第24話 白
(古)24話『天罰の犠牲』→(新)24話『白』
サブタイトル、本文、書き直しました。
2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。
2021/3/18 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。
思い描いていた冒険者は俺の中で甘く見ていたのかもしれない。
それは俺の中にある少ない記憶のせいだろう。
身体能力を向上してもなお、修道服の少女を振りきれないでいた。
「まいったね」
それが経験からくるものか、俺自身にこういう経験がないからかもしれない。
最初はよかった。
家の方向へ逆走し、それが相手の裏を突いた。
それなのに、冒険者である修道服の少女は俺を見つけ出し、追跡を繰り返す。
「いいいい、一体君は何者なのっ⁉」
お互いに攻撃に意思がない。
だから、軽口にも似たそれは何度と呟かれた。
確かに十二歳の子供が木々の枝を飛び越え、あっという間に数キロを飛び跳ねれば驚きもするだろう。
無駄だと悟ってからは木に身を隠しながら逃走を続けた方がまだマシで、蛇行逃走が続く。
返答はしないでおいた。
正確には考える事に時間を使っているのでその余裕がない。
本当に、よくあんな修道服で移動できる。
枝やらで普通なら破れそうなものだ。
俺の服のように……。
「(いろんな意味で)困ったなぁ」
アイミと家の状況が気になるが、邪魔者は少ない方がいい。
そう思って、修道服の少女を振りほどいてから、向かう予定だったのに。
「試すか」
少しだけ後悔がある。
俺はこの世界にやってきてから、できる事を試したことがいくつもある。
だが、生きるという前提に大部分を使っていたため、できる事と使える物を選定して以来、それ以上の事をしてこなかった。
その所為もあり、試してできた事の大半を忘れ、そればかりに頼るようになった。
試すにしても、賭けには出られない……というよりも出たくない。
「大きく分けて三つか……」
『種の急速成長&強化』
今となっては使うという意味では一番多いと思う。
生きるための食物を育て、金に換え生活を作る。
『回復』
最初の内はもっとも使った。
山の中を動き回り、枝や尖った石などで小さな傷ができない日がなかったからだ。
しかし、それも次第に少なくなった。
山に慣れたというのもある。
ただそれよりも、『身体能力向上』を自然に使うようになったことの方が多くなってきたからだ。
『身体能力向上』
多少の事では身体に傷を負うこともなくなり、危機的な状況でも身体能力のみで回避できる。
それが続けば、自身に使う分コントロールもしやすく、使っている意識が薄くなり、呼吸をするのと変わらなくなった。
結局のところ、
「勝手に馴染んだ『身体能力向上』を意識的に上げるくらいか」
ただイメージすればいい。
早く走るでは遅い。
つま先で地面を強く蹴り、跳ぶ。
足を動かす回数よりも、歩幅の一歩を極端に伸ばす。
「保険は懸けとくか」
木を足蹴に枝から枝に移動方法を戻す。
「まだまだ甘いっ、私は動ける聖女っ!」
当然のようについてくるが、時間も掛けたくないのでいっぺんにツッコんでおく。
「動けるデブみたいに言うなっ、自分で聖女って頭おかしいのかっ、錫杖を杖みたいに使うな!」
「使ってなっ――え⁉」
一瞬の油断、その瞬間、俺は修道服の少女の後方の下にいた。
「敬語を使え聖女様」
「いつの間にっ!」
練習では問題ない、もう少し早くできる。
「最後にもう一つ」
これが最大の保険だ。
「下着の色だけは聖女でよかった」
そう彼女は俺の上にいる。
顔を真っ赤にしながらばっと修道服の裾を押さえ、階段を上るスカート姿の女子伝統のガードをして見せた。
「このっ――」
その動作も、視線の動きもこれから言うはずの罵倒も全てが遅い。
地面にへこんだ足跡だけを残し、俺はその場を後にした。この後起こる素敵イベントの存在すら知ることなく。
「くぅ~~~~~~~っ」
残されたテトラは悔しそうに歯を食いしばり、修道服を抑えながら地面に着地する。
すぐに追わなければいけないと思いつつ、テトラは辺りを見渡した。
念には念を入れ、声を出してもやはり少年は移動した後のようで、いない。
それを確認したのち、錫杖を大木に預け修道服の裾を掴んだ。
そぉーっと持ち上げ、聖女とは思えぬ行動を取った。
「うぅ、ばっちり見られた」
修道服の性質上、下着の色の確認は脱ぐか、捲るかの二つしかなかった。
修道服を元に戻し何事もなかったように、
「折檻ですっ!」
気にすべきことは多いのだが、意外にも敬語が一番刺さった様子だった。




