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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第六巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
202/243

第35話 目指すモノ

2024/5/4

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

誰もが目を疑った。


流れ弾で絶体絶命の危機を救ったのは、現在町の敵として存在していたシナプスだったのだから。


ラークですらその光景に動きを止め地上へと降り立つ。

ラークもまた危機的状況のタダシには気が付いていた。

しかし、あの状況で救うということは自分が無防備になることを警戒し、とっさには動けなかった。


それなのに、なぜ人々の敵である原種があの少年を助けるのか。


謎が攻撃の動きを止めさせたのだ。


だからと言って、敵対関係が終わるわけではない。


どういう理由であっても、原種という存在は危険視される。

ひと時の呼吸をした後、ラークは再び戦闘態勢をとる。


が、戦闘はすぐには開始されなかった。


「えーと、シナだよね? 見た目大分違うけど……変身までできるの? いや、違う違う違う、助けてくれてありがとう」


そんな事を言った、少年の言動によってだった。


原種の知り合い、そんな事実が様子を伺うという新しい選択をラークに与える。


しかし、それも束の間、それは別の者の手によって遮断されることになる。



魔王配下の原種であるシナプスは、目の前のタダシの前で両ひざを着いた。


受け止めた攻撃へとダメージではなく、疲労による限界への現れ、タダシがいったお礼ですら受け止める余裕がなかった。


視点をタダシに向ける事もなく、シナプスは言う。


「…………お願い。……どうか、」


シナプスは胸元をぎゅっと掴み続ける。


「……私はどうなってもいい。……どうか、この子だけは……」


諦めの言葉。


どんな手段を使っても、どんな事をしても切り開かれなかった道。

抵抗は時間稼ぎにしかならず、新しい道を見つける事は出来なかった。


まだ振り絞る力はあるのかもしれない。


だが、それ以前に、希望の見えない道にシナプスは心が折れてしまった。

戦う事からではない。

体を借りている存在を助ける道が見つける事も出来ず、逃げる事も叶わないこの先に、どんな可能性でも縋ることができるのなら、その小さな可能性を生み出したかった。


せめて、この世界のたった一人にでも言葉が届いてほしい。

そんな願いが込められていた。


心の中で眠るリンドは怒るだろう。


小さな手が目の前に差し出される。


それに気が付いたシナプスは差し出したタダシへと目を向ける。


タダシは考え込むように、天を仰いでいる。


ただ、その行動に暗い意味は含まれていない。


なぜなら、


「う~ん、よくわからないけど、とりあえず逃げればいいって事?」


ただ純粋に今のこの状況を理解できていないと明言したからだ。


たった、それだけで、シナプスは救われた気がした。


だから、もう全てをこの少年へ賭ける事にした。


差し出された手へとシナプスは手を伸ばす。


しかし、たった数ミリの距離はそれ以上縮むことはなかった。



マリージュカは妙な納得感を得ていた。


たかが一人の少年にラークという冒険者が興味を持った。


確かに不思議な空気を纏った少年だ。


この戦場へ赴いた事、ラークにあれだけの暴力を加えられたにも拘わらず、この場に辿り着いた事。

理由を細かく一つ一つ作り出したらキリがないが、一番の理由は原種に対して純粋な目で接している事だろう。


まだ子供だから、理由付けをしてしまえば簡単ではある。


「変な子」


総合的に評価をしてもその程度。


だから、マリージュカはお礼を言ったうえで。


「残念ね。希望はあなたにとって絶望になったわよ」


一瞬の殺気。


それにまっさきに気が付いたのはラークだった。


だが、止める事はできない。


そもそもその行動の邪魔が入るのはラークだとマリージュカは最初から理解していたからだ。


ラークの周りに煙が取り囲む。


何かを叫んだようだが、声すらも遮断する煙は簡単には抜け出すこともできない。


その一瞬の隙だけで十分だった。


ただの町の住人である少年を仕留めるには。


手を差し出していた少年は突然、目の前の原種(・・)によって突然攻撃をされ吹き飛んでいった――そう見えた。


辺りにいた者達は戸惑いを隠せない。


助けてくれたのではないか? 

少年の言動から知り合いだったのではないか?


突然起こる急展開に思考がぐちゃぐちゃになっていく。


迷いが生まれ、混乱の中。


たった一言。


「相手は原種ですっ! 力を合わせなさい!」


柄にもないセリフをマリージュカは叫んだ。


町の冒険者から迷いが一掃された。


怒りを含んだ雄叫びがあちこちから木霊する。


冒険者ギルドの少女が吹き飛んでいった少年の安否の為に動き出す。


強さなど関係がない。各々が武器を手に持ち、原種に向かって走り出す。


その光景に源種であるシナプスは、何もできない。


目の前で一筋の希望が何者かによって断ち切られたのだ。


煙によって送られるささやき声。


『あなたの所為よ』


憎しみが、深い深い闇を作る。


「どうして……」


それがどっちの声だったのかは今となっては分からない。


「奪うんだ……」


目の前で失われたモノに、眠っていたリンドもまた目を覚ます。


「これ以上奪うなら!」


闇が支配する。


世界を覆うほどの闇が――、



「殴られんのが出オチかっつのっ!」



広がることはない。


ナカムラタダシという存在が生きている限りは。


吹き飛んだ先で元気に立ち上がる。


リンドとシナから溢れ出ていた闇が止まる。


理解の早いものが動く。


「手ごたえがなかったものね」


「へ?」


タダシの前にマリージュカが現れる。


理解が追い付いていない者には、マリージュカが起こしている事実を視認することはおろか、タダシが起き上がったことすら理解できていない。


いつの間にか目を覚まし、入れ替わったリンドが過去を思い出し叫ぶ。


「今度は救うんだ!」


マリージュカの目的は何一つとして変わってはいない。


そのきっかけはこの少年の死だ。


「やり方は他にもあるわ」


再びタダシに攻撃が繰り出される。


「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


現実は優しくない。


リンドの叫びは空しく通り過ぎる。


マリージュカの攻撃はタダシを捉えた。


再びタダシの小さな身体は瓦礫へと飛んでいく。


しかし、そんな緊迫していた雰囲気も、いつ、どんな状況で、どんな時に発動するかわからない自動防御によって、


「なんで俺ばっかりこんな目に……」


瓦礫に突っ込んでなお、平然と這い出てくる。


「なんなのあなた?」


そう言いたくもなるだろうが、



「いーや、それは俺のセリフだね!」




両者共に納得がいかない。



最新話Up出来ました。

第6巻もそろそろ終わるかな? 詳しくは活動報告の方に書いておきます。

興味のある方だけ覗いてみてください。


それでは、引き続きよろしくお願いいたします。

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