第21話 負け惜しみ
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
ぎしりとラークの拳が強く握られる音が鳴り響いた。
「どうりで、胸糞悪いと思った。聞き分けのいい冒険者達はお前の息がかかっていたわけだな」
「あら、心外ね。そもそも魔王の源種を持つ相手に、いくらSランク冒険者とは言え、たった一人に依頼がいくと思ったのかしら? それに、その苛つきは、幼い子供を苛め抜いて気が滅入っているのかしら?」
そう言いながら、足を組み飛び出た岩に座り、パイプから白い煙を吐き出すSランク冒険者、通称、『煙の魔女、マリージュカ』がそこにはいた。
「いつからだ?」
それは、道中での監視での違和感を確かめるために聞いたものだ。
「あら、意外ね。そんなの最初からに決まっているでしょう」
そう言われ、違和感を覚えるラークだったが、それ以上は聞かない。
妖艶でいて不敵な笑みを浮かべるマリージュカにいら立ちを覚えたのもあるが、だとしたらあの場面で気配を察知されるような真似はしないと思ったからだ。
「あ、そうそう。あなた原種の存在を簡単に口外してはダメよ」
どこまで情報が筒抜けなのか、『迅雷の辻』に源種の事を話したことを言ってくる。
「魔王の原種は表では全て討伐済みとなっていることくらい、あなただって知っているでしょう。いくら、同業で高ランカーだとしてもその真実を知っていい者は限られている。そういう意味では、私に感謝してほしいくらいだわ」
「余計なことはいい。なぜこのタイミングで姿を現した?」
「つれないのね? 久しぶりに会ったというのに」
「元々のパーティーすら違うんだ。慣れ親しむ必要はないだろ」
長い髪をかき上げながら、「それもそうね」と興味なさそうにマリージュカが言うと結論へと向かう。
「あなたは余計な事と言ったけど、魔王の原種の詳細は基本口外が許されていない。それは脱走を許した国だけでなく。それに関わる世界が共通しているわ。今回の件は全てが内密に行われている」
「何が言いたい?」
「何が言いたい⁉ 本気で言っているとしたら、関心すらしてしまうわ」
厭味ったらしくいうマリージュカは、その場で立ち上がると現状の説明をする。
「今回の原種は討伐依頼ではないわ。捕獲命令、それは分かっているわよね?」
ラークは黙って話を聞く。
「それも、誰にも気づかれずにってのが最低条件なのよ。つまりあなたのような戦闘狂が、原種がいたらから戦いました。それも辺りに甚大な被害、もしくはそれと同等の騒ぎを起こしてはダメってことなのよ」
ラークは回りくどい言い回しにいい加減嫌気がさしたようにため息を吐いた。
「結論だけ言え」
「つまり私の邪魔はしないでってこと」
そして、ラークは気が付いた。
「お前、すでに見つけているのか?」
そう、ラークは気配そのものを察知したものの、その存在自体は発見にはいたっていない。
その道中の寄り道で少年の冒険者になるという夢を砕いていた。
「煙の魔女とはよく言ったものだ」
「あら、煙に巻いたとでも言いたいの? 多少の手助けはしたものの実行は彼らに任せているわ」
「たかが、Aランクにか? お前こそ原種を舐めてるんじゃないか?」
「ふふ、だから言ったでしょ。討伐ではなく、捕獲なのよこれは」
そこでラークはようやく、マリージュカがこの場に現れた意味を悟る。
「結界⁉ すでに接触しているのか⁉」
つまり、ラークに手出しさせない様、足止めの為にマリージュカがこの場に現れた事に気が付いた。
「呆れた。今更気が付いたのね。もうこれでおしまい。折角だから、あの子たちの手伝いでをしてくれていいのよ」
ラークは後手に回ったことに対して、後悔はしないまでも負け惜しみの一つだけ言っておく。
「どうなるか結末は見届けてやる」
「潔いのはあなたの良いところよね」
憎たらしいほどの嫌味を言いつつ、
「じゃあ、折角だからあなたにも立ち会ってもらおうかしら、性に合わない立ち回りのストレス解消になればいいけど」
本当にどこまで見ていたのか、若き少年の障害になったことを最後に、ラークはマリージュカの後を追う。
ラークは、不思議と悔しさを微塵も持っていなかった。
それよりも、心に引っかかる二つの要因に意識が傾いていた。
一つは道中での謎の気配。
そして、あの少年のこと。
少年の未来を考え冒険者になる心をへし折った少年。
それに後悔はないまでも不思議と何かが引っかかる。
あの最後まで立ち上がる意思なき意志。
それがどこに向けられていたのか不思議と気になっていた。




