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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第七巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第21話 た、ただいま戻りました

一呼吸をした後、落ち着きを取り戻したエーティは、王であるカレンに尋ねた。


「では、どの属性をお試しになりますでしょうか?」


間違ってもカレンの属性を尋ねたりはしない。


属性には相性というものが存在している。

わかりやすい所で、火は水に弱いなどがある。もちろん相性というだけで強弱が決まるわけでもないが、それを軽々しく知られるということは不利に働く。


訊くことも答えることも本来であればしない。

つまりは一つの気遣いだった。


のだが、


「お待ちください」


それに待ったをかけたのは、アージュだった。


「失礼ながら、研究途中のモノ、ましてや国外のモノをいきなり皆さんが試すのには些か問題がございます」


一応、アージュは言葉を選んだ。


それは気遣いの足りなさだった。

開発した源石の指輪を商品として試していないわけはないし、もちろんエーティに実験などの意図はない。

ある意味では商品に自信があるともいえる。


しかし、万が一を考えるのならば、最悪を考えなくてはならなかった。


「こっ、これは大変失礼をいたしましたっ!」


そこまで考えが至らなかったことに焦った様子でエーティは、青ざめた表情を作り、慌てて商品である指輪の箱の蓋を閉じる。


しかし、能天気というべきか純粋が故、ナイカがいい案を思いついたと言わんばかりに尋ねた。


「あ、そうだ! その指輪って源素を使えない者でも使えるの?」


瞬間的に空気がピリッとしたのは、レンナとアージュだった。


レンナが源素を使えないということを知られてはならない。

王宮の中でさえ、その事実を知る者が限られている秘密を、使用人と兵が多数いる中、ましてや国外の一商人に知られるということは絶対に避けなければいけない事案。


しかし、刹那の空気を二人はエーティに悟られる前に消した。


厳密には、二つの要因で消えたと言える。


その一つは、ナイカの尋ね方だ。


『源素を使えない者』その尋ね方は、姉に向けて使う言葉ではない。

そして、その対象となる人物が、現在王宮に仕え、ナイカ自身が連れてきたからだ。


もう一つは、その刹那の空気すら発することもなく、カレンはその答えを出していたからだった。


「ナイカちゃん、それでは説明が足りていないでしょう。エーティさん、内々のお話にはなりますが、使用人の中に源素が使えない者がいます。その者でもその指輪は使えるのでしょうか?」


あまりの機転の速さに一瞬とは言え、動揺した二人は自身を恥じると共に、王たるカレンの背中が大きく見える。


「……なるほど」


エーティはその気配に気が付いた様子もなく、すぐには応えられなかった。


この世の中には源素が使えない者が一定数いる。

それは事実ではあるが、絶対数でいえば少数である。

その者を見つけ、世に出ていないモノを試す機会はなかったためだ。


「正直に申し上げます。わかりません」


それもまた理解した様子で、カレンはアージュに指示を出した。


「タダシ君を呼んでくれる?」


「畏まりました」


すぐにアージュはメイドの一人を呼び出し、タダシを呼ぶように指示を出す。

メイドが部屋から退出した直後。


「ああっ‼」


そう今更ではある。


ナイカはここに急いで飛び込んできた理由を完全に忘れていた。

むしろ、源素を使えない者を想像した時点で思い出すべきではあった。

しかし、忘れていたのだからそれ以上に理由もない。


「……ナイカ」


王族とは言えない振舞いに再び頭を抱えるレンナだったが、


「タダシ……いない」


その返答と部屋に入ってきた時と同様の焦りを抱えたナイカの表情に、異常事態を察する。


ナイカとタダシは二人で外出していた。

当然、ナイカがこの場にいるのだから、一緒にいたタダシも帰還しているものだと誰しもが思っていた。


「それはどういうことだ?」


姉として、そして王宮の使用人に対する扱いとして尋ねたのだが、ナイカの視線が一瞬エーティを捉える。

まだ幼いナイカに全てを隠すことは難しい。


王宮関係者以外がいる中ではその話をできない。


その事実が露呈した。


エーティは察したが、何も言えない。


察した事実を、察していないとしなければならなかった。


「エーティ殿、大変申し訳ないのですが――」


すでに商人であるエーティの腰が椅子から浮き始めている。


そんなところで、再び応接間の扉が開いた。


そこには先ほど出ていったばかりのメイドが困った表情でいた。


「えと、あの、その」


しどろもどろになるメイドの姿に違和感を覚える。彼女はメイド長ではないが、新人というわけでもない。

それにタダシが王宮の中にいないことはすでに周知している。

なにより、そのようなことは、報告すればいいだけの事。

だからこそ、そのメイドの一人が困惑しているのが不思議だった。


少し怒った様子でアージュは尋ねた。


「どうしたのですか?」


「えと、本人を――」


そこまで言うと、完全にアージュの表情は怒りが含まれていた。


「ここに入れていいのでしょうか?」


今度は全員が困惑した。


「いるのですか?」


「え? あ、はい。偶然、扉の先にいたので、扉の前まで連れてきたのですが」


そのメイドはタダシがいなかったという事実を知らないから、一瞬戸惑った返事を返す。


「だったら、早く入れなさい」


ではなぜ、その許可がいる?


誰もがそんな疑問を持った。


しかし、ナカムラタダシという少年は、ナカムラタダシという人物を知っている人間ならば、気がつく。

なぜなら彼は――


メイドはタダシを扉越しに呼んだ。


――予想外の男である。


入室した誰もがぎょっとした表情を作った。


「た、ただいま戻りました。はは、ははは……」


乾いた笑い声はもちろん、使用人として似つかわしくない。


しかし、なによりもその恰好だ。


泥だらけ、借りている使用人の恰好の至る所に敗れた箇所がある、端的にいえばぼろぼろの姿だった。


なんで⁉


誰しものその言葉が喉の寸前まで出かける。


その中で一人だけ、


「あははははははははははははっ」


さっきまでの威厳はどこへやら。カレンだけが口元を手で押さえながらも大笑いしたのだった。


「はは、ははははは……」


相変わらず、遅くなりましたが最新話です。


言い訳は、活動報告に記載しております。


今後ともよろしくお願いいたします。

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