第2話 ~平穏を勝ち取るということ~
2021/1/23 読み直し(一回目)編集しました。
2021/3/17 誤字脱字、ルビ振り追加、文章追加、台詞の言い回し変更など、編集しました。
どこかの山。
人が立ち入ってこない場所に俺は小さな寝床と自給自足の畑、小銭稼ぎの大きめな畑を有していた。誰の山かは分からない。
そもそも持ち主なんて概念があるかすら怪しいものだ。
だとしたら、どこを住居にしようが勝手なわけで、見つからない限りは自由にできる。
そもそも、森の中に住んでいる人間は基本的にはいない。
なぜかといえば、山もしくは森には野獣に猛獣、魔獣に魔物を基本とした危険生物がいるのは常であり、冒険者稼業を生業としていない限り一般の人間は近づかないのが鉄則とされている。
その冒険者にしても、なにかしらの依頼を受けない限りは近づくことはない。
そして、その依頼は基本的に出されることはない。
依頼が発生するのは山の中腹辺りまでであり、そもそも人が立ち入らない場所には依頼など出す理由がないのだ。
さらには、俺に齎される被害は、自作の罠によって避けられている。
そうして、俺は平穏な日常を手に入れた。
ここまで安定した日常に俺は手心を加える気がない。
それこそ最低限生きていけるだけでいいのだ。
それに俺はもうくたびれた。
もうそれは本当に疲れたんだ。
仕事にも人間関係にも、人は死ぬまで悩み続ける。
それがいい加減、嫌になった。
だから、俺がここにいるのはそんな神様が呆れて放り捨てたんだ。
「だからっ、異世界の環境最高ですっ!」
木陰に背を預けながら足を延ばし、そよ風に吹かれながらまだ読めないけど読書をする。
誰に文句を言われるまでもなく、自由気ままこのまま眠くなれば昼寝に移行し、また気まぐれに畑を耕し、飯を食う。
そんな日々を続けています。
ありがとう異世界。
ありがとう神様。
ありがとう怠惰。
ドガァアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!
「はぁ……」
そうは言っても全く苦労がないというわけではない。
それどころか、今の環境を整えるのに大変苦労をした。
山の中に都合のいい小屋があったわけではないし、畑は耕し肥料を撒いた。
当たり前だが、畑に水もやる。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!
それを一年という月日で、さらには十歳の体でやり遂げたのは、やはり俗にいうチート能力のおかげなんだろう。
いや、だって、冷静に考えてごらんよ。
いくらなんでも山に一年籠ったからってここまでの生活環境十歳じゃなくたって無理よ。
じゃあ、どんなことができるのって?
いやそれは知らないよね。
いやいや最低限は確かめたよ。
手から火が出せないかとかさ。
でもほら、俺普通に生きられればよかったから、戦闘系の能力いらなかったんだよね。
バガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!
だから、現状把握しているというか、よく使う能力は三つ。
一つ、種の急速成長&強化。
二つ、身体能力向上。
三つ、回復。
まぁ、言いたいことは分かるよ。
でもさ、よくいう異世界物の主人公って、チートにしろそうじゃないにしろ、それを使うアイディアを思いつく存在であって。
そもそも思いつかなかったらしょうがない。
例えば、畑に水をやる。
じゃあ、その水はどこから運ぶ? ってなった時、真っ先に俺は、バケツを作って川から水を運ぶって思いつくんだ。
んで、川までダッシュする脚力と体力、道中でかすり傷を負ったら、回復するって思いつくんだ。
でも、きっと物語の主人公は、魔法で水を出すってのを思いつく。
さらに上級者になれば水道を作ってしまう。
結局のところ、宝の持ち腐れだって自分でも思う。
言い訳をするようだけど、その場で思いつく限りに能力は使っているつもりだ。
ドガバガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!
そして、さっきから聞こえる破壊音。
俺の住居から近いところで誰かが暴れているようだった。
「確認しておかないと」
俺の住居が気付かれても困るし、なんだかんだいって、自宅警備兵も日課の一つだった。