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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第七巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第2話 前へ

国とは違う巨大組織の一つ、『聖騎士団国家(セントクロス)』。

五大王国が一つクロス=ピュアに所属し、才覚ある者を聖騎士として育てる聖騎士育成機関。

生徒、聖騎士共に在籍数は世界最大である。

そのおかげか、小国よりも圧倒的な力を有し、へたな国よりも存在感を示している。


その機関も少し前の珍客によって風変わりしている。


華麗なる育成のイメージに持ち、入園する前の者は、華やかな世界に憧れを持っていたはずだ。


しかし、現在は雄叫びにも似た戦闘訓練が木霊していた。


「噂で聞いていた場所とは違うんだな」


秘密の抜け道を通り抜け、全身を黒い服で覆い存在を隠しているのは、すでにこの世にはいないとされている魔王配下の原種の持ち主リンド。


『確かに、でも私達がここにいるのが本当に不思議』


その原種、シナが心の中で会話する。


「誰にも気づかれるなよ。面倒ごとになる」


一人で二人の前を歩くのは、ウォータリー・ナナカミラ。元聖騎士団国家(セントクロス)聖騎士機関(セントオルガン)所属、『影』の任を任されていた彼女は、すでにフリーの聖騎士である。


「これからの処遇は、イェール様が全てを決める」


クライブ・イェール。

聖騎士団国家の学園長であり、最高責任者である。


「そいつ次第では、結局死ぬこともあるってことだろ」


偶然の産物で生きながらえているリンドは、これから起こる最悪以上を想定してそう言った。


「安心しろとは言わない。だが、お前が思っているようなことにはならない」


「なぜ、そう言い切れる」


秘密の抜け道は、作られたものではない。

現聖騎士の中でも数名の者しか知らず、各々が各自で作り上げたもの。

それも定期的に変化が起こり必ずしもそこに存在しているわけでもない。

だからこそ、無駄口ともいえる会話が成り立っている。


「そうでなければ、すでに私たちは消されている。それに言っただろう。ここにはお前達以外の原種の持ち主(スピーシー)が生徒として存在している」


「それを簡単に信じられるほど、優しい世界で生きていないの」


急にリンドからシナに入れ替わる。


「許可なく入れ替わりをするな。誰かに気取られる可能性もゼロではない」


「それは、ここにいる原種の持ち(スピーシー)ができるという事?」


「あの子の情報は何も言えない。それも今後に期待するんだな」


あの子ね。

とシナは少ない情報だけを手に入れ、再びリンドへと替わる。


今度は入れ替わりに何も言わなかったナナカミラだったが、急に足を止めた。


「なんだ?」


「少し待て」


何かをするためにナナカミラは小さな闇の源素を繰り出す。


何も言わず、ただ少しの時間が過ぎる。


「許可が下りた。続け」


何かしらの通信手段だったのだろう。

言い終わるや、闇の回廊が出現し、ナナカミラがその中へと消えていく。


リンドに戸惑いなどない。

それが闇属性のモノだったからではなく、すでに覚悟を決めナナカミラに着いてきた。

だから何が起きても、全ては前に進む為。


一瞬の躊躇いもなく、リンドも闇の回廊へと足を踏み入れた。


出口までは一般的な扉を潜り抜けるのと相違ない。


次に視界に広がったのは、立派な部屋の中だった。


そこにこれまた立派な机があり、その横に一人の女性が立っている。


「情報通りの間に辿り着いたのですね。あの子が関わっていると聞いていたので、遅刻してくると思っていました」


「関わっていると言っても、行動は共にしていない」


「そうなのですね。それは平和だったでしょうね」


「全くな」


ナナカミラが心底そう思ったように表情を崩した。


それに驚いたようで、


「あなた変わったわね……」


その発言にムッとした様子でナナカミラは睨みつける。


「そんなことはどうでもいい。イェール様はどこだ?」


それにもキョトンとした女性は、凛々しいスーツ姿に眼鏡を着用しているクライブ・イェールの秘書、モデル・ミツナ。


リンドは二人の様子を伺いながら、目の前の女性が目的の人物ではない事を知る。


「残念ながら、イェール様は外出しておられます」


「外出?」


少なくとも日時を指定したのはイェールのはずだった。

それもナナカミラ一人だったら、理解できもしたが、同行しているのは原種持ち(スピーシー)

