第41話 正解のツッコミ
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
どこからともなく冒険者の二人が歩み寄ってきて俺の前で止まった。
何を考えているのかわからないが、シンがそうさせたのだろう。
なぜかケガの一つもなくなっている二人だったが、その表情は初めて見たモノとは違っている。
「あ、」
俺は二人になんて言っていいのか分からず、
「えと」
しどろもどろになった。
「はぁ」
ラークがため息を吐きながら、
「そんな顔すんな。悪いのは俺であり、こいつだ」
マリージュカもため息一つ吐き。
「そうね。これは自業自得。単純に強者に弱者が負けただけ」
「でも……、」
それだけ、言い終わるや本題はすぐに始まる。
「前置きは言い。事実だけを言うぞ」
「あのゴブリンに言われた質問をこれからするわ。あなたの答え次第で私たちはここで死ぬ」
当たり前のように言う。
「そんなの――」
「お前の意見は意味がない」
「覚悟はいいかしら?」
何を言っても状況が変わらない。
俺に出来ることなど最初からなかったのだから。
「分かった」
それが何も成しえなかった俺という弱者の立ち位置。
マリージュカが「それじゃあ」と前置きをした後、質問はされた。
「俺達を――」
「私達を――」
「「助ける方法は――?」」
頭が真っ白になった。
答えのない質問。
そんな質問に――、
「いや、俺が知るか!」
あまりにも無茶な質問にすぐさま答えてしまった。
「あ、いや、違う! あまりに理不尽な質問だったから!」
答えていない。
それが答えでいいはずがない。
だから必死に今の反射的な回答、というかツッコミを否定したのだが、
「それがお前の答えかタダシ」
シンが現れてしまった。
「ちがっ――、違わないけど、今のは違う!」
必死な抵抗は無視される。
ラークはその場に崩れ落ちるように腰を下ろす。
それはまるで処刑台のギロチンが落ちるのを待つ姿。
そして、マリージュカは小さく息を吐くだけだった。
どうにかしないと、どうにかしないと本当に二人が殺されてしまう。
土下座でも何でもするからとどうにか、そんな懇願をしようとシンを見た時だった。
「え?」
シンの両頬が膨らんでいた。
それはまるで笑いを必死に堪えているように見える。
…………!
「――っ、騙したな!」
「ぶはははははははははは!」
盛大なシンの笑い声に俺の頬が急激に熱を帯びる。
そんな中、
「当たる分けねぇだろ、あんな答え」
「少なくとも命掛かっていたはずよね」
なんで、どうして、この二人は敵対していたはずで、何でシンと共謀しているわけ、わけがわからない。
それでも訳が分からない状況の中でも、導き出していた答えに戻される。
「そうだ。これからこの世界でお前さんが起こりうる状況でもある。タダシ、お前さんの現在の状況は分からないままだ。できる事の中の選択肢を私は一つだけ身に付けさせる事が出たが、それが理不尽な状況下で役に立つとは限らん」
その時に俺は後悔しない為にしなければいけない事。
ある意味では、先ほどのツッコミは正解でもある。
それでも俺が強くなるって未来がどうしても見る事が出来ない。何度も言うように、物語の主人公のような行動に移るにはあまりにも歳をとりすぎている。
言い訳にしかならないけど、俺には流行りのチート能力も存在してなければ、それを使いこなすだけの頭もない。
「……俺は戦えないよ」
情けなくても、それが正直な感想だった。
「んなことは分かっておる」
「え?」
「ただ、そこで足踏みしているようではお前さんが苦しむ事態はやってくる」
「でも、それじゃあ」
「強くはなれ、しかし戦う力じゃなくてもお前さんならいいのだろう」
強さの意味。それを考えさせられた。
「逃げるにも強さがいるってことね……」
この世界に来てから得ていた源素が使えなくなった今、それに似た力は必要だという事。
考えていなかったわけではない。
しかし、思い付かないまま、シンとの修行で思いつくかと頑張っていたつもりだ。
そして、今、シンがそれを俺に話すということは、シンの中にもその手段がないという事なんだろう。
「結局、振り出しじゃん」
「世界は広いという事だ」
それって世界を旅しろって事?
「うわぁ、一番苦手な奴じゃん」
それを最後にシンは笑っていた。
すると、
「なんの話をしているかわからないけど、そろそろ口を挟ましてもらうわ」
大人しくしていたマリージュカが加わってきた。
「状況から、私たちはここで見逃してもらえるってことよね」
ラークは敗者であることを噛みしめているのかただ大人しく聞く。
「当然、タダってわけじゃないんでしょ」
もちろんと言ったシンは、マリージュカ以上の暗躍の話しを始めたのだった。
残り数話で6巻が終わります。
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