第22話 休息
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
――疲れた。
ほんの一瞬脳裏を掠める言葉。
それをもう一人の自分に聞かれるのではないかと頭を振るいながら、リンドは目の前の現実に立ち向かう。
Aランク冒険者『迅雷の辻』との戦闘は防戦一方で終わる。
奇襲も不意打ちもリンドを追い詰めたのは最初だけだった。
そこに差があったとすれば、背負っている物の違いと、潜ってきた修羅場の数といえば聞こえがいい。
仮にこの戦いを第三者が見れば、魔王の原種という世界を揺るがす力の前に数いる冒険者の一つが力負けしただけに過ぎない。
だが、それは表面上での話。
戦いに勝ち命までは取らなかったまでも地面に突っ伏している冒険者達が残した呪いともいえる言葉。
追手はまだいるという事実。
そして、現状における結界という檻にも似た牢獄に囚われている事実。
終わらない。
どこまで行っても終わらない逃走劇に、立ち向かってきたAランク冒険者はしっかりと役割を果たしていた。
疲弊は肉体を超え、精神的にもやってくる。
それも覚悟しての逃亡。
甘くはない。
だけど少しだけ、休息が欲しい。
リンドは囚われている状態にも関わらず、尻餅をついて警戒を緩める。
脳裏では、何が起きても対応できるようにと思考し、やはりというべきか完全に気を落ち着かせることはできなかった。
無計画の代償だなとリンドは嘲笑ぎみに笑う。
そんなリンドを心配し、何か声を掛けようとするシナは、ふいに逃亡生活で初めて他人との接点となった少年の話しをし始めた。
心配の言葉は逆に負担になる。
だからこその選択だった。
『あの子、不思議な子だったね』
その気遣いに、リンドはすぐに気が付いたが、特に抵抗は見せない。
「ああ。結局あいつは何だったんだろうな」
『それを知らずに、私達と同行させようなんて無茶を考えるから』
「思いつきなのは事実だったけどな。なんとなく、こいつがいればなんとかなるかもしれないってな」
『それって勘?』
「勘」
明確にはっきりと不確かな事を言いきるリンドに、お互いに一瞬沈黙する。
そして、
「ふっ」
『ぷっ』
あははははは、とお互いに笑いあった。
ほんのひと時に安らぎ、それだけであの少年に出会えたことは運がよかったと二人はどこかで思う。
再び訪れる沈黙に、お互いがお互いに思う。
この束の間のひと時はいつまで続くのだろう。
再び、この時はやってくるのだろうか。
いつまで――。
リンドは立ち上がった。
「オレ達は一人じゃない」
『ええ、ありがとう』
重くのしかかる決意を背負い直し、二人は終わりが来るその時まで歩み続ける。
細やかな夢を抱きながら――ひと時の平穏は終わりを遂げる。
二人の冒険者の訪問者が到着した。
2023/10/9少しだけ文章を変更、追加しました。