ただの客とは違い、他人に任せるような案件ではないはずだった。


「国王からの呼び出しです」


それを察したようにミツナが付け加え、後ろに佇むリンドを確認した。


「あなた達が、あのリンドとシナですね」


リンドは一歩前に出ると、言葉よりも早い照明をするためにシナと入れ替わりを見せた。


忠告無視して勝手に入れ替わりを見せるリンドとシナに舌打ちをしたナナカミラだったが、どちらにせよ、その証明をする必要はあった。

だから、文句は言わない。


「別に疑っていませんよ。ナナカミラの報告にありましたからね」


それはナナカミラを信用しているという意味は含まれていない。

信用しているのは、その情報を信じたイェールの意見があったからに他ならない。


だから、ミツナはもうすでに決まっている事だけを伝えるだけ。


「イェール様からの言伝です」


それにシナは口を挟まない。

どのような形であっても受け入れるしかないのだから。

それでも、もう飼い犬のような生き方はしない。

それだけを想い、言葉を待った。


「『この地に腰を落ち着かせる事を許可します。ですが、あなた達の置かれている状況はあまりに特殊であり、条件を付け得ざるを得ません。その条件ですが、一つはあなた達が原種持ち(スピーシー)である事を隠し続ける事。もう一つが、ここの教師となりアイミケ・ゴースキーの専任になることとします』」


「――なっ⁉」

『――なっ⁉』


突然の状況にシナも心にいたリンドも声を出して驚いた。


「お、お待ちください! 私達が言うのもおかしな話ですが、それでは、あなた達の利が見えません! 何を企んでいるのですか⁉」


その言動は当然の事だとナナカミラ、ミツナも思う。


しかし、


「イェール様のお考えを理解するのは難しいですよ。それに企むにしてはリスクしかないのです。私個人としては、元の国にお返しした方に利があるのですが、こちらも隠すべき存在がすでにあなたに知られていますからね。妥当と言えてしまうのです」


「それにしても……」


「あなた方に選択があるとは思えませんが?」


そこまで言われてしまえば、シナ、そしてリンドは何も言える事が無い。


「念のため私個人から言わせてもらいますが、決してイェール様の期待を裏切らないように」


冷たく言い放たれるその言葉。


しかし、そこに含まれた「裏切らない」という。

今までにない自身の存在価値にシナは感謝した。


「決して」


それは始まりでしかない。

それでも新しい希望に二人は前に進み始めた。


話しが終わったことで、後は任せる他なくなったナナカミラはその場を後にしようとした。


ところが、


「まだあなたにも言伝が残っていますよ」


ナナカミラは自身にも何かあるのかと思い足を止めた。


「あの方たちが戻っていますよ」


その瞬間、ナナカミラの脳裏に憧れの存在が思い出される。


「会うのであれば、手配しますが?」


突然の聖騎士脱退から一度として会える事の出来なかった存在。

会って何かを伝えたかったわけではない。

ただ、憧れの存在の近くにいたい。

そんな細やかであり、たった一人しか認められなかったその立ち位置。


きっかけがあれば、もう一度近づきたかった。


だが、今は、


「いや、急いで戻らなければならない」


憧れとは真逆の存在が脳裏にこびり付いてしまっている。


「そうですか、あの方も羨ましがりますね」


「ふん」


それだけを言い残しナナカミラはその場を後にした。


その姿を見送り、


「これから忙しくなりますね」


窓から見える生徒達。


過去にはなかった泥臭く訓練をする。


これもまた、あの一人の少年が来たことで変わった。


「良くも悪くもですね」


そう一人呟いたミツナは、主人の帰還を待ちながら仕事へと戻っていった。



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