第25話 運命の歯車
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
魔王の原種の出生は謎とされている。
いつ、どこで、誰に、どの種族に宿るのか全くの不明。
加えて、なぜ、魔王の配下でも転生する者、しない者がいるのかも解からない。
それは魔王の配下だった現在原種と呼ばれる存在にも理解が出来ていない。
二度原種として生まれ変わったものもいれば、一度も原種として生まれ変わったことのない者もいた。
そして、歴代十一人の魔王と呼ばれる存在だけはただの一度も原種として転生を迎えた事はなく、魔王という存在が途絶えた後、魔王の原種という新しい存在が誕生した。
その存在の誕生により、仮説として魔王の原種以外にも、種族内での原種は存在している可能性は示唆されてはいる。
が、魔王の原種と違い、一つの身体にもう一つの意思として存在することはない為、仮説の息を出ない。
歴史上最初の原種として生まれた存在は、魔王の再来とまで言われ、世界の破滅を目論んだが、それは過去の英雄達の手によって討伐がなされた。
そこから原種という存在が世界に広がりを見せた。
以降、原種は悪であり魔王ではない。
人の手によって倒せる存在である。
それを繰り返し、時は流れ、人は魔王の悪を超えた。
原種という存在は、人の闇の部分によって、世界から隠され兵器として軍事利用されることになる。
その対象が一人で二人であるリンドとシナだった。
リンドは幼い頃には親という存在が他界。
小さな田舎の村で生まれ育ったが、時折、姿形が変化し、その変化を村人は気味悪がり、十を超えない年には村を追い出された。
そんなリンドだったが、常に心にいるもう一人のおかげで孤独を感じる事はなかった為か、暴走することなく、なんとか生きてこられた。
ただし、平和な世界であるがために、生きる為の手段が限りなく少なく苦しい思いもした。
だからだろう。
暴走は一度としてしなかったのに、姿かたちの変化を見られ、幼かったゆえ原種としての存在を見つけられてしまう。
それが、リンドとシナ十二歳の頃――。
「本当だろうな?」
幼きリンドは、心の声の忠告を無視した。
目の前にいる裕福で割腹のいい腹を突き出した貴族は、優しい声色で食事の提案と、原種という存在の情報を引き換えに手招きをする。
「本当さ。君みたいな存在は他にもいる。そこでどうだろう。タダというには君にとってはうますぎる。信じるにしても不安が付きまとうのも分かる。そこで、取引をしよう。君たちのその能力は特別なものだ。それを私の為に使ってほしい。もちろん、結論は君たちという存在の説明が終わってから決めてくれていい。こちらからの対価として仕事を終えた後に給料を払い、君たちはその金で生活を送る。ごく一般的な労働というわけだ」
幼いリンドは口に手をやり一人呟く。
「仕事があれば、普通の生活ができる……」
『リン駄目よ。生きるだけなら、この人の話を聞く必要はない』
幼い子供の腹から、大人顔負けの鳴き声が響き渡る。
それが、リンドの選択を絞っていく。
「はっはっは、立ち話もなんだ。とりあえず、食事をしながら考えてもいいんじゃないか?」
誘惑を断ち切る為には、まだ思考が幼かった。
「メシを食いながら……、決めるのは後でもいいなら……問題ないはず」
思考を埋め尽くす目の前にぶら下がる人参。
『はぁ……、好きになさい』
いざとなったらともう一つの思考が警戒を受け持つ。
「では行こう。素晴らしい交渉には、素晴らしい食事が付き物だ!」
がっはっはと笑う背中には、後ろめたさは感じない。
それが、どこかで疑う気持ちを隠そうとしている。
だが、小悪党の思考によって運命は動き始めた。
原種として、原種を持つ者として――。




