第29話 悪天候
翌日の天気は大荒れだった。
この国に来てからは初めてのことだ。
少しだけナーバスになる。
この世界に来てからの雨はいい思い出がない。
俺はテーブルに置いてあった指輪の箱を開ける。
すでに結論が出た可能性に、未練たらしく同じことを繰り返した。複数ある指輪を嵌め、源素を感じられないことを確認。
「ほんとに、希望だけ見出すなよ」
たった一度の変化にどれだけの希望が詰まっていたのか。
クノはどれほどの想いで可能性に賭けていたのか。
俺はどこまで本気で源素を取り戻したいと願っていたのか。
「はぁ」
一応、報告をしに行った方がいいのだろう。
きっとクノはすでにこの状況を知っている。
この国はクノだ。この国の中にいる限り、クノは全てを見ることができるらしい。
「こちらタダシ、応答願います……」
少しの羞恥と諦め半分で反応を待ってみる。
当たり前のように反応はない。
悲しいかな、お前が来い、という事なのだろう。
「はぁ……、憂鬱だ」
悪い報告だけをしに行くのはどこの世界にいても変わらない。
俺は最後に嵌めた指輪を箱の中に戻して、部屋を出る。
もちろん、昨日の今日だ。
外出するにしても一度、上司であるアージュさんに連絡は入れておいた方がいいに決まっている。
ついでに、カレン辺りもいれば、クノの正確な居場所を聞けるかもしれない。
たぶん、あのキープダンジョンにいるとは思っているけど。
部屋を出てから少し歩いていると、静かすぎる王宮内に違和感を覚える。
「誰かいませんかー?」
大声とはいえない声量を出してみても反応がない。
それどころか、声が壁伝えに反響さえしている。
「え、誰もいないってことはないよな?」
妙な雰囲気に、頭を傾げながらも俺は人がいるところまで移動し始めた。
そして、この時まで、この国の異変に気が付いていなかった。
この国で天候が荒れるという意味を――。
お昼ごろにもUP予定




