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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第七巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第12話 評価

一瞬の王としての資質が垣間見えたのも束の間、書類の山が提示された瞬間から、いつものお姉ちゃんの姿に戻った。

泣き崩れながらアージュが呼んだ使用人の一人に王室へと連れていかれる。


「後で様子見に行ってあげて」


いつもの姉の姿にどこか安心したような表情でレンナは、アージュに支持を出し、


「畏まりました」


アージュもまたいつも通りに受け答えをする。


カレンがいなくなったからというわけでもないが、レンナの続く質問は一度終わった話になった。


「同じ話で悪いけど、さっきの研究者は、怪しさはなかったの?」


決してアージュを信用していないわけではない。

しかし、人間誰しもが嘘と虚言を持ち合わせている。

万が一アージュがそれに騙されている可能性はゼロにできない以上、尋ねなければならない。


「怪しいという一言でいえば、半々でしょうか。研究者が訪ねてくること自体多くはありませんし、辻褄を合わせるために、商人でもあると考えたと考えることもできます」


結局の所、疑い始めたらきりがないとう話。


「少なからず下の門兵の検査では問題ないと判断されたということね」


「少なくとも経歴に犯罪歴、詐称した痕跡はなかったと伺っています」


「その段階で伺っていますってことは……」


「謁見を求められたと門兵が話した時点で警戒をしなければいけませんし、独立国家といえどどこかの国の民が王への謁見を求めるなど非常識にもほどがあります」


そう、根本的に引っかかっている部分はそこなのだ。


「独立国家だからなめられたのか、それとも別の理由か」


「その時点で考えられた理由は、さきほどカレン様がおっしゃってたように、支援者の確保」


レンナは再び疑問を抱く。


「その解答は『答えられない』だった……」


支援を求めるには隠し事が多いように感じる。


ただし、


「いきなり手の内を明かすのもおかしな話。そう考えれば、ある意味では正しい。純粋たる研究者ならば、それもわからなくもないけど、その者は同時に商人でもある。だとしたら、源石の入社手段を早々明かすわけがない。いや、違うか、研究者だったとしても、その成果をその国の御前でお披露目し、そこで高く評価されることで、その地位を確立したいと考える」


考えるだけ考え、結局行きつく先が変わらないことに、レンナはため息を吐いた。


だから、質問の方向性を変える。


「報告はすぐにきたの?」


「いえ、報告というよりも、目的が珍しく、門兵では判断できないと私の所まで連絡が回ってきました。すぐに会うとはそれも何か勘ぐられても困るので、使用人に一度向かわせました」


「ってことは、直接は会っていないの?」


「謁見をすんなり通すわけにもいきませんし、そこまでの段取りを簡略もできません。本来であれば、数日おき、何度か訪問させ見極めるつもりでした」


レンナはアージュの対応に、口元に手をやり考え込む。

対応が間違っているわけではない。

むしろ正しい。

簡単に王へ合わせれば、それこそ軽く見られかねない。


だから、思考を巡らせたのは姉であるカレンの言動。


「姉さんの一言で、全て簡略化できるようになった……」


面倒な手続きをして、何日もかかり、最悪それでもお目通しすら叶わない段取りを省略する方法。


王の一言。


「それを踏まえてのカレン様のお言葉なのでしょう」


ここまで考えてようやく辿り着く道。

自身の姉ながら、王にふさわしいのは誰なのかレンナ改めては感心する。


それでも、


「気まぐれだったり、本当に興味だけで判断する時があるから困るのよね」


それにはアージュも苦笑いを浮かべる事しかできない。


それに拍車をかけるように続く話は、アージュの表情を曇らせる。


「ところで、あの子は今なんの仕事? 体動かすのに付き合わせようと思うのだけど」


「あー、えーと」


すぐに返事が返ってくると思っていたレンナは、目を逸らしながら明後日の方向を見るアージュに悪い予感を覚える。


「……ナイカ様と街の方へ行かれました」


レンナすぐにそれだけでないことを察する。


じぃーっとアージュを見続け、観念したかのうようにアージュは白状した。


「街を……この国を案内するとお二人で――」


そこまでいうとレンナは頭を抱えた。


「一応お止めはしましたが……」


一応と付く辺り、いうだけ無駄だと知っている。


「ナイカ様も王族の一人。使用人であり、最近は言ったばかりの新入りに、余り馴れ馴れしくするのはよくないと。それに加えて、そもそも部外者あまり信用を置くのもよくないということはお伝えしましたが……」


