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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第六巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
182/243

第15話 八つ当たり

2024/5/4

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

一通り無駄な抵抗と知りつつも、蔓の牢獄を破ろうとできる限りの抵抗はしてみた。

案の定というべきか、噛みついて歯形の一つもつかない牢獄はびくともしない。


「やっぱり自爆覚悟の自然源素だけが頼りか……」


俺は頼りの綱を使うにあたって自動防御が発動することだけを祈る。


一旦息を吐き、色々思うことはあるけど、集中するために目を瞑る。

そうしてから、いつものように辺りの源素を集めていく。


「全くそんな事のために教えたわけではないのだがな」


ふと、牢獄の外から聞き慣れた声が聞こえ、一瞬の浮遊感に襲われる。


「――うわぁあああああああっっっ⁉」


牢獄の底が抜け、俺は突如として外へと放り込まれた。


「ーーあだっ」


当然キレイな着地などできるはずもなく、尻から衝撃が脳天にまで駆け上る。

牢獄が宙に浮いていなかったのだけが救いだった。


「訓練はあくまで訓練、その力は多用していいものではないと説明していただろう」


尻もちを着いた先に、明るい日の元で見るのは初めてかもしれないシンがそこにはいた。


「うわっ、ゴブリン⁉」


完全に冗談で言ったつもりだった。


「うるさいわっ」


こつんと杖が俺の頭を叩く。


「いっだっ」


この程度では自動防御は発動してくれない。


冗談もそこそこに俺は立ち上がると、珍しい光景に聞くことは限られた。


「珍しいね」


「これだけ奇妙な気配が近くにいれば確認くらいしにくる」


「ああ、源種の気配ってやつ?」


シンは少し驚いた表情を作る。


「あれ、わかってたんじゃないの?」


「奇妙といっただろ。源種の気配という表現はあるが、そのものはそのへんの源素の気配とそうかわらん。源種の気配を捉えるというよりは、気配が複数感じられるときに、そう表現するんだ」


「ふ~ん」


初めての知識に反応薄めだが、どこかの冒険者は確信を得たように言っていたことが記憶の片隅に蘇る。


「あいつら、当てずっぽうで言ってたのか……」


懐かしき冒険者の三人組。

今思えば冒険者の印象はあいつらから始まっている。


「まだ説教は終わっておらんぞ。その力の正しい使い方はまだ決まっていないだろう。それをホイホイと使うんじゃない」


そうは言っても、この力はもともと俺の源素の復活を見越していたものだ。

だけど、それがうまくいかなかった。

挙句に最近ではその成長も芳しくない。

だとしたら、緊急と思われる事態に使うのは至極全うだと思うのだ。


「他に使う場面ないじゃんか。それに使うことでその幅が広がる可能性だってーー」


「バカタレ、お前さんは逃亡の身だろうが、ただでさえ、その力は夢のような位置づけにあるんだ。それを誰かに見られても見ろ。お前さんは本来の追って以外からも追われる身になるぞ」


なんで、そんなもの教えた。


「一応、緊急時の時にしか使わないように気を付けているつもりだよ」


ナナさんが『風の行方』を抹殺しかけた時以来、そう認識はしている。


「理解していても、結果使用しているようではいかん」


だんだんと俺は苛ついてきていた。


これは八つ当たりなのかもしれない。


自分ができないことが多くなってきて、ついさっきも邪魔者扱いされたことに対して、やり場のない怒りがそうさせていた。


「だったら、もっと実用的なことを教えてくれよ。今のままじゃ役に立つ以前にややっこしい能力が一つ増えただけじゃないか」


「なんだとーー」


その言い草にシンの顔つきが変わる。


「お前さんの場合、身につく能力の問題ではない!」


「戦うつもりなんかないのは変わりっこない! それでも誰かのために使える力だったり、ただ逃げるだけの力だっていい!」


「誰かの為の力? 笑わせるな!」


「な、なにがおかしいっていうんだ!」


「誰かの為に役に立つことは能力の問題ではない!」


ぐうの音も出ない。


俺は言葉を絞り出そうと考えるが、俺が間違っていることはわかっていた。


だけど、だけど……。


「お前さんはそれを知っていたはずだがな」


静かに零れるシンの言葉に怒りは、あまりに情けない自分を噛みしめさせた。


それからは、ただの弱音だけが吐露していく。


「何も変わらないんだよ。俺はただ、のんびり暮らせればよかった。異世界転生モノみたいにチート能力で敵を倒したかったわけじゃない。なのに、俺に合わないことばかり続いて、少しやる気になってみても、できることが変わらない。俺はどうすればいいんだ」


あまりにも情けない。


それはここが異世界だからというわけじゃない。


元の世界でもそれが変わらないから、できないことには立ち向かわず、逃げてきた。


異世界という新しい世界でなら少しは風向きが変わるかと思っていた。

だが、待っていたのは、結局はその場に流されるだけ。


俺は何一つ変わっていない。


だから、諦めたのだ。


俺は俺という考えを持った人間を諦めた。


ただ、最近は起こる出来事が思いのほかうまくいっていたせいで勘違いしてしまった。


俺は凡人以下だったはずだ。

例え、そこにすごい能力が付与されようと、使う者によってゴミへと変わる。

そう考えれば、源素が使えなくなったのは、誰かに取り上げられたのかもしれない。


「はは、ざまぁねぇな」


そんなことわかっていたはずだ。


俺は一旦深呼吸をする。


そうわかっていたはずなのだ。


見た目は子供でも、中身はおっさん。そんな感情は十代で卒業したのだ。


「わぁああああああああああああああああああああああああああ!」


こんな時は気持ちの切り替えが必要だ。


だから叫んだ。


自分がうまくいかないからって誰かに八つ当たりするなんて最低だ。


「ごめん、少し頭冷やしてくる」


シンは静かに言う。


「すまんな、力になれなくて」


俺の境遇を思ってかけられる言葉が余計に心に重くのしかかる。


「はは、俺が悪いだけだから」


俺は笑顔で誤魔化せただろうか。


「ここは私に任せろ」


俺では何もできない。


「うん。ごめん。よろしく」


俺はそれだけ言い残すと、誰もいない方向へと歩き出した。


そんな後ろ姿を見ながら、


「異世界人の心優しき者は、どんな世界で苦しむのだろうな」


シンは一人、答えのない答えを口にしたのだった。



最新話UPしました。

次いで15話の文章の変な箇所を修正しました。

最終的に大幅な修正は6巻完結後にするので、気に留める必要のない程度の修正です。


活動報告も興味があればどうぞ。


では、引き続きお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!


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