第26話 怒りの矛先
(古)26話『中村正』→(新)26話『怒りの矛先』
サブタイトル、本文、書き直しました。
ひとまず20話~25話大幅に書き直し完了しました(またやりそうですが……)。
その関連で話数が増えています(一話分)(過去25話~現在26話)
以前、読むんでくださった方は分かり辛くて申し訳なく、
初めて読んでくださった方は20話からの前書きお気になさらず、
そして、今後ともよろしくお願いいたします。
2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。
2021/3/18 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。
俺は目を疑った。
巨大な石の大蛇も、それに襲われた冒険者にも、その上空から降り立ってきたアイミにも、何が起きているのかわからない。
「どうして……」
なによりも、
「なにもない……」
轟音から鬼ごっこを差し引いても大して経っていない間に、全てがなくなっていた。
家や畑、丸太の椅子や、出来の悪いハンモック、全てが……、姿形どころか素材すらなくなっている。
予定していた敷地面積も無駄に広がり、これでは荒れ果てた荒野だ。
「……いったい何が?」
身体から力が抜ける。崩れた先で柔らかくなった土が膝を支える。
「……なぁ、アイミ何があった?」
ことの経緯を知りたかった。
「それよりも大丈夫か? 俺の所にも冒険者がきたんだ」
力が抜けきった体で顔をあげるのが億劫だ。
「………………」
アイミから返答がない。
「なぁ…………?」
俺はもう知っている。
「なぁ……」
アイミが冒険者から狙われる理由を。
「なぁっ!」
暴走――、もうあれはアイミではない。
「…………俺は異世界ファンタジーの主人公じゃないんだ。戦えないぞ」
認めたくなかった。
認めたくなかったけど、俺は重い頭をあげ、そこにいるアイミを見上げた。
フードから解放された灰色の髪がうねうねと蛇のように揺れ動き、久しぶりに見た銀色の綺麗な瞳が無感情の表情をより強く映し出す。
目が合っていることへの違和感。
自然とアイミから漏れていた黒い気配を見る。
溢れ出ていた気配は意思を持っているかのようにアイミの身体をまとわりつき覆っている。
「これが……暴走?」
俺は地面の土を握りしめた。
「折檻しますっ!」
わけのわからない掛け声とともに、そのタイミングで修道服の少女が追いついてきた。
結局、修道服の冒険者との鬼ごっこは意味がなかった。
「暴走……している? ――ッ、ジオラルとカルバンはっ⁉」
アイミの姿を見るなり事態の把握が早い。それも予想の範囲に入っていた事なのか……?
「だとしたらっ」
悪いのはだれだ。
俺の怒りの矛先が明確になる。
「いまだぁああああああああああああああっっ」
瓦礫となった石の中からくぐもった声が聞こえる。
アイミが足元の瓦礫から跳び跳ねた直後、火柱が上空へと放たれた。
火柱が瓦礫を吹き飛ばしその中から二人の冒険者の少年が姿を現す。
「ジオラルっ、カルバンっ!」
仲間の二人の安否に安堵した声を出した。
「テトラかっ、ってガキまでいるのか!」
「ごめん、この子――」
「その話は後だっ! アレは想像以上にやべぇっ」
悲しいかな、冒険者の一言に、この惨状の発端に怒りを覚えるよりも先にアイミの方を何とかしないといけない。
「アイミっ!」
俺は届いているか分からないが声を上げた。
なぜなら俺は気づいてしまったのだ。
火柱を避けた後もアイミの視線はずっと俺を追っている。
眉ひとつ動かさず、スマートな立ち姿を維持したまま、まるで何かを訴えかけるように、銀色の瞳は俺と視線を交わしていた。
だから、言わなければいけないことがある。
――すぅうう。
目一杯空気を肺に送る。
そして、俺は気が付いた事実を叫んだ。
「暴走した方がコントロールできてんじゃねぇかぁああああああああああああああああ!」
二度三度と目があっても俺は石化していない。
「……………………ん?」
「……………………ん?」
「……………………ん?」
そうじゃないだろうといった空気が一気に漂った。




