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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第六巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第19話 虚しい雨

2024/5/4

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

俺の決意は緩い。


それはもう知っている。


長年、この性格で諦めてきたことだ。


だけど、そんな俺でも逃げられない状況に陥ってしまったら、立ち向かわなくてはならない場面がいくつかはあった。


だから、今回に限り俺の意思でその場面に仕向けた。


逃げられないように――。


どこまで行っても世界は優しくない。


そんな決意は何一つとして、現実を打ち破ってはくれなかった。


鈍痛が腹を襲い、自動防御は働かないことが早々に明かされる。


「――っ、うぐぅううううううううううううううっっっ」


たった一発。


突然現れた冒険者ラークの、瞬間的な移動に驚くよりも早く俺は殴られたことを痛みで知る。

過去にも知らない痛みによって、恥じらいも外聞もなく地面を転がる。


「あーあ、手加減してこれか」


「ふぐぅ、うぐぅ」


ラークの言動に耳を傾ける余裕もなく、鳴き声が勝手に漏れ出る。


「まだ、痛みすら知らなかったか? ただな、現実は痛みだけじゃ済まないことがある。その世界にお前は飛び込もうとしていたんだ。それを徹底的にお前に身をもって教えてやる。逃げたきゃ逃げな」


転がり続ける俺の体がラークの蹴りによって飛んでいく。


痛みは続いている、それでも勝手な言い分に、少しはやることを……、やらなければいけないことを思い出せた。


「来いよっ!」


強がりで、ナナさん直伝の構えで相手に立ち向かう。


――立ち向かう姿勢を見せた。


だけど、俺は何もわかっていない。


構えた時にはすでにラークはすでに横にいた。


それに気が付かず、顔面が横にゆがみまた吹っ飛んでいく。


吹っ飛んだ先で、先回りをされ再び殴られる。


その度に痛みがやってくる。


幾度となく、幾度となく。


抵抗も空しく?


違う。


抵抗も、ましてや殴りかかろうとする姿勢すらさせてもらえない。


せめて、殴る覚悟を示すだけでも何か変わるんじゃないかと思わされる。

何もできないことで、できたとしても何も変わらないと知っていることにすら縋る始末。


殴られ続ける中で一瞬ラークの顔が見えた。


そこに感情が乗っていない。


ああ、この人は、俺に興味がない。


ただ、冒険者として目の前の命を救うために現実を知らしめようとしているだけ。

やり方が乱暴なだけのある意味で冒険者らしい手段。


お互いが、お互いに興味がない。


……なんだ、これ?


思考が無意味な方向へと向かっていく。


どうして、殴られているのか分からな――。


「う、うわぁああああああああああああああああああああああ!」


俺はとにかく暴れ、叫んだ!


突然の奇行に、ラークの頬に俺の拳が微かに、ほんの微かに掠める(かすめる)


恐怖から来る叫びではない。叫んででも思考を止めなければいけなかった。

そうしないと俺は俺の意思を砕かれるそんな気がした。


逃げるのは一向にかまわない。


だけど、どう考えても逃げる手段が存在していない。


だけど、せめてやられっぱなしだとしても意志だけは繋ぎ置き留めておきたかった。


「根性だけではな」


それをどう捉えたのか分からないまでも、開始直後から続いた攻撃が初めて止んだ。


「来いよ」


俺は腕を前に組んでガードを固める。


「なんのつもりだ?」


もはや相手の姿すら見ていない俺にラークは怒りを含ませ問う。


それに俺は答えない。


答えたところで余計に怒りを買うだけなのが分かっていたから、そして、答えたところで意味がないと思っていた。


「耐える耐えないの話じゃないんだよっ」


それを最後に、再び圧倒的暴力が始まった。


それからは、発せられる声もなく一方的に殴られる。


これは勝負ではない。


そもそも勝敗すら存在していない。


気を失うことができれば、楽になれる。


だが、相手の目的がそれじゃない以上、手加減の暴力は続く。


泣きながら、諦めを口にすれば終わる。


何か一つ、相手が満足する答えを出すことができれば、この無意味は終わる。


溢れ出す逃げ道を見つけては、何かがソレを留めていた。


そうして、その答えは出ることがないまま、俺の体と心はすっかり痛みという恐怖に支配された。


震えが止まらない。


もう殴られたくない。


逃げ出したい。


――思考が完全に停止する。


「わかんないな。なぜ立つ?」


それなのに、思考が停止してどれくらい経ったか、少年は立つことをやめていなかった。


そこに意思はない。


目に宿す光もなくなった。


終わりの訪れ。


「胸糞悪い」


義務なのか、義理なのか、やらなければいけないことをしただけの冒険者は終わりが来たことに息を吐く。


雨はまだ止む様子はない。


本来であれば気を失った子供を運ぶまでが役割であった。


だが、S級冒険者であるラークはその場から離れ姿を消した。


後は、その場にいたにも拘らず、最後まで現れなかった傍観者達に押し付けた。


気を失いその場にいた少年は雨音に交じる足音をただ待つように立ち尽くす。


「こうまでして、お前は変われなかったのだな……」


足音の正体は寂しそうにそう呟いた。



さて、少し暗い話が続いています。

続きはどうなるやらって感じですが、引き続きお付き合いいただけたら幸いです。


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