第37話 二つの背中
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
「あのっ、馬鹿がッ!」
隣で歯を食いしばるほど激昂しているナナカミラをよそにシンは大口を開けて笑っていた。
「何が可笑しい⁉」
これが笑ってはいられなかった。
もちろんタダシが口にした理由もそうであったが、それよりもシンは長年の知り合いであるナナカミラが他人事、しかも一度は見捨てたとした者に対して感情をむき出しにしたことに対してだ。
「もう、お前さんもわかっているのだろう。最初は確かに、お前さんの感情を始めて動かしたジャンオル・レナンと再びめぐり合う為だった。しかし、再び現れたのだろう。お前さんの感情を動かす存在が」
ナナカミラは仕事の上で、他人と過ごすことは確かにあった。
だが、その仕事が終われば『影』という形上、別れの言葉はもちろん再び出会うようなことも起きえない。
だから、今回も切り捨ててしまえばそれで終わり。
二度と言葉を交わすことも、会うこともないはずだった。
なのに、どうして、過去を巡るようにタダシと過ごした日々が脳裏を掛け巡るのかわからない。
どうして、見捨てた奴の行く末を見送ろうとまだ立ち止まっている。
さらには、なぜ相手の事を思うような言動が溢れた?
全てが疑問、一つとして答えが出ない。
「素直な感情は、まだそれなのだろう。それを急かす様なことはいわん。だがな、このまま放っておいては近いうちタダシは、困難に乗り切れない事態に陥る。今はまだ不思議な何かに守られているようだが、その困難はタダシを生かしておいてはくれないだろう。もしかすると、死が楽に思える事態になるやもしれん」
脳裏で自分が行ってきた仕事の中にはとても綺麗とは言えないことも起きてきた。
その中にナカムラタダシがいたらという仮想が描かれる。
行動の答えが一つだけナナカミラの中に芽生える。
あとは――、
「まだ守れるぞ」
きっかけなど些細なものでよかった。
敵意も、悪意のない後押しが背中を押した。
「まだアイツ……、タダシは死ぬべきではない」
「ならば、私も行こう。まだ別れの言葉をしていなかった」
「フっ」
ナナカミラは小さな笑みを零す。
変わったのは何も自分だけではなかった。
表舞台から完全に姿を消した存在が再び表に出ると言っている。
「さて、どうなるやら」
最後に言葉を残し、二人の役者がタダシの元へと走り出す。
そんな事を知らず、
「くだらない冗談ね」
タダシの回答が面白くなかったのだろう。
さっきまでと違い、ノーモーションで払われた腕によって、タダシはマリージュカの殺意を喰らう。
あまりに突然の行動に目の前を自身の腕で庇っていたタダシの前に。
聖騎士団国家―元聖騎士機関―所属『影』ウォータリー・ナナカミラ。
元勇者パーティー魔法使い、後に大犯罪者となったゴブリン族最後の生き残り、シン。
二人は殺意を薙ぎ払いそこに現れた。
「な、ナナさんっ、シン⁉」
最新話UPになります、
細かいことは活動報告書にかいておきますので、興味のある方はどうぞ。
引き続きよろしくお願いいたします。




