第36話 久々の
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
「悪いけど、君の死は原種の暴走のきっかけになりうる」
「ん?」
唐突にそんな事を言われてみて、一生懸命に考えた。
その上で、
「なんで?」
理由を見つける事は出来なかった。
俺とリンドとシナは出会ってそんなに時間は経っていないどころか、表現しても顔見知り程度のものでしかない。
俺の容姿を考えたうえで子供の死がきっかけになりうる可能性も考えても見たが、その確固たる理由になるかもわからない。
だって、お互いに知らないことだらけなのだから。
「さぁね、それは私にも明確にはわからないわ。でも過去の原種の暴走の一端は死が関わることが多いわ。その事実がある限り、私の行動は変わらない」
俺はまた考えるしかなくなった。
その上で出てきた答えは存外簡単な物だった。
「一つ聞いても?」
「ええ、なにかしら?」
とても不思議な状況だと思う。
話し合いが通じるにもかかわらず、俺はこの初対面のグラマラスな魔女みたいな女性に命を唐突に狙われている。
「あなたは、リンドとシナを暴走させようとしているってことでいいんだよね」
「端的にはそうね」
「でも、そもそも原種の暴走が危険だから、原種を討伐する。なのにどうして危険な暴走をさせようとしているわけ?」
目の前の女性は「ふふふ」と妖艶に微笑む。
「それが話せるだけ世の中って単純じゃないのよ、坊や」
坊や呼びは、まぁ仕方ないからスルーするけど、回答には困った。
だから、とりあえず、この状況に俺と同様に取り残されている町の冒険者である二人が駆けつけてきたので尋ねてみた。
「カルトアさん、ハーヴェス、二人に聞いてもいい?」
原種がいる事、俺が生きている事、目の前の女性が行っている事、もろもろ着いていけていない二人は、どうしようもない状況に気の抜けた返事で俺に返した。
「二人から見て、どっちが悪いと思う?」
なんとも頭の悪い質問だとは思う。
でも俺もこの状況がよくわからない。
だからこの世界基準で聞いてみたつもりだ。
すると、
「正直、整理が追い付いていない」
「お、俺もだ」
そうなるよねぇ、と二人を責める事はできない。
「ちょっと待て、今の状況もそうだが、タダシ、お前なんで無事なんだ⁉」
「そもそも原種持ちと知り合いなのか? だとしたら、どうしてタダシが攻撃されないといけない」
ああ、そこからかと、ちょこっとだけ理解している俺はそこだけを説明する。
「知り合いってっていうか、最近知り合って、さっき助けてもらって、攻撃してきたのはそっちの女の人の方かな」
うん、俺って説明下手だね。
だから、状況整理と説明を目の前の女性にお願いできないかと視線を合わせる。
しかし、
「そうね、説明してあげたい気持ちがないわけじゃないけど、必要がなさそう」
そう言い終わるや、攻撃のモーションなのだろう。
源素が見えない俺には女性が片手を上げた事だけが解かる。
「じゃ、じゃあ、一つだけ最後に」
「なにかしら?」
格上からの自信か、会話そのものに危機を感じていないのか、平然と介される返答。
だけど、次の俺の言葉に女性は止まるしかなくなった。
「たぶん、二人は暴走しないと思うよ」
一瞬女性は動きを止める。
その上で短な時間考えたのだろう。
「どうしてそう思うの?」
それは至ってシンプルだ。
「だって、今現在暴走していないから」
バカみたいな理屈だが、俺にだって考えがなかったわけではない。
なにより、俺はアイミという原種の暴走の一端を目の当たりにしているわけで、さっきのも含めてリンドもシナも暴走には至っていない。
「だからね、あなたの死が――」
「思うんだけど、暴走って明確に理解されてないんだよね。今俺が考えられる仮説でしかないけどさ。暴走って、原種って呼ばれる魔王由来の人格っていうの? それと元々の人格が共有できていないから起きるんじゃないの?」
女性は上げた腕を下げる。
「確かに、そういう仮説はあるわ。でも不思議ね、どうして君みたいな子がそんなこと分かるのかしら?」
ぞわっと背筋に寒気がよぎる。
脳裏にアイミの姿が思い出されるが、決してそれを口にしてはいけない。
咄嗟にそんな事が頭を過った。
「あなたは一体何者なのかしら?」
一瞬、何かを疑われたのだと思ったが、それはとても簡単な事だった。
最近は、その言葉を封印してきたが、ナナさんに見捨てられそれを白状するのは全部自己責任に戻っている。
だから、俺は久々に簡単に答えてしまった。
「あ、異世界人」
どこか遠くでため息が聞こえた気がした。
2124/2/5
最新話UPしました。
気付けば二月ですね。
早いものです。
では、引き続きよろしくお願いします。




