏した。
『――っ、【風のゆりかご(ウィンド)】!』
おそらく浮遊系の呪文。
突然、穴の中から魔法の呪文が発せられたことで俺も慌ててしまった。
「穴をふさがないとっ!」
『――ッ⁉』
だけど、最終的に思うんだ。
誰が悪いかでいうと運がない冒険者が悪いんじゃないかって、だって、すぐそばに落とし穴にちょうどいいサイズの岩があるんだもの。
それは咄嗟に投げるよね、持てるなら。
『岩が降ってきたぁああああああああああああああああああああああああああっ!』
『――そ、それは無理っ!』
『か、か弱い我らに神の祝福を、【籠の小包】っ!』
……………。
…………。
……。
たぶん……、大丈夫だろう。
防御系の呪文も聞こえたし、ただ俺も反省しようと思う。
山のあちこちに仕掛けた罠が未だに健在だったという事実に。
そうして俺は三人の尊い犠牲を背に自宅に帰ろうと身を翻した。
「――っ⁉」
確かに違和感はあった。
まるでその声はこっちに反応しているようで――。
「話くらい聞いてくれるんですよね」
長い灰色の髪が風に靡き、揃えられた前髪が幼さを感じさせる。
しかし、すらっとした容姿に俺より高い身長の少女。
岩を投げる際、腕に引っ掛かったフードが外れ、声の主の姿が露わになってそこにいた。
銀色の瞳に視線を奪われ、俺は動くことができなくなっていた。
ピキッ。
これはまさに――
「――だめっ、まって!」
石化だった。