第16話 天候
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
一人になってようやく冷静さを取り戻しながら俺は自己嫌悪にため息を吐く。
「情けなすぎる……」
今までの事を誰かの所為にする気は考えてもいなかった。
だけど、感情が弱っているところにお説教が、高ぶる感情を抑えることができなかった。
いい歳こいたおっさんが何してるんだろう。
「感情のコントロールなんて得意なはずだったのになぁ」
幾度となく漏れるため息を吐きながら離れた地点まで来ると、今度は現実が襲ってくる。
「どういう面で戻ればいいんだ」
結局、あの場から離れた俺は、あの場所で何が起き、結末がどうなったかは分からない。
シンがいるから最悪な事態にはきっとならないだろうけど、その場から消えた俺の状況はナナさんも知ることになるだろう。
「……はぁ」
怒られるならまだいい。気を使われて何も言われないほうがキツイ。
だが、時間が経てば経つほど気まずくなるのも目に見えている。
戻るのなら早いほうがいい。
俺は来た方向へ向き直すと、重い足取りをのろのろと足を動かす。
それでも一歩一歩の歩幅が無駄な抵抗をしめすのまでは許してほしい。
なにげなく辺りの景色を眺め、どれくらい歩いただろう。
快晴だった空がいつの間にか分厚い雲に覆われている。
「おいおい、俺の気分を表すように雨なんて降るなよ。さすがに惨めすぎる」
町から離れていた俺の秘密基地から、さらに北の方向へと向かったから、戻るまでそこそこ時間がかかるだろう。
道らしき道もないため迷っていない限り人とすれ違うなんてこともないはずだ。
それが返って一度決意した覚悟を惑わすことになるだろうから、ここから先はできるだけ別の事を考えていきたい。
考えなければいけないのは、今後だ。
源種とされるリンド達と出会ったことで状況は変化したのだろうか?
ナナさんはどうして源種というだけで戦いを始めたのか。
いや、それは答えが出ている。俺の逃げられる場所を確保しようとしたからだ。
だから、俺は納得がいかなかった。
それが成功するということは。
俺の所為で関係がない犠牲者が生まれる。
それはきっと後悔に繋がる。
ナナさんの考えは間違っていないのかもしれない。
この世界では俺の考えが甘くて、それでは生き残れない。
ただ、俺はそこまでして……。
そこまで考えると、俺はこの世界で何をしている。
何をしたい。
そんな原点に立ち戻っていた。
少しだけ、この世界に来た当初の事を思い出す。
最初は帰る手段を見つけようとした。
でも、それが無理なのを悟るとこの世界で生きていく決意をした。
だけど、その決意は諦めただけの選択をしていない、選択。
「うわー、端から俺って何も決められてねぇ」
受け入れた性格に嫌気がさす。
「なんで俺って異世界にいるんだよ」
脳裏を駆ける数多の物語たちの主人公。
俺はあなた達のようにはなれませんでした。
目指そうとも思いませんでしたけど。
「うん、いい性格してるわ」
長所と短所は紙一重だった。
ーーポツリ。
「あ、マジで?」
一滴の水滴が頬へ伝わる。
「罰ですか、罰なんですか⁉」
情け容赦ない天候の変化が、襲う前触れ。
そんな時、天候とは別の不自然な強風が俺の横を通り過ぎた。
そして、その強風の元が急停止して俺の目の前に現れる。
「しまった天候まで予測してなかった」
Sランク冒険者。
通称、疾風のラーク。
「気配も消えちまったし、追うのは無理か」
俺と同じ格好をしたその青年はどこからともなく現れたのだった。




