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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第七巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第7話 新しい生活(コック) 

俺の従者としての立場は曖昧のまま、なんとなく泊まらしてもらえることにはなっている。

その理由は源素の有無。

やはりというべきかこの世界での源素はそれほど重要なことなのだろう。


それに加えて子供の姿というのもきっと理由にあるような気がする。

警戒心の強い俺からすれば、スパイ的な存在も警戒した方がいいような気もしたが、自ら言う必要もない。

事実そんな事考えてもいないわけで、都合のいい流れに乗っかっている。


だからといって、何もしなくていいわけではない。


朝の稽古は強制的なモノだったが、それ以外の仕事もしないというのには、俺の中での常識と良識が拒否した。


だから、俺なりに出来る事はしようと、ナイカに相談をしたのが数日前。

それにナイカは従者の心得をとか言っていたが、仮にも一国の長の妹、子供とはいえ着替えやらなにやら手伝えるわけもなく。

家事全般のお手伝いを買って出た。


そんなわけで、しっかり仕事を仰せつかった初日の朝、俺は兵の皆さんの朝食を作る事になった。


さすがに、三姉妹の口に入る物を、どこぞの馬の骨に作らせるわけもない。

じゃあ、と思う事はあったが、出来るだけ兵の皆さんに嫌われない程度の食事は用意したいものだと頑張るつもりだ。


厨房に入るなり、忙しそうに働く宮殿の料理人達がせわしなく動いている。

俺の姿を一目見るも、それどころではないと構ってはくれない。

手取り足取り教えてもらえる世界観ではないのは分かっていたが、勝手に作業していいものかと悩んでいると、


「あんただね。話には聞いているよ。兵の調理場はあそこの区画でやっているから、とりあえず、やってみな」


後に聞かされる大柄な女性はカジュ、この調理場を仕切っている調理長である。


「ええと」


「とりあえず、腕試しだ。それでこの場の仕事を任せるかを決める。食材も道具も好きに使っていい」


「わ、わかりました」


慣れない実力主義の世界。


所詮は素人料理しかできない俺の実力は一人暮らしでたしなむ程度の技術。


救いがあるとすれば、


「喫食数は、三〇名。下っ端兵に伝えている事は、どんなものが出ても残さず食え。例え、死んでもだ」


下っ端の兵の皆さんが食べるという事。


例え食中毒を起こしても、国の一大事にはきっとならないという事だ!


とりあえず、俺は食材を見て回る。

勝手に使ってもいいとは言われたが、全て使うわけにはいかない。ここにある食材がどれほどの日数分かわからないからだ。


そうなってくると、訓練やら身体を動かす分、腹が膨れてスタミナが付くものが好ましい。

そうは言っても朝からそこまで重いものは食べたくないだろう。


幸いにもこの世界にも米はある。

ひとまず、米を軽く洗って鍋で炊き始める。

その間にメニューを考えていく。


国の特性上魚介類は多くない。

あっても限られた人が食すのだろう。

少なくとも用意されている食材の中には入っていなかった。


じゃあ、肉類はとみてみると肉の切れ端が少しあるくらい。


「う~ん」


朝飯に焼き肉? 流石にないか。


塩はある世界だから、米は塩おにぎりにすればいいとして……。


難しいものはできないまでも誰でも作れるようなものを淡々と作り始めた。


しかし、やってみてわかる。

大量調理って大雑把な物じゃないと大変だ。

なにせ、調理道具は、機器がないのだ。

まるでキャンプで調理しているようなものだ。


それでも自分ができる事しかやれないのだから、迷うことなく進めていった。


適当な皿に人数分のおにぎりセットを並べていくうちに、調理場から人の出入りが多くなった。

どうやら食事の順番も決まっているようで、俺は最後のようだ。

つまり、下っ端兵士の食事は最後という事だろう。


時間まで計算してなかった俺からすれば、有難い。

というよりも、それも見越しての配置だった。


俺は最後にミルクの汁物を完成させると、お椀に盛る。


「ふぅ」


一通り料理が作り終わる。


「お運びしてもよろしいですか?」


そのタイミングを見越したように、給仕の面々がずらっと並んでいた。


「あ、はい! すいません、お願いします!」


運ぶのも自分でやると思っていた分、安心と同時に申し訳なさが込み上げてきた。


そこに、


「ひとまずお疲れさん」


カジュが隣までやってきた。


「あ、どうも」


「結果はどうであれ、これで兵は腹を満たす」


「これを毎日か……、すごいな」


純粋な感想を漏らすと、歯を見せながら笑顔を見せるカジュに背中を思いっきり叩かれた。


「気を抜く暇があったら、次の仕事場へ行きな!」


「へ、次?」


「そう仰せつかってるよ」


あれ、これ思った以上に重労働なのでは?


行き当たりばったりの職場に、早まったかと思いながら厨房を後にした。



タダシが立ち去った後の厨房で、カジュが部下である男の料理人と話をしていた。


「始めて見る料理ばかりでしたね」


「そうだね。でも理にかなっているものばかりだ」


「簡単に食べれて、腹が膨れますね」


「ふっ、それに最低限食材の事、片付けの事も考えられている」


「料理人としてはまだまだですよ」


カジュが大きな口を開けて笑う。


「あいつは料理人じゃないよ」


「でしょうね」


「ただ、食べる人の事を考えていただけ十分だね」


「では、合格にすると?」


「ふん、それは食べた者の感想を聞いてからさ」


そう言い残すと、今度は片付けの指示を出し、カジュもまた仕事に戻っていった。


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