第28話 邪悪な力
2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。
2021/3/18 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。
この結果を生んだのは俺の所為なんだろうか。
俺が叫んだ瞬間、暴走しているアイミの挙動が変化した。
どこか不気味にニヤリと表情を浮かべ、交わしていた視線から邪悪な黒い気配が俺目がけて伸びてきた。
反応などできるはずもない。
あまりに早すぎる。
たじろぐことも、ビビって後退することもないまま俺は立ち尽くしていた。
すると、目の前に一つの影が間に飛び込んできた。
「ジオラルっ!」
「ジオラルっ!」
二つの叫び声でその正体が冒険者であることが分かった。
そして、分かった時には俺を庇った冒険者は色を失い石へとその姿を変え、地面に放り出される。
何が起きているのか、処理の遅い俺の脳みそではついていけない。
「テトラッ!」
ハットを被った少年がそう叫ぶと土の壁が仲間とアイミとの間を隔てるように作り上げた。
つい先ほどまで俺と鬼ごっこをしていた修道服の少女は俺のすぐ傍までやってくると、何かを唱えながら石化した仲間の元へと辿り着いていた。
「え? え? え?」
その間、俺はただただ状況において行かれ慌てふためいていた。
「くそっ、早すぎるっ!」
展開が?
展開であってるよね。
そうだよね。
誰かに正解を求める暇なく、アイミが土の壁を掻い潜りハットの少年の横にまで来ていた。
ただ手を伸ばし、少年に襲い掛かる。
「――カルバンっ!」
修道服の少女の叫び空しく二人目の犠牲者が出来上がる。
「――くっ、か弱い我らに神の――」
俺からすれば修道服の少女の切り替えも十分早い。
だが、そのコンマの時間すらも暴走したアイミは許さなかった。
すでに、アイミは修道服の少女の後ろにいた。
「――――あ、」
とりあえず、俺は考えるのを止めた。
「――え?」
考えるのを止めてしまえば、簡単だった。
俺の身体よりは一回りは大きい少女を脇に抱え、アイミから距離を取る。
アイミは石化を空振りし地面を石化していた。
そして、突然目の前からいなくなった修道服の少女を探している。
「き、君⁉」
「逃げるか……」
運良く、少女との鬼ごっこにより足の速さは格段に上がっている。
「――っ、だったら君一人で逃げて、そしてギルドに事情を説明して応援を依頼してっ!」
修道服の少女ができる出来る唯一の提案に、
「無理だ」
そう俺は言った。
「どうして、君の早さなら――」
「いや、受付の人に話しかける勇気がない」
想像しただけで人見知りが爆発した。
「はぁいっ?」
「そんなことより、見つかった」
アイミが俺たちの姿を捉える。
「いいから早く逃げッ――きゃ」
距離が開いたせいだろう、今度の石化は遠距離から放たれる。
アイミの視線から邪悪な気配が、周りを巻き込みながら伸ばされた。
「これはきついっ!」
それでも避けることは可能だ。
言ってしまえば拳銃を向けられ引き金を引くタイミングでその場から離れればいいだけ、アイミの視線さえ注意していれば、難しくはない。
ただ、
「追って来るのは卑怯ぉおおおおおおおおおおおお!」
弾丸と違ってあれは石化のレーザービームだ。
脇に抱えた悲鳴をBGMに聴きながら、俺は速度を上げながらアイミを中心に逃げ回った。
辺りが次々と色を無くす。
自然豊かだった木々は風で靡くこともなくなり、固くなった土では植物も生えないだろう。
「自然破壊にもほどがある」
無駄だと悟ったのか、力尽きたのかアイミにレーザービームが止まった。
後者だったらどれほどよかったものか、アイミは地面を強く蹴りこっちへ向かってきた。
当たらない遠距離よりも直接の近距離にシフトといったことなんだろう。
だから今度は、ある場所から距離を取るための方向へと走り出した。
「ハンカチ落としって知ってるか?」
逃げている間、俺は昔の遊びを思い出していた。
数人の輪を作り、鬼役がその後ろを回る。
そして、その誰かの後ろにハンカチを落とし、円を一周するまで気付かれずに、その人を捕まえる。
気付かれてしまえば鬼が交代し、ハンカチを置かれた人が追いかけて置いた人を捕まえる。
だから、最初の鬼役は歩くことも走ることもうまく誤魔化しながらハンカチを置かなければならない。
今思えば不思議な遊びだ。
そして、その遊びが俺は得意だった。
「か弱き我らに神の祝福を――」
離れた場所から魔法が唱えられた声が聞こえる。
その声に、アイミは足を止め反応して見せた。
「ふふん、いつから悲鳴が聞こえなくなったでしょうか?」
ついでに俺は人をおちょくるのも好きだったり。
作戦などない。
これはただの思いつきだ。
そもそも修道服の少女もハットを被った少年も何かをしようとしていた。
それをアイミに邪魔されたのは明白。
だったら、おとりがいれば、それができる。
幸い目隠しになる壁も存在していたのだから、俺は追われている最中、アイミに気付かれないよう修道服の少女を落としていけばいい。
「『女神の吐息』っ!」
修道服の少女により二人の冒険者に魔法が掛けられる。
「さて、よくわからないけど、これで俺の出番は終わりだな」
石化した草木が蛇になって捕まえに来るなんて聞いてなかった。
魔法の確認の為に足を止めたのが仇になった。
俺の足は石の蛇によって拘束される。
アイミは再び俺を視界に捉えた。
「まったく……俺をバトルファンタジーに巻き込むなよ」
アイミに語りかけるが、返答はない。
足に纏わりつく蛇たちを起点に、石化が足元からやってくる。
そこに恐怖はなかった。
遠くの場所で修道服の少女の叫びが聞こえた。
どうやら、俺の心配をしてくれているようだ。
ただ、そんな心配よりも、やらなければいけないことがあるだろ。
「あとは任せるからな」
――ピキッ。
三度目になる石化は、とても強固なものになっていた。




