第25話 ゴーゴン
(古)25話『新しい波』→(新)25話『ゴーゴン』
サブタイトル、本文、書き直しました。
2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。
2021/3/18 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。
「『石壁』」
カルバンが唱え、ジオラルの前に大きな石壁ができるとその周りが石化する。
「互角かっ」
「いや、このままじゃまずい!」
すでに辺りが石化し、さっきまで燃えていた家も木々も石化している。
「くそっ、近づく事すらできねぇ」
石壁の影に隠れながら、ジオラルは悪態を吐く。
「すでにSランク案件気を抜いたら一瞬で終わってしまう」
「わかってるよ、だがどうする? このままじゃあ、らちが明かねぇぞ」
すでに少女の面影は物語にでてくるゴーゴンに酷似してきている。
髪は蛇のようにうねうねと意思を持つように動き、カウンターの要領であたりを石化している。
手も触れず石化させられることに、手立ては限られていた。
「勝負は一瞬だ、僕が囮になる」
「目は見るなよ、あそこが一番やべぇ」
「避けたりは?」
「視線が合えば無理だな、今だって気配でぎりぎり避けてるだけだ」
「動かないのが唯一の救いか、とりあえず――」
「――カルバンッ!」
まるで会話を聞かれていたかのようなタイミングで、ゴーゴンたる少女の行動に変化が起きた。
石壁の隙間から禍々しい気配と共に、現れる。
「――ッ、『石壁』!」
全てがぎりぎりだ。
石壁から出てきたゴーゴンに対し、視線を合わせることができず一定の距離を保っていないと、地面ごと石化されてしまう。
カルバンが再びゴーゴンとの視界を遮り、後方に飛ぶ。
そこにすかさず、
「カルバン、跳べっ!」
指示が飛んだ。
「『炎の斬撃』ッ!」
「――っ!」
跳んできた炎で包まれた斬撃を横に跳び回避した後、少しでも威力を落とさないよう土壁を崩し解除する。
――直撃。
土煙と炎撃によって作られた煙幕でゴーゴンの姿が見えない。
「カルバンッ、追撃だ!」
姿は見えずとも気配はそこにある。
「『風の刃』っ!」
疑う余地も、理由もない。
カルバンは風の精霊から風の刃をゴーゴン目がけて放つ。
当たった――カルバンは疑わない。
当たった衝撃で土煙と炎幕が吹き飛んでいく。
その瞬間、二人の冒険者は目を疑った。
「う、ウソだろ……」
「せ、石化なんて……」
炎の刃と風の刃の形をそのままにゴーゴンの少女の手の中で石化させられていた。
「実態のないものまで石化できるのか……」
そんな一言を呟いている暇などなかった。
石化された二つの斬撃が、ゴーゴンの手によってブーメランのように返される。
カルバンは再び横っ飛びでそれを回避。
ジオラルは新たな追撃に空へと跳んだ。
転がりながら回避したカルバンの視界がゴーゴンから離れる。
再びゴーゴンに視線を合わせた時、そこにゴーゴンがいない。
……どこに?
考えるよりも次の『石壁』の準備に入る。
ぞわり、と嫌な気配が後ろに出現した。
「後ろだっ、カルバン!」
振り返りながら仲間の声に反応して呪文を唱え始めた。
その瞬間、後ろの影が動かない。
人とは似ても似つかない石像が出現していた。
「――スト、違うッッッ! ジオラル君の方だっっっ!」
視線を合わせないようにするため気配を追うジオラルよりも早く、ゴーゴンはジオラルのさらに上に移動していた。
「化け物めっ」
何かを掴むように伸ばされた手に向かって剣を振るう。
切り裂く衝撃など来るはずもない。
態勢もままならない振られた剣は、そのままゴーゴンに掴まれた。
鉄で出来た剣の先がみるみる色を変え石化していく。
ジオラルは巻き込まれる前に剣を離し、呪文を唱える。
「暴れろ炎よっ! 『爆炎』」
至近距離で良い精霊術とはいえない。
本来であれば、遠距離から放ち爆発させる術だ。
しかし、この距離で選んだのには理由がある。
ゴーゴンとの間で爆発が起き、そのまま爆風によってジオラルは地面へと吹き飛ばされた。
勢いよく落ちてくるジオラルに、カルバンは手を翳す。
「『衝撃吸収』」
柔らかい風に身を任せ、ジオラルはバウンドした後地面に着地する。
「大丈夫か?」
「助かった、んで奴は?」
駆け寄ってきたカルバンに戦況を求めるが、聞かなくても分かっていた返答しか来ない。
「爆風で、さらに上に上がったようだけど……」
晴天の隙間に黒い点が降下してきている。
「よし、掴めねぇほどの斬撃喰らわしてやる!」
「いや、たぶん無駄だろう」
「なんで⁉」
「炎の斬撃も風の刃も掴んでから石化されてたわけじゃない。石化してから掴んで投げ返してきているだけだ」
「じゃあ、どうするんだ! 身体能力ですら、化け物だぞ!」
カルバンは息を整えながら、辺りを確認する。
「捕まえる」
両手を翳しながら、土の精霊との契約の元、辺りにある石化した素材へとカルバンの源素を送るはずだった。
しかし、その回路ともいえる伝達が途中で切られた。
「まさか――」
「なんだ……?」
「石化したものも操れるのか……」
よくよく思い出してみれば、後ろに出現した石像も同じ手段。
地面から引きはがされるように地響きが鳴り始める。
石とは似合わない動きで、うねうねと風景を模っていた石の彫刻達が次々と合わさり形を変えていく。
一つの胴体から石の蛇がいくつも生え出てくる。
「ヒュドラでも作んのかよっ!」
「元来、ゴーゴンは蛇を僕にしていたとか」
「んな事、言ってる場合かっ!」
石で出来た卵から複数の大蛇が二人を囲んだ。
その頭の数は、三つ。
大きさは、丸太を十本まとめたよりも大きい。
口は動いたりはしない。
しかし、
「上からゴーゴン」
「下には大蛇が三匹」
逃げ道は塞がれた。
石化か衝突か。
蛇が突進を開始した。
「「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」」
叫びと共に、怒号が響き渡った。




