第5話 宮殿裁判
抵抗などしない。
したって無駄だと俺は決めつけているからだ。
それは間違いではないことは、俺を両隣から捕縛している双子女性騎士が証明している。
今の状況は捕縛された宇宙人の図なのだ。
だから、途中から俺の意識は風景を見る事に移行していた。
引きずられながら街中を移動する中で、見た目通りの印象を受けている。
綺麗な街並みに活気ある人の流れ、敷地の大きさは分からないまでも、建物が多く立ち並びどの家も石工技術で建てられていた。
それが砂に影響しているかは不明だったが、空飛ぶ国だ。
人口もある程度限られているのだろう。道幅はそう広くなく、ほとんどの道が裏道の印象を受ける。
イメージと少し違った事があるとすれば、日の光を遮るテントのような日除けが見当たらないくらいだろう。
それに砂が黄砂のようにいたるところで舞い上がっているわけでもない。
それでいて、空を見上げれば、青空の代わりにドームのように砂がこの国を覆っている不思議な国だった。
どれくらいの距離までこうして移動を続けるのだろう。
いま連れていかれている道は大通りなのだろう。
移動手段の一つである馬が闊歩したりしている。
それに目立つ所為か人の目が痛い。
風景の見学に飽きてきたくらいして、俺はある事に気が付いた。
先頭をあるく女の子の正体だ。
着ている服はその辺の平民が来ているような簡素のものではなく、それこそ貴族が着るような高級感が漂い、ただ者ではない。
冷静に考えても見れば、護衛騎士を二人も連れているくらいだ。
身分でいえば高い位置にいるはずだ。
そこまで気が付いて考えなければよかったと思い始めた。
厄介ごと。
それを含む存在は大体が金を持つ者なのだ。
それは偏見だって、確かに、言い方がよくなかった。
正確には、極端な金持ちか極端な貧乏が厄介ごとに巻き込まれる。
だって、そうだろう。
普通って言葉は普通の人にしか使えないのだから。
――だから、目の前に連れてこられた場所か宮殿だった時、俺は絶望した。
もう貴族どころの話ではない。
絶対に関わってはいけない。
ナナさんと身を潜めながらの一時的な生活は何のためにあった。
俺が犯したとされる罪を隠すためだ。
初めて俺は抵抗を試みた。
一瞬の隙をついて腕に力を入れた。
単純な話、隙など無かった。
単純な話、腕力が足りなかった。
単純な話、話しは原点に戻る。
結局な話し、浅はかすぎた。
当然、俺の行動に気が付かれないはずがない。
右に居た女性騎士が無表情で言う。
「逃げれば斬る」
右に居た女性騎士が無表情で言う。
「次の抵抗で斬る」
俺は全身の力を完全に抜いた。
導かれる事宮殿の中に入る。
立ち並ぶ兵がナイカの道を作り、その中央を歩く姿は紛れもない王族の姿。
その後ろを引きずられながら連れていかれる俺は、どう映ると思う?
どう考えても、罪人だよねこれ?
罪を自白する為に連れていかれる悪人の姿だよねこれ?
俺が何をした?
ただこの国に働き口を探しに来ただけなのに。
スマフォすら落としていないのに。
目の前に大きい扉がある。
ああ、中に入れば始まるのだろう。
それでも俺はヤッテない。
免罪の裁判が今始まろうとしている。
こうして、扉が開かれた。
長いテーブルに数人の人達が着座している。
「あら? お客様?」
その一番先にいた女性が、おっとりとした口調で発言した。
捕縛された俺の姿を見ての発言とは思えない。
しかし、俺は理解した。
座り順からして、このおっとりとした声の主が裁判官だ。
そして、その隣に座るのが、補佐官的な人、さらに他の人が裁判員だと。
「はぁ~」
と、深いため息を吐きながら裁判官の後ろから少女がもう一人現れた。
裁判官の椅子の背もたれが大きすぎて気が付かなかった。
「姉さん、どう見てもお客様ではないわ」
呆れた声は裁判官に向けられ、
「ナイカ、この忙しい時にお友達を連れてこないで」
友達ではない!
って俺が心の中でツッコみを入れると同時に王族になんて恐れ多い事を言うんだ。
「レンナお姉さま、友達じゃありません!」
ま、呼び捨ての時点でそうなるよねって、納得する。
「ナイカ、それではお友達が可哀そうよ」
ちょっとズレてるな、この裁判官のお姉さんは。
「ですから、カレンお姉さまお友達ではありません!」
「じゃあ、なんだというんだ?」
ナイカという三女確定の女の子は無い胸を張って答えた。
「私の新しい従者で――」
「――余計に達が悪い!」
「もう、ツッコミが百点満点! あっ、しまった――」
完璧な流れに思わずはっとした時には遅かった。
最後の最後で我慢できなかった俺の心の声が口に出てしまった時にはもう、視線を独り占めにしてしまっていた。
ようやく離され自由にされる横で、チャキンと二本の剣が抜かれた。
死刑が宣告された。
双子の死神の視線が首筋を狙う。
その時だった。
「――ぷふっ」
堪えていた笑いが零れた。
その主は、たったの一人。
「――あはははは、ご、ごめんなさい。で、でも、我慢、くくっ、できな――あはははははっ」
裁判官のお姉さん。
もとい、サハラド・カレンの笑い声。
「ね、姉さん……」
張り詰めた空気を一瞬で温和に変わる。
「ご、ごめんなさい、自己紹介がまだでしたね。私はサハラド・カレンっていいます」
なんとなくだけど、俺はこの人には敵わないと思わされた。
「……ナカムラタダシです」
そんな空気感を感じた俺は釣られるように、自己紹介をしてしまうのだった。




