第42話 会合
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
会合という名の集まりは、数日の休息後に開かれた――。
「んな、無茶苦茶な」
シンの提案に俺の呆れた声だけが静かな空間に響いた。
順序良く話していけば、漆黒のディアの事件によって、現状この町の人口は減っていた。
そのおかげで、マリージュカの起こした事件の被害は少なかったと言える。
それは運がよかった。
そして、その状況はもう一つ、シンの提案を実現可能な水準を上げる事にもなっていた。
会合に参加しているのは、俺を含め、シン、ナナさん、『風の行方』三名、『鮮血の爪』ハーヴェス、そして、魔王配下の原種であるリンドだった。
あの戦いの被害にあった町の人やギルドの人達は参加を許されなかった。
理由は、命を掛けられないからだとシンは言ったが、その他にも破壊された建物など最低限の復興で参加できないのも理由の一つだ。
それでもギルドの代表の参加の話しが出たが、この小さな町でSランク冒険者という存在、起きた事象の難解さを含めてハーヴェスが代表という形になった。
そして、今まで隠していた事情を含め、話せる範囲でシンがまとめながら、説明を行った。
「異世界人ね……」
ハーヴェスが静かに呟く。
同じようにカルトア、メダ、ルピナスも信じきれないといった反応を見せる。
どうしても、その説明が必要で、今までの反応の同じなのも予想通りだった。
しかし、そんな中で、マリージュカは、
「すでにそこが本題ではないのでしょう」
そう、俺が異世界人であるかどうかは、すでに前置きでしかない。
なにより、すでに問題は俺が異世界人であることよりも、原種であるリンド&シナ、その暴走を起こそうとしたマリージュカの問題の方が大きくなっている。
そして、それすらも前置きになっている現状――。
「まて、その前にこの落とし前はどうつけてくれるんだ!」
ハーヴェスがマリージュカに睨みと共に、立ち上がる。
「雑魚に時間使っても仕方ないでしょう。それにすでに私は敗者で、そこのゴブリンさんの提案を聞き入れる事で、あなたの落とし前とやらは付けられるはずよ」
ここまで開き直られると返ってすがすがしいなと俺は思うけど、ハーヴェスからすればそれで気が収まるわけがない。
「てめぇっ――」
「黙れ、消すぞ」
そこに話が進まないとドスの利いた声でナナさんが睨みつける。
久しぶりにナナさんのクールな姿を見たなと思いつつ、それを知っているカルトア、メダ、ルピナスの三人がハーヴェスを宥めている。
「そういえば、説明の中に貴方の事についてよくわからないのだけど。そもそも、異世界人だというそこの坊やの護衛にしては、異世界人という肩書だけでは足りない気がするのよね。だって、そうでしょう。異世界人だなんて、誰も信じようがないもの、それを護衛なんて他の理由がないと説明がつかないわ」
勘がいいというか、鋭いというか、頭のいい人は違うなぁと俺は呑気に聞いている。
「ふむ、お前さんが素直にこの話し合いに参加しているのも、ある程度気が付いているという事だな」
「当然でしょう。現状、私の立場は危うくなっている。原種である暴走の失敗に続いて、その始末に関してもうまくいっていない。依頼を失敗しましたなんていうだけで済むわけがない」
確かに、原種という存在はすでに討伐されていると世間には公表されている。
だけど、実は裏では兵器として生きていましたなんて知られれば、そこの国の信頼は地に落ちるだけでは済まない。
そうなると、当然、その事実を知っている存在は……。
そう俺はちらりと静かに座っているラークを見た。
ラークは目を瞑り、ただ話し合いに参加しているだけの体を貫くようだ。
「つまり、あなたの提案は、私たちの立場を覆すものの対価と引き換えにナニかを要求する。そんな所かしらね」
「話が早くて助かる」
「そうなると、当然、その秘密を教えてくれるってことでいいのかしら?」
はて? それは大丈夫なのかと思い今度はシンをちらりと見た。
「ああ、問題ない」
え、本当に? と思ったけど、俺はよく理解できないので口には出さない。
代わりにマリージュカが尋ねた。
「分からないわね。それほどの事を隠すために貴方たちはここにいるのでしょう。それを消せばいいだけの私達に簡単に教える事が」
「ん、あー」
とあまり頭の良くない俺でも少しだけわかってきたことがある。
「でも、ラークやマリージュカがいなくいなったら、どのみち誰かしら調べに来るんじゃないの?」
「それって、原種であるそこの子であって君じゃないじゃない」
「あ、そうか」
所詮、俺ではそこ止まりだ。
「情報操作といったところか」
ナナさんが、そう答える。
「ああ! なるほど」
マリージュカが帰った先で俺の情報を違った形で流せば、同行までもがうやむやになるという事だ。
「異世界人……」
そう呟くマリージュカが俺をじっと見る。
中々過激な行動にでる女性でありながら、妖艶な雰囲気も持ち合わせているマリージュカに見つめられると緊張感が増す。
当然、俺は人見知りを爆発させ、視線を宙に彷徨わせながら、目を合わせる事なんてできない。
すると、ため息にも似た息が吐かれ、
「それほどの価値があるとは思えないのだけど」
そうして、いよいよ核心の話しになった。
「それで、要求ってなんなのかしら――?」
シンの計画に誰しもが耳を傾けた。
「――――――――――――――――――」
特別、溜められる事もない間で放たれたその発言に、誰しもが耳を疑わない手段を持ち合わせていなかった。
それが冒頭での俺の発言に繋がるのだった。
第6巻のこり数話で終了予定です。
引き続きよろしくお願いいたします。




