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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第六巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第18話 雨の憂鬱

2024/5/4

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

雨は次第に強さを増し、乾いた大地に水たまりを作っていった。


「いつまでそうしているつもりだ?」


『闇の回廊』の中から出てきたナナカミラは、シンにとやかく言われた。

しかし、ナナカミラはそれに返答することなく、動こうともしない。


どこか遠く、何かを探すように遠くを眺める。


次第にシンは諦めたように一息吐くと、それに付き合うように後方から見守り続ける。


タダシが一人去ってからどれくらい時間が経ったか、戻ってくる気配がないことに違和感を覚えた。


タダシは源素がない。それは気配を察知することができないということでもある。


ふと、雨に濡れるナナカミラの背中がブレた気がした。


シンは、その姿にようやく気が付いた。


「手を出すなよ」


そうナナカミラだった者が言葉を話した瞬間、ナナカミラだった者が影となって消える。


「っ⁉」


まるで目の前が切り開かれたように、強い源素の気配が感じ取られた。


「いつから⁉ それよりもっ、何を考えている!」


シンは急いで強い源素の気配がする方へと駆ける。


雨が次第に強さを増していき視界が徐々に悪くなっていく中、ナナカミラがいた。


「どういうつもりだ?」


雨が降り注ぐ音で遮られながらも、確かにシンの言葉はナナカミラの耳へと届く。


ナナカミラは何も言わず視線で「下を見ろ」と視線を投げかける。


自然の猛威が徐々に強くなっていくなかで、源素の気配は乱れに乱れている。

そんな中でも強く感じ取れる強い源素の持ち主である冒険者がそこにはいた。


そして、もう一人、その強い源素の持ち主に立ち向かい泥水で汚れ、善戦とも言えない情けないほど殴り続けられるタダシもまたそこにはいた。


手加減はもちろんされている。

しかし、その手加減はナナカミラやシンがするようなものとは違い、あくまで殺さないための手加減。


「自動防御とやらは働いていない」


ナナカミラの機械的な報告。


シンはナナカミラの意図には気が付いた。

気が付いたが、


「……助けんのか?」


「……何のために?」


シンはその解答にナナカミラの顔を覗き見る。


何を思っているのか、何を考えているのか、感情が籠らないその表情。


久しぶりに出会ったときに感じた人間らしさが消えている。


戻ったといってもいいのかもしれない。

『影』として任務こなし、それだけが生きている理由だったあの頃に。


「ジャンオル・レナンの事はいいのか?」


すぐに返事は返ってこない。


その間も殴られれば立ち上がり、向かっていくわけでもないタダシは手を出せないでいた。


そんな姿を眺めながら、それで尚、ナナカミラは言う。


「……あの人を追いかける意味など、初めからなかった。……あの人は生きている世界が違う。……そんな人に私の存在など意味なんてないんだ」


まるで、タダシの姿が見えていないかのように。


『闇の回廊』で何があったかなど、シンは訊かない。


「お前さんはそれでいいのか?」


「同じ穴の貉……」


なんのことかわからず、シンはタダシの姿を眺める。


「……闇の世界の人間は、闇の中でしか生きてはいけない」


シンは源種がいた事実から、何かを悟る。


「……もう一度聞くぞ。お前さんは、それでいいのか?」


返事はなかった。


「タダシはどうするつもりだ?」


雨はさらに強さを増す。


「……これで変わらなければ一生あのままだ。あいつに使う時間もここまで……、」


危険な荒療治。


ナナカミラはタダシの護衛という任を捨てようとしている。


「それでタダシが納得すると?」


「変われば、あいつは勝手に進む。ダメならあいつは落ちていくだけだ」


あまりに自分勝手な言い分。


それにシンは、


「タダシを使って、自分の殻に籠ろうとしているだけだろう」


声を荒げないまでも強い口調で言い放つ。


「あいつもまた同じ穴の貉だった……それだけだろう」


ぼろぼろになっていくタダシを眺めながらシンは言う。


「……果たして、どうだろうな」


「ふっ、自分の境遇の期待をあいつにしているのか? だとしたら、それはない。あいつとあの異世界人は別物だ」


それはシンが出会ったことがある異世界人の存在。


「不可思議な存在に惑わされ、妙な期待に誰もが縋り、現実から目を背けたくなっただけの幻。それがあいつの本来の価値だ」


シンは言い返えさない。


ナナカミラの言っていることはすべてが間違っているワケではなかったからだ。


「……もう限界だろう。助けたかったらあとは好きにしろ。もうこれ以上は、無駄だろうからな」


タダシは限界を超え、恐怖を植え付けられたその表情は、怯えていた。


ナナカミラ踵を返す。


「挨拶すらせんのか?」


「説明は好きにすればいい」


そうして、雨が隠すようにナナカミラは姿を消し、またもう一つの決着がついていた。


完全に気を失ったタダシを残し、強い源素の気配を持つ者はその場から離れていく。


シンは一人この戦況を嘆き、タダシの傍へと近寄って行ったのだった。



最新話になります第6巻19話になります。

今月はあと数話UPできる予定ではありますが、どうなるかはわかりません。


そんな作品ではありますが、お付き合いいただけると助かります。


活動報告はお好きに覗いてください。

では。


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