第34話 無力な者達
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
上空で行われている戦いについていけない者達がいた。
戦う意思がある者は上を眺め、せめてできる事をしようとした者は町の住民の避難を指示し警備をする。
上空を眺めている者達は手を翳し遠距離からの援護を考えたものの、果たして援護になるのか、はたまた邪魔になってしまうのか判断すらできない。
「くそっ……、何もできないのかっ」
そう呟いたのは、Cランク冒険者『鮮血の爪』のリーダー、ハーヴェスだった。
「仕方ないといえば仕方ない。現状、建物以外の被害もない。避難誘導の冒険者の数も足りている。不幸中の幸いといえばそれだけ」
『鮮血の爪』のメンバーの一人であるコナカミはそう呟く。
「俺たちだけじゃないしなー。ま、違う冒険者もいるみたいだけど」
そう言った、『鮮血の爪』のメンバーの一人エゴイスは、走り寄ってくる冒険者達に道を空け端へと逃げる。
「ハーヴェス!」
駆け寄ってきたのは、『風の行方』のメンバーであるカルトア、メダ、ルピナスの三人。
「何か用か?」
ハーヴェスは苛立ち半分でそう尋ねる。
「すまないが、俺たちはここから離れさせてもらいたい」
いちいち許可が必要かとも思うハーヴェスだったが、確かにこの状況下の中いなくなれば逃げ出したようにしか見られないだろう。
で、あれば理由は何かとハーヴェスは考える。
そしてその答えはすぐに思い付いた。
そもそも、この状況になる前ラークを追いかけまわした理由と同じだったからだ。
こんな大事件になったことで忘れてしまっていたが、事件が起きなければ気に掛ける事くらいはしただろう。
「ああ、どうせ何もできないからな。せめてあいつを安全な場所にまで逃げていろ」
一応、この町での最高ランクの一人であるハーヴェスは意図をくみ取ったつもりだった。
しかし、思っていた返答とは少し違うものが返ってくる。
「ありがとう。それで頼みもあるんだ」
「頼み?」
この場からいなくなる事が頼みだったと思っていたハーヴェスはその内容までは分からず訊き返す。
「ああ、万が一タダシがこの場に来てしまったら、どうにかして追い返してほしいんだ」
カルトアの言っている意味が分からずハーヴェスは再び訊き返す。
「あいつらの証言が事実ならタダシは動けない状態だろう。なにより、ボコった相手がここにいると分かっているなら猶更来ないと思うが?」
カルトア達三人は顔を見合わせる。
「それが事実であるならそれでいい」
複雑な表情でカルトアが言い。
「あのバカは予想外にそこを超えて来るんだよ」
メダが続く。
「本当に何かあった場合、ダンジョンの時みたいに変な行動を起こす子なんです」
ルピナスが感謝と優しい声色で付け足す。
「常識足らずの行動って意味なら、今の立場から少なからず理解はしているが?」
なにやら対抗意識のような意味を含ませたハーヴェスに、エゴイスが吹き出し、殴られ飛ばされる。
短い期間だったとは言え、ハーヴェスもまたタダシを見守っていた一人だ。
しかし、行動を共にした者と、していない者とでの違いが反応に違いを見せた。
『風の行方』の三人は同時にため息を漏らした。
「なんなんだよ? いくら何でもこれだけの騒ぎだ。自分から首を突っ込んでくるなんてないだろ?」
呆れたような三人の表情。
そして、
「「「それがタダシだから」」」
どこかで誰かが言ったセリフを三人は吐き出した。
吐き出したと同時、そこにいた冒険者達は目の当たりにする。
予想通り何も知らない話題の少年が、
「……なんじゃこれ?」
町の被害に呑気な感想を述べ、上空で巻き起こる戦いの流れ弾の着地地点へと現れた。
「へ?」
登場と共に即退場。
そんなサブタイトル表すように、少年の上空から死が迫っていた。
「逃げろ」そんないくつもの声が、冒険者達の慌てた叫び声で木霊する。
理解が追い付くはずもない少年から最後の言葉は。
「は?」
ナカムラタダシという存在は、その状況が理解できないままだった。




