第28話 頭脳は低め、見た目は子供・・・・・・
しこたま怒られた。
宮殿に帰るなり、仕事の放棄と王族であるナイカを勝手に連れ出したとして、宮殿中のありとあらゆる関係者に怒られた。
悲しいかな根が真面目な俺は凹んだ。
言い訳はある。
商人であるエーティさんを探す用いったのはカレンとクノである。
当然、後ろ回しはしてくれているとご都合主義に甘えた結果、異世界での現実は甘くなく、俺はただただ仕事をさぼっただけ。
本当の現実世界では基本的に社会の犬である俺は、社会人になってから風邪の一つだって引かなければ、欠勤だってしたことがなかった。
それだけに今回の件はひどく凹んだ。
さらにナイカの件に関しては俺、何もしていない。
誰もナイカに注意できない所為で、全て俺が悪いことになっている。
いや、理解はしている。
誰かが罪を背負わないと落としどころがないのだ。
だから俺はこの件に関しては早々に諦めた。まぁ、注意している側も何で起こっているのか理解できていなかったのだから。
本来の目的を遂行できなかったことに加え、俺が唯一誇る、真面目部分が崩壊したことにより、俺は名誉挽回といつも以上に、その後は必死に働いた。
だから、仕事が終わる頃には日が落ちていた。
エーティさんに預かった指輪の箱を無造作に部屋のテーブルに置く。
ベッドに身を投げ出し、あの後の事を思い出していた。
エーティさんは指を三つ立てる。
「考えられる可能性は三つです」
俺とナイカは静かに聞く。
「一つ、タダシ君の中で何かが変わってしまい指輪の効果を拒絶してしまうようになった。一つ、指輪の属性。つまり、元来タダシ君が使えた場合、火の源素が適正だった」
ナイカが首をかわいく傾げながら尋ねる。
「それって、タダシが本来源素を使えたら火属性だったってことなの?」
「可能性としてですが、だからこそ、宮殿の中ではあの指輪だけが反応を示した」
俺は少し考える。
火属性の冒険者の源素の色は赤だった。
そして、俺の源素の色は白、おそらくそれは違うだろう。
だが、その説明をできないので、話は最後まで聞く。
「でも、それだったらどうして壊れたの?」
「それは……」
あくまで推測に過ぎないし、俺としては間違いなくそれだけは違うと知っているので、もう一つの可能性を促す。
「もう一つあるんですよね?」
一番食い付きが悪い俺の反応に戸惑った様子を見せるエーティさんだったが、それ以上突っ込まれたくなかったのだろう。
「え、あ、はい。最後は、空虚症の特性」
「「エンピネス?」」
俺とナイカは同時に聞きなれない単語に頭を傾げた。
「ご存じなかったですか? そうですね。説明いたしますと、」
さすがは研究者としてはある。
きっと、指輪の開発で色々と調べたのだろう。
長い説明が始まった。
「この世界に生まれたモノは源素を持って生まれます。その中でも人間と呼ばれる生物。つまり世界人口の大半が人間の血が混ざっています。ですが、人間は元々源素を扱うことができません。そこで精霊契約を結ぶ。ところが、空虚症の者は初めから源素というエネルギーを持っていません。なので、精霊契約ができない。ある研究者によると、核となる器が存在していないそうです。厳密には、器事無い者、器があっても源素がない者などそれぞれだと言います。さらに言えば、人と呼ばれる存在以外、魔獣なんかも源素を持っていますが、彼らはそれを精霊とは違う形で源素を使えます。逆に使えないものを動物と分類されます。ただ、ここで不思議なのは、源素は大いなる力です。ですが、源素を持たない生物も確かにこの世界に生きている。そこで、不思議な存在なのはどちらか、源素という力に対抗できる力を持つもの、そして、魔獣と分類される、魔王の力の影響を受け生まれたモノ。調べ始めたらキリがありません」
最後はどこか悦に浸るように語るエーティさんだけど最後のほう、俺に関係なくない?
つまり要約すると、
「俺は器があって、可能性としては火属性だった(俺のなかでは絶対にない)」
「え、ええ。そうですね。可能性の話でしかないですが」
「じゃあ、えんぴねす? の特性っていうのは?」
困ったように顎に手を当て考え込むエーティさんを不思議にみる。
「空虚症の特性に関しては実は研究がほとんど進んでいません。言い方はアレですが、そもそも世界人口に対して数がそう多くないのもそうですが、器の例もあり規則性がない所為もあり、特徴が掴めきれていないのです」
「じゃあ、全然わからないってことなの?」
コクンとエーティさんは頷く。
だが、俺は返って納得していた。
エーティさんが俺に協力的な理由に。
それと同時、俺とは別の症状であり役に立たないという事も明確に理解した。
どちらかといえば、俺は源素を使い果たしたといった表現の方があっていたからだ。
誰かが言っていたが、源素の無茶な使い方が原因だとすると、どれも当てはまらない。
「一つ伺ってもいいですが?」
「ええ、もちろん」
「源素が欠乏した場合の症状はわかりますか?」
「欠乏ですか?」
意外な質問だといわんばかりの反応は理解できる。
欠乏、すなわち源素を使っての消費だからだ。
だが、研究者であるエーティさんは、少し違う反応を見せる。
「なるほど。源素が元々なかったわけではなく。何かしらの理由でなくなってしまった。それも記憶が司る前に起きた出来事なら覚えてもいない、とそういう事ですね」
「あ、はい」
違うけど、俺はそう反応するしかなかった。
「欠乏症ですか……。確かに、中にはそういった冒険者がいたと聞いたことがありますが。これもまた実例が少なく、私が知る中にも残念ながら」
「そうですか……」
「欠乏症って源素の使い過ぎで一時的に使えなくなるってやつだよね?」
「そうですね」
「欠乏症はいずれ回復するよね?」
「一般的にはそうです。ですが、中には……」
そこまでいうと何かに気づいたようにエーティさんは俺を見た。
悪いけど、俺はそれを本気で隠す。
「まぁ、俺は使ったこと自体ないけどね。もしかしたらって思っただけ。生まれた時の事を聞きたくても親もいないし(この世界では)」
「それは、言い辛いことを言わせてしまい――」
「最初っからいないので、お気になさらず」
っていうか、もはや異世界ならデフォに近いほど、そういった孤児は多いだろ。
しかし、真面目な話が続くと俺の中の年齢が出てきてしまうな。
一度大人になると子供でいるのが難しい。そう考えると、尊敬するぞ、頭脳が大人の名探偵よ。
「ふふ」
思わず思い出し笑いをすると、ナイカに白い目で見られたのだった。




