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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第七巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第25話 夜空の下の語り部③

クノは俺の顔をじっと眺める。


おそらく、クノも俺と同じことを考えたのだろう。


「わからんな」


俺に何ができるのか、そもそもなぜここへ来たのか。


今度は、俺の事情を説明する必要が出てきた。


だけど、簡単には説明できない俺は、悩んでしまった。

その一瞬を見逃さないクノは当然尋ねてくる。


「話せ」


別に隠そうとしていたわけではない。

だが、俺は気が付いてしまった。

クノは、いやこの国が今必要としているのは、旧友だったシンが送り込んできた助け舟であるということ。


だけど実際は、助けを求めに送り込まれているという事実。


それは、期待を裏切るのに他ならない。

それが、どうしてもいたたまれなかった。


「あー、と」


なんて言っていいのか悩んでいる俺に対してクノが選んだ言葉は、意外にも優しいものだった。


「どのみち話せ、利害はこっちで判断してやる」


侮蔑というか、隠し事をしている風にとらわれても仕方がない状況でクノは、本当にこの国の事を一番に考えているのだろう。

これで俺が頑なに隠し通す道は選ばない方向へもっていく。


そう言われれば、前置きをした後、話し始めた。


細かいことは極力端折る。

面倒だと思ったこともあるけど、俺はあまり説明が得意ではない。

それでも、この年齢ともなれば、相手に伝わる言い方くらいは学んでいる。


箇条書きのような説明でもあってもだ。


要点は三つ。


一つ、もともと源素は使えていたこと。


二つ、その源素が使えないこと、その経緯。


三つ、最初は回復していたはずだが、いつの間にか他者の目ですら全く感じられなくなっていること。


最後の一つに関しては、そうとう特殊な人物であれば体内(なか)に感じることはできるらしい。


それだけを説明し終わると、俺は恐る恐るクノの顔を覗き込んだ。


何かを考えているようで、思っていた反応はない。

それがまた怖いので、俺は逃げるようにカレンに視線を移す。

カレンは首を振り、何を考えているのかはわからない様子だった。


どれほどの時間が経ったのか、ふいにクノの視線が俺を捉える。


俺は生唾を飲み込み、緊張した。


短く吐かれる息のあと、


「……なるほどな、理解はした」


何をと聞けず、次を待つ。


「お前がここへ送られて理由だ」


それはがっかりしただろう。


「あのじじいは、お前の源素を戻す手段の可能性としてここを目指させた」


そうなんだよねー。

俺もうっすら気が付き始めてはいた。

クノは俺が異世界人だということを悟り、『見た目のままの存在かも怪しまれるというのになぁ』という台詞。

シンと同様、クノもまた俺の中に眠る源素を感じ取れる存在。


だが、続きがある。


「そして、その源素が役に立つ可能性がある」


「え、そうなの?」


俺は思わぬ可能性に驚きを隠せない。


「だから、お前はここへ来た」


「ちょっと、よくわからない」


「本題であり、ダンジョンの話だ」


ダンジョンとは、いまだ解明されていないコアを軸に生まれる。

そしてそのダンジョンコアは、源素を生み出しているわけではなく。

自然界に存在している源素を吸収し成長を遂げる。


「たかが人間に無茶なことをさせる。あのじじいがお前にしたことは自然源素のコントロールだろう」


「え⁉ そう!」


「おそらく、外からの源素を与えることで、中にある源素を飛び起こそうとしたのだろう」


そういう説明俺にはなかったなぁ。


「だが、うまくいかず、それができる唯一の存在でもある私の所へ寄こした」


そして、クノは頭を抱えた。


「それは無理だ」


「んえぁ」


「結論を言おう。今この国、いや私とレンナに起きている問題は同じだ」


クノはちらりとカレンを見た。


「レンナが私に渡している源素は足りていない。その分を補っているのが自然源素だ。だが、自然源素の吸収は私の意志で行われているものではない。それこそ、自然に行われている。人、もしくは生物でいうなれば、皮膚呼吸と同様」


「意志でどうなるものではない……ね」


そして、それが問題になっている。


「足りない状況が続くと、当然補おうとする」


あれ、それなら問題ないのではないかと思ったけど、


「……過剰供給」


カレンが重々しく答えた。


俺が疑問を口にする前に、一つの答えが話される。


「本来、契約は精霊の専売特許だ。与えられた源素の代わりに、属性の源素へと変換し、契約者はそれを行う。当然、源素を与えられなければ契約は成立せず、破棄される。だが、私の場合、契約の破棄は、この国の存続ができなくなる。そもそもダンジョンである私が契約を結ぶこと自体特殊でな。契約破棄は一つの方法を除いては不可能」


話の流れで思わず尋ねてしまった。


「でも、方法はあるんだ?」


聞いて後悔する。


「契約者、あるいは私が死ねば契約はなくなる」


驚きはしない。

小さい可能性すらないからこその俺だったわけだから。


「事実、ないわけね」


そして、問題の根幹。


「過剰供給の行きつく先、」


例えば、パイプの中に水を送り続ける。

その先に限界が来た場合。

パイプは破裂し破壊されるだろう。

しかし、その前に起こることがある。

供給側が空になり、そこに隙間があるのならば、水は戻ろうとする。


「逆流……か」


「もちろん破裂するわけではない。が、自然源素は人にとって毒になる」


「毒……?」


「生物には共通して源素に色がある。それ以外の色は基本的に害だ」


「自然源素の色って……」


まだ源素が見える時のことを思い出す。

それは細かい粒子がいくつもの色で空間を飛び交っていた。それが押し寄せてくる。

一人の人間の中に。


「まずくない?」


契約の破棄も、補うべき正しい源素もない。

八方ふさがりの状況で返事は返ってこなかった。


俺も少ないながらも、できる限りのことを考える。


話の中で自然源素のことを思い出したけど、自然源素を集めるくらいはできる。

でも、それだと意味はない。

集めたところで、結局は同じ事。可能性があるとしたら……。


「源素さえ使えれば、俺がレンナさんに分け与えられるのに……」


おもむろに昔を思い出し、呟いた。


すると、静かに時は流れた。


カレンとクノの視線がぶつかり、最後に俺を見る。


やがて、つかつかとクノが俺の前まで歩み寄ると、小さな背丈で俺の襟元を掴み、引っ張った。


クノの顔が目前まで近づく。


ドキドキした。


だって……、


「おいっ、お前のことを全て隠さず話せ!」


過去にないくらい血管を浮き彫りにした怒り顔がそこにはあったのだから。


引き続きよろしくお願いいたします。

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