第6話 立ち上がる決意
「それで?」
大事な会議だったのか、それを強制的に終了させ、部屋に残された俺は三姉妹の中で一人腕を組み不機嫌そうにしているレンナに睨まれている。
だが、しかし、俺に答える事は出来ない。
なぜって理由は明白で、俺自身何の意図もなければ、こうなるに至った経緯すら存在していないからだ。
萎縮する理由もない俺は、相変わらずの思考停止で時の流れに身を任せている。
そんな俺の姿に、憐れんだ様子を感じ取ったようで、
「まぁまぁ、そんな怖い顔しないで、ね。レンナちゃん」
カレンが諭すように言ってくれる。
しかし、それで改善されるような状況ではない。
勘の悪い俺でもさすがにわかる。
この国がどれだけ平和な国だったとしても、突然現れた人間が突然王族の前にいるのだ。
悪い想像だけでも無限に出てくる。
警戒するなという方が無理なのだ。
しかも、今はナイカの護衛だった双子女性騎士もいない。
それなのに、お気楽なのか現況のナイカは腰に手を当て、未だ無い胸を張り続けていた。
「レンナお姉さま、私だって何もいい加減に従者を連れてきたわけではありません」
「ほぉ」
それはどういった理由かと、視線がナイカに向けられた。
「レンナお姉さまはお気づきになれないかもしれませんが、カレンお姉さまこの子を視てください」
そう言われ首を一瞬傾けるも、可愛い妹の頼みならといった感じで、カレンは俺の方をじっと観察する。
さっきから見られる事に何度もたじろぎながら、行く末を見守る事しかできない俺はじっとしていた。
すると、
「あら、タダシ君……あなた、もしかして……?」
「なんですか?」
カレンの様子にさらにレンナも目を細め俺を見てくる。
「――っ⁉」
年齢違いの美人三姉妹に、緊張と不安に苛まれ俺の可愛い心臓ちゃんが嘔吐しそうになっている。
すると、
「平凡な顔のどこにでもいる少年よね」
突然の罵倒……もとい感想が零れた。
しかし、間違ってはいないのだけど、俺、そこそこ傷つきやすいんですよ……。
「そうです!」
そんな俺を尻目に、ナイカがさらに無い胸を張る。
そんな姿を見てつい、もう二人の姉妹の胸元を見てしまった。
おっとりとした雰囲気とは裏腹に自己主張を前面に押し出す長女。
「あらあら、男の子だねぇ~」
鋭い目つきと対をなすように、鋭い絶壁を現わす次女。
「あら、今すぐ死にたいの?」
すぐ目を逸らした。
さてさて、成長途中の三女はどっちに転ぶのか。
そんな油断も束の間。
「この子、源素が使えないんです!」
城門で暴かれた俺の秘密が明かされた。
俺は今更だからどうでもよかったのだが、ナイカの発言で目の色を変えたのはレンナだった。
「こいっ」
俺の首根っこを掴み引きずる。
「ちょ、ちょっと」
いくら何でも失礼じゃないかと思うけど、今更か、と俺は悟りを開いた。
「あらあら、乱暴はダメよ~」
どこまでもおっとりなカレンに、
「行きましょう、カレンお姉さま」
その背中を押しながら二人もついてくる。
途中、宮殿の兵士達に見守られながら連れてこられた場所は、中庭だった。
放り投げられる形で、解放される。
と、すぐに兵士の訓練用だろうか、木剣が俺めがけて投げつけられた。
「構えろ」
「え?」
事態に狼狽える俺は助け求めるようにカレンを見たが、
「あらあらあら」
さっきからそればかりで助けにならない。
ダメ元でナイカの方を見ても、
「従者だもんね。最低限強くなくちゃ困るわ」
勝手なことばかり言っている。
そうこうしている内に、
「いくわよ」
木剣を構えたレンナが飛び出していた。
「うゎあああああああああああああああああああああ!」
突然始まる決闘に、俺は渡された木剣の事を忘れた腕を前にクロスを作って防御態勢を作っていた。
「…………?」
しかし、いくら待っても強い衝撃がやってこない。
恐る恐る、腕の隙間から覗いてみると、寸止めで止められた剣先があった。
「……ダメね、そんなんじゃ」
なんだ、試されただけかと安堵した俺に、再び鋭い目つきが向けられる。
そして、胸倉を掴み持ち上げられた。
目の前には綺麗な顔で怒りに満ちたレンナの顔がある。
「源素が使えないからって、弱いのは言い訳でしかないのよ」
そう言って、再び地面に放り投げらる。
「痛っ」
何が何なのか、俺は傷む尻を撫でながら、説明を求めるように視線をさ迷わせた。
すると、今までのほほんとしていたカレンの表情がどこか困ったような表情に変わっている。
「タダシ君とは違うけど、レンナちゃんも源素が使えないの」
そう言われ俺がこの国に入国した際、門兵に何を見られたか思い出した。
あの時の門兵の憐れむような対応は、俺が源素を使えない不憫さのモノだった。
そして、兵は仕事として入国した者の情報をこの国の上層に上げる。
それがどういった経緯でナイカの耳に入ったかは分からないけど、その情報を元にナイカは俺を訪ねてきた。
そして、それが真実であるかの確認を取り、この国に脅威あるいは悪意を持つ者かの是非を双子騎士に試させた。
それは全てレンナと同じ境遇の俺を会わせる為、そう考えれば全ての辻褄が合う。
さらに、レンナが俺に強さを求めるのは、自身と重ね、源素がない事を言い訳にするなと叱責したのだ。
俺にも思うところはある。
基礎訓練はナナさんの稽古で少なからず身に着いた。
しかし、ダンジョンでの出来事、リンドとシナの一件、シンに言われた旅へのきっかけ。
俺にはまだまだ足りないものがある。
もし、それが、その可能性がここにあるのなら。
俺は落ちている木剣に視線を送る。
「体術にセンスはなかった……」
それは理解している。
ならばと、
木剣を拾い上げる。
「可能性は広げたい」
どこかに戦う道筋があるのならば、
「俺は銃より剣派なんだ」
憧れを現実に。
俺も少しは変われるのかもしれない。
「お願いします!」
剣を構えて立ち向かう。
「持ち方の手が逆だ」
「ぐゃはっ」
すぐさま木剣でぶん殴られた。
「いってぇえええええええええええええええええええええええっ‼」
…………やっぱり変われないかもしれません。




