第9話 必要とされるモノ
早朝の給仕に加え、悲鳴轟く訓練から抜け出す。
タダシの身体は気を抜いてしまえば、柔らかい太ももという安眠枕に抗えることもなく、意識は遠のいていった。
そんな子供の姿にカレンは微笑み、優しく髪を撫でていた。
そこに、レンナが神妙な面持ちで近づいてきた。
「姉さん、あまり無理はしないでくださいね」
タダシの姿に何も思う事もないようで気にも留めない。
「大丈夫だよ~、おねえちゃんだもん」
「お言葉ですが、来訪者の数がここ数か月で増えております」
アージュは手に持った自国の記録を開きながら伝える。
その上で、起こりうる事態も一緒に付け加えた。
「カレン様の疲労も心配の一つではありますが、他国へ情報を隠し切れるものではありません」
普段からのほほんとしたカレンもこの時だけは一国の長としての表情を作る。
「我が国から呼んでいる数はそう多くないはずよね? それに取り扱う商品に関しても指定はしていないはずだけど?」
この国は今、外部からの商人の滞在、通行を容認している。
もちろん、それ以外の旅人や通行人の許可もしていた。
「ええ、ですが、商人はこの宮殿へ招いております。それを疑問に持ち、他国へと持ち帰って情報として話さないという保証がありません」
「特別買い物や欲しい物の提案などはしないないはずだけど」
レンナはアージュが言いたいことを考えたうえでその答えを導き出す。
「逆に言えば、商人が持っていなかった物にこの国が欲している物があると推測されると?」
アージュは頷く。
「それは、欲しているものが明確に分かっている私たちの答えだとは思わない? その実情を知らなければ、私個人が何か探していると考えると思うんだけど?」
「それは……」
カレンが言っている事は正しい。
欲している物が明確に知っているからこそ、他国にそれを想像できると思いついてしまう。
ただ、逆にその実情を知らなければ、独立国家でも他国との交流が少ないこの国では、外の物がどれも珍しいと言える。
だからこそ、一国の主は物珍しさで商人を招き入れ、ウィンドショッピングをしているだけだと言える。
そこまで理解し、これからも続ける理由を知っている二人はそれ以上何も言えなくなってしまう。
「心配させて、ごめんね。でも、大丈夫! これでもこの国の王だから、いい方向に持っていけるように頑張るから……」
王としての立場、姉としての責任、それを感じさせる。
「分かったわ、姉さん。でもこれだけは約束して、私の事よりも国の事、民の事を優先して考えて」
「うん、大丈夫」
曖昧な返事ではある。
それでも、レンナは自身の姉が民をないがしろにしたりはしないと信じ、それ以上は何も言わなかった。
「お二方の意思は分かりました。そこで一つだけ提案があるのですがよろしいでしょうか?」
なんだろうと二人の姉妹は目を合わせる。
「この国には冒険者ギルドは存在しません」
「それを言ったら、聖騎士もいないね」
「聖騎士に関しては国外の兵士ですので、今回の件では無関係なので置いといていただいて、問題は冒険者です。冒険者は依頼に応じで、その依頼を達成します」
「待ちなさい、アージュ。それを他国の冒険者に依頼でもすれば、さっき言っていたモノをわざわざ言いふらしているようなものじゃない⁉」
「もちろん、直接的な依頼は出せません。そもそもこの国にはギルドがないので、他国へ兵を出向かせギルドへ訪問させるしかないのです」
「問題は、この国の兵と判れば結論は同じ」
「ええ、当然、入国の際この国の兵という事は判断されるでしょう」
「なるほど、兵を使って別の者に依頼を出させる」
「はい、そうすれば、依頼主はこの国とは別の人間になりますし、多少なりと誤魔化しはできるでしょう」
「兵である意味は? それこそ、可能性の一端を隠すなら兵でない方がいい」
「例えば、わが国の商人を行かせたとして、他国の人間に依頼を出させた場合、依頼料の持ち逃げやそもそも依頼品を持ち逃げされるリスクが出てしまいます」
「なるほどねぇ、兵ならば簡単にネコババみたいなことはできないと」
はい、と返事を返したアージュは、それでも少なからずリスクは出てくる事も加えて提案を終わらせた。
そこからは、カレンの判断に任せるしかない。
そして、そうまでしないと入手は困難であると理解している。
一介の商人では早々手に入る物ではない。
「行動を起こすならリスクは付き物」
カレンが真剣に思案し、そのモノの名前を口にした。
「ダンジョンの源石……」




