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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第七巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第23話 夜空の下の語り部

ぼふん、と用意された自室のベッドへ倒れこんだ。


本当に大変な一日だった。


王族の付き添いで町へ出て、いきなりダンジョンに放り込まされた。

挙句に、この国そのものであるクノに出会い。ナニかを手伝えと頼まれた。


その実情、内容はまだ語られず。


その理由も俺の信用がないという、理不尽極まりないことだった。


死に物狂いで帰ってきてみれば、早々に怒られる始末。さらにはその被害者として一人の商人が追い出された。


そのまま一日が終わればよかったが、残念ながら使用人としての仕事はその後も続き。

集中力散漫な俺には無難に終えることもかなわず、各方面から説教とお叱りを散々浴びせられた。


体力、精神力ともに低下に付き、寝たい……。


ただ、疲れがピークを越えて逆に寝られない。


倒れた体を倒し腰掛け、窓から見える夜空を眺める。


「……散歩しようかな」


なんとなしに口にしたその言葉に従うように、静かになった王宮の外へと向かう。


静かになったと言っても、警備兵の一部は護衛と防衛で今も王宮の中、塀の外で今も働いている。

これでまた俺がうろちょろ歩き回っていたら、再び怒られるのは請け合いである。


俺は静かに扉から顔を出し、左右を確認。


目的はベランダがある大広間。


最後の最後まで叱られる一日であってなるものか! 

そんな疲れた脳みそは大人しく寝ていろ、とは冷静な判断をしてはくれなかった。


案外、普通にしていれば気づかれることもなく、大広間のベランダまでやってきた。


ベランダと言っても、さすがは王宮。

腰掛ける場所もあれば、手すりのひとつとってみても高級感が漂う。

俺は落ち着きたい気分になりつつも、自身が使用人である事を理解している。

ここ最近で立場という者を身に着けてきているのだろう。


椅子に簡単に座ることもできず、手すりを撫でながら王宮から見える街並みを見下ろしていた。


そうはいってもこの国の王宮は少し高丘の上に立っている。全景が見渡せるわけではなかった。

それでも美しい町並みはそこにあり、着かれた脳には優しい雰囲気が優しく溶け込む。


俺は空を見上げる。


果たしてその空は、自然の空なのだろうか。


ここはあくまでダンジョンの中。


空と認識しているものも、クノが作り上げている物なのかもしれない。


星はない。


それでも夜空はキレイだった。


少しの間そうしていると、かちゃと後ろの方で音がした。


疲れているせいだろう。その音に俺はビクついたりすることはなかった。


音の方へ振り返り、その正体を確認する。


外に出たことで長い髪を手で書き上げながら、ドレスのような寝間着姿のカレンがそこにいた。


「寝られない?」


その質問に意図する意味は俺にはわからなかった。


「まぁ……」


俺はふと、笑みを零す。

使用人の意識が芽生えたと思っていても、言葉遣いだけはそう直らない。

思い返してみれば、アイミと出会った頃は、敬語を普段使いできるよう心掛けていた。

だけど、それも次第に取り巻く環境が目まぐるしく変わる中で、壊れていったっけ。

長年の口調まで隠しきれるほど、俺は器用ではなかっただけの話だ。


「は?」


すると、前振りもなくカレンは頭を下げた。


「ごめんなさい……」


さすがの行動に疲れを忘れて俺は焦る。


「あなたをこの国に招き入れたことです」


俺にとってそれは感謝しかないのだが……?


「あー、ああっ!」


そこで俺は今更になって気が付いた。


「知っていたのか」


クノの話では俺が入国した時点で、異世界人だと気が付いていた。

そしてとある問題解決の手段として招き入れた。


当然、王であるカレンとも話は通じている。


そう言う事なのだろう。


「あなたを利用しています」


なんとなく俺の呼称に寂しさを覚える。

急に距離を取られた。


「他に誰が知っているの?」


その質問には俺が異世界人であるということが含まれている。


「私だけです」


予想外の答えに、俺は困惑する。


だって、俺をはじめに王宮に連れて行ったのは、ナイカだったからだ。


「ってことは――」


「今更、信じろとはいいません。ですが、ナイカにしろ、レンナにしろ、それに……、私もあなたに対して自然な態度で接してきたつもりです」


それは利用するにあたって、だまし続けていたという事ではないのだろう。


だとしたら、


「じゃあ、今まで通りにしてもらえません?」


何度も思うように、こうなった事に俺は感謝しかない。


なによりも、


「正直、どうでもいいんですよねー、だって、あれですよ。

俺、何かを手伝えって言われたはいわれましたけど、何をすればいいのか、その内容聞いていませんし」


「はい。その話をしにきました」


「あー」


だから、こんなにも仰々しい雰囲気なのね。


「なるほど……」


俺はどうしたものかと、考える。


そして辿り着いた答えが、


「実年齢二十八……いや、まてよ。こっちにきて結構立つから九かも。んで、元の世界では普通の派遣社員で働いていて、特別優れた何かをもっていない普通の一般人。緊張しいの上がり症。そんな人間です。」


改めて自己紹介をした。


つまるところ、過度な期待をされては困る。


その意図は汲み取ってもらえなかったようだ。


困惑した様子のカレンは、


「と、年上なんですね」


一番どうでもいい事を掬う。


「まぁ、何が言いたいかというとですね」


慌ててもっとわかりやすい言い方に変えようとすると、


「ふふ」


カレンは俺が知っているお姉さんの雰囲気が漏れる。


「あ、」


「はは、そっちの方が話しやすい」


もう一度、くすっとカレンは笑みを零すと、先ほどまでの仰々しさはなくなった。


「じゃあ、このまま話すね」


「おねがいしゃす」


少しお茶らけた返事を返すと、カレンは「うん」と静かに頷き、語り始めた。


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