第10話 馬鹿馬鹿しい可能性
目立たない格好に扮しナナカミラは小さな町で捜索していた。
探している相手は異世界人であるナカムラタダシだ。
シンによる提案によって一人旅をすることになったのだが、タダシの知らないところで一つの提案もされていた。
それは、完全な一人旅をさせる事は出来ないということ。
理由はいくつがあるが、一番の理由としてナカムラタダシという存在が弱い点にある。
力や能力が弱いという話だけではない。
現在ナカムラタダシは源素を使用することができない点もあるのだが、世界を見れば決していないわけではない。
問題なのは、ナカムラタダシに戦う意思、生き残ろうとする意思がないことだ。
もちろん、そこには異世界人だからという部分が大きく影響している。
それにしても、ナカムラタダシという存在はあまりにも命への危機感が欠如しているように感じていた。
一人旅はそこを少しでも補おうというシンの狙いでもあった。
それに同意いたナナカミラだったのだが、
「(……おかしい)」
旅に出させる以前、ナカムラタダシには最低限の金銭を持たせていた。
当然、旅の資金であり一文無しで旅をさせるにはさすがに難易度が高いと認めざるを得なかった。
それと同時、一つのコントロールをする為でもあった。
それは移動の制限である。
方向こそシンが指示を出したが、明確な行先や目的などはタダシに教えてはいない。
そうすることによって、ナナカミラの用事が済み次第追い付く算段になっていたのだ。
しかし、ナナカミラの想定範囲にたどり着いても目的の存在が見つけられていない。
陰ながら見守る形を取るにしても、相手がいなければどうしようもない。
「(資金はすでに底を着いているはずだ……。仮にどこかで補充することができていたとしても、停滞はするはず……、それなのに……)」
それなのに、当の本人の影すらない。
ナナカミラの想定の中には、またトラブルに巻き込まれている事さえも組み込まれていた。
しかし、道筋にはそれらしい騒ぎはなかった。
「(門番にそれらしい事を尋ねるべきか……)」
しかし、それは躊躇われた。
ナカムラタダシはあくまでその存在を隠しながら行動をしなければならない。
世間には広がっていないまでも、少なくとも勇者の遺物を破壊した重罪人。
どこから、ナカムラタダシに繋がるかわからない。
「(……)」
ナナカミラは少し前の記憶を思い出す。
「(……予想できない……か)」
聖騎士団国家の学園長であり、最高責任者であるクライブ・イェールが勇者の遺物を壊された時、零した言葉。
まるで未来を読みかのような先手さえを覆す、行動不能の存在。
だとしたら、ナナカミラの想定の上を行き、先に進んでいる可能性が生まれた。
「(先へ進むべきか)」
さらに想定の先、方向さえ変えていなければいずれ道はつながる。
想定していたものにさらなる想定を加える。
ナカムラタダシ人との出会いが多い。
そこに進むべき速度を変えた可能性を付け加えた。
ナナカミラはその町に存在した痕跡を残さず、再び次の町へと歩みを進めた。
いずれ再び出会うことになる少年目指して―—。
そして、ナナカミラの行動は間違っていない。
間違っているとすれば、ナカムラタダシが新たなる人と出会ったのは限界を超えたからに過ぎない。
想定をするならば、ナカムラタダシが新たなる土地へ行く勇気がなく。
野宿という節約、さらには山で暮らしていた知識によっての食費の削減、加えて町にほとんどよらず歩き続けるという、訓練で得た体力を存分使った結果。
目的を伝えないことによって生まれた、人見知りによるぎりぎりによる移動術だった。
「(…………)」
脳裏に浮かぶ馬鹿馬鹿しい可能性。
それが一番正解に近いことを否定してはいけない…………。




