第24話 夜空の下の語り部②
「そうだなぁ、どこから話したほうがいいかな?」
いつもの口調で語り始めるや、長くなるのかなぁ、と一瞬思う。
疲れているけど聞かないわけにはいかず、覚悟を決める。
すると、
「どうせこうなると思っていたから、私が話そう」
どこから現れたのか、クノがそこにはいた。
「わっ、びっくりした!」
てっきり、クノはダンジョンからしか出られないと思っていたが、よくよく考えてみるとこの国全体がダンジョンだった。
疲労が深く考えることを拒否している。
もはや些細な事かと簡単に受け入れられた。
「驚いた割には、拍子抜けだな」
「むしろ、今なら何でも受け入れられそうな気がするよ。あ、なによりも、事情を話す気になった方がオレとしては気になるかも」
「どのみち話すつもりではいたさ。だが、簡単なことではない」
まぁ、いろいろあるのだろうと俺は流した。ふと、なんとなくシンの顔が思い浮かぶ。
「気に食わんな、その面」
無茶苦茶だ。
「クノ……」
「心配するな、まだ問題ない」
静かにしていたなと思っていたカレンは、どことなく心配するように面持ちでクノに話しかける。
これまた何かあるのだろう無粋な真似はしない。
それに、まだ、ってのが俺じゃなくても気にかかるだろう。
「さて、そうだな」
そしていよいよ本題へと移り変わる。
「カレン、レンナ、ナイカ、その父親についてからまず話そうか」
「国王ってこと?」
「正確には初代国王だな」
「ん?」
初代ってことは、この国は設立されてから日は浅いということなのだろうか?
そんな疑問が浮かぶ。
その俺の表情からクノとカレンは顔を見合わせる。
「お父……、父はクノと最初に契約を交わした人間なの」
意味が分からん。
「単純な話だ。国と認められるようになったのは先代の王である、この子達の父親が初めというだけの話。私が意思を持ったダンジョンとして成ったのは遥か昔の話だ」
まぁ、いいや。
「それが、なんの関係が?」
「ダンジョンは所詮ダンジョンだということだ」
「クノっ⁉」
言い方にカレンは食って掛かったが、それに対し笑みを零してクノは片手で静止する。
「ダンジョン内部を成形するに辺り、外の世界、ましてや人が暮らしている世界を創造するには私は外の世界を知らない。だから、人つまりプルーム王と契約をしたのだ」
「契約でそんなこともできるんだ」
「厳密には、元々人が私の中に住み着いていた」
なんだかすごい表現だな。
「だが、人が暮らしていくには過酷ではあった。そこで、源素を用いて人が暮らせる環境を作り上げた。もちろん、そのためには源素が必要だ。元来ダンジョンの中は、形は変わっても環境までの変化には長い年月を伴う。しかし、それを可能にしたのが、源素の供給」
「あー、王様の源素を使って急いで変えたと」
「端的に言えばな。加えてプルームは世界でも屈指の源素の量を誇っていた」
あれ、でもそうなると、今は? ということになる。
先代の王がカレン達の父親だというならば、現国王はカレンだ。
世代交代というにはカレンもまだ若い部類に入る。
あくまで俺が元居た世界の話で言えばだけど。
「隠すことでもないからいうが、この子たちの親は病気で亡くなっている」
こういう時のリアクションに困る俺。
とりあえず、適当に返事を返す。
「暗殺とかじゃなくてよかった。いや、良くはないか」
思いつかなかったとはいえ、なんてデリカシーのなさだ。
自分が嫌になる。
もっとこうスマートに答えられたらと、こういった場面じゃなくとも思う。
「言いえて妙だが、とらえ方次第だな」
クノはクノでデリカシーがない。
というよりも、長い時間で、もしくはダンジョンだからか人に対しての死の受け入れ方が違うのかもしれない。
「話を戻そう」
カレンの様子を見ても昔を懐かしむ様子で、悲しんではいないようだ。
ひとまず安心する。
「ただ、プルームが死に源素の供給がなくなった」
形成って言葉だけを考えれば、それはすでに済んでいるといっていい。
その後も源素必要になるということは、
「維持にも使うってこと?」
クノの代わりにカレンが頷く。
「外からこの国を見ただろ」
今となっては懐かしくなった、来訪の時を思い出す。
「そういえば、この国浮いてたっけ」
「厳密には浮いてはいないが、そこはまぁいい。しかし、あれはこの国を外部から守る守護の役目を負っている」
なるほど、だから未だに源素の供給が必要ということなのだろう。
まぁ、おそらく、それ以外にも必要なことはあるのだろうが、俺にわざわざ話す必要もない。
「あー」
ここまで聞いていく中で段々とわかってきたことも出てきた。
三姉妹の中でひと際違った体質を持つ存在。
話の流れでは源素をより多く持っているものが、クノと契約をした方がいい。
だが、先代の王であるカレン達の父親は屈指の源素を持っていた。
それが子達に受け継がれたかといえば、そうじゃなかった。
そうなると、契約はしたが、源素を根こそぎ持っていかれていると考えれば、
「気が付いたか?」
「レンナ様と契約した……している」
クノとカレンが静かに頷いた。
俺は頭を抱える。
おそらくそれが今回の問題の根幹だと気づいたからだ。
あげられるものなら上げたいが、俺はある時を境に源素を全く使えなくなっている。
下手をしたら、それこそ無くなっているかもしれない。
そんな俺には何もできることがないじゃないか。
わからない。
どうして、シンはこの国がある方へ俺を向かわせたのか。
そもそもシンはこの事態に気が付いて俺を向かわせたのか。
もしくは、俺の源素の手助けになるために向かわせたのか。
クノと出会った時の、クノの反応からすればシンとの間に何か連絡を取っていたわけではない。
お互いがお互いにに手助けを求めていたとするなら……。
「……俺は何をしたらいいの?」
俺は恥を忍んで訊くほかなかった。
遅くなりました、最新話です。
夕方にもう一話UPします。
遅くなった理由は、活動報告に書いておきます。
興味のある方はご覧ください。