結局二人で出歩いている辺り、無駄だったのだろう。


「護衛は付けているのよね」


だからレンナはアージュを咎めたりしない。

仮に、その場に自分がいても同じ結果になったであろうから。


「はい、いつも通り姉妹騎士を付けております」


それならば、まだいいかとレンナもまた諦めた。

諦めたうえで、先ほどまでと似たような質問でアージュに尋ねる。


「いくら源素が使えないとはいえ、あの子の評価は?」


暗に疑うべき点があるか、源素を使えないからこそ、他国に利用された密偵などではないかと尋ねた。


本当に珍しいほどアージュが解答に困る日だった。


あの子こと、ナカムラタダシはよくも悪くもあまりに普通過ぎて評価がし辛い。

何か怪しい動きをしていないかと思えば、怪しすぎる。

しかし、どれもこれも、非常識という言い訳ですべてが片付いてしまう。

かと思えば、与えた仕事は真面目にこなし、規則なども注意すれば気にし過ぎなくらい従順。

時間も誰よりも早く到着している。

前者の理由で迷子になることはあるが、概ね普通、もしくは真面目であった。


だから、この国に関わる存在としての評価は如何ともしがたいのであった。


「個人的な感想にはなりますがよろしいですか?」


そう言うアージュの意味も理解していた。


なぜなら、ナイカが懐いているのも同様、姉であるカレンもまた、まるで弟ができたように可愛がってしまっている。

かくいうレンナもまた似たような境遇から鍛え上げようとしてしまっている。


「ええ、かまわないわ」


きわめて純粋な質問であり、答えはもう出ている。

あの子はあまりに純粋であり、何かをしようとしている目的が存在していない。


それでもアージュの意見を第三者としての目線で知っておきたかった。


「端的に言えば、無害かと」


面白くない答えではあるがレンナは納得した。


納得はしたが、ならばと使用人としての評価を確認する。


「半々でしょうね」


「……良くも悪くもない?」


こくりとアージュが頷く。


あまりに会話のキャッチボールに繋がらない評価。


「清掃業務は?」


「平均か足りないくらいかと」


「調理にも行ったことあるわよね」


「一度提供があったオニギリというものが兵達に概ね好評であったと、しかし、それ以外は評価に値しないとも」


「……他には何をやらしているの?」


「概ね、メイド、使用人業務を一通りは」


「一応聞くわ、評価は」


明確にはっきりと、


「可もなく不可もなく」


あいまいな評価だった。


「そ、そう……。あ、でも訓練での新しい発案は良いものだったわよね。インディアンランニングだったかしら、あれはとてもいいわ。そこだけは評価してあげられるわ」


気まずくなってきたのか、なぜか、フォローする側に回ったレンナは、その場を濁すように訓練場へと足を運ぼうとする。


その後姿をアージュは遠い視線で見送り、一言つぶやく。


「あの訓練を評価しているのは、レンナ様だけです」


カレンが処理する書類の中には、兵からの訓練に関して苦情が大量に来ている。

もちろん、そんな下らないクレームまでカレンに処理させるつもりはなく、事前にアージュが破棄している。


手助けしまった故、訓練の内容を今更取り下げできない。

だから、直接関係ない立場だったとしても増えた書類仕事の一旦を担ってしまったアージュもまた、兵士同様思う。


「あの訓練終わればいいのに」


そして、またいつかどこかで兵の阿鼻叫喚が木霊する。


遅くなっておりますが、最新です。

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