第9話 デジャブ
2024/5/4
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
面倒な事になった。
まるでデジャブだ。
俺は自然に囲まれると、事件に巻き込まれる体質なのだろうか。
対角線の少し距離を取った位置で俺は座り、目の前の存在と相対していた。
「少年、ここから一番近い町はどういった場所なんだ?」
フードを被っていたから性別が解からなかったが、声質からどうやら女性のようだ。
少しシャウト気味でボーイッシュさも感じる。
「どういった町か……」
というか自分で行って確かめればという言葉を飲み込む。
なぜかって、今までの経験上意味がない。というよりも、どことなく既視感がそうさせた。
「特に変わってないと思いますよ」
そう言う他ない。
だって、俺が行った事のある町は少ない。
学園を除けば田舎町をいくつか、生活をしていたという意味ではここが二つ目。
さらにいえば、そこよりも今いる町はさらに田舎で名前すら聞いたことがない。
「それでも何かあるだろ。例えば、あれだ……冒険者ギルドがあるとか」
「あー、ありますよ」
言われてみれば冒険者ギルドは全ての町に存在しているわけではなかった。
どういった基準でギルドがあるのかわからないけど、目立ったものといえばギルドが当てはまるだろう。
「っち、ハズレか」
「ハズレ?」
「なんでもねぇよ」
悪態をついて舌打ちをした彼女はそれでも木にもたれたまま動こうとしない。
どこか調子が悪そうにも見える。
「具合が悪いんですか?」
「あ? 疲れているだけだ」
それならいいけどと思うが、俺は表情も態度も変えずに彼女が言っていた引っかかりに気が付いていた。
冒険者ギルドと口に出した彼女は間違いなく、冒険者ギルドの存在と関わりたくないとする意志を隠そうとした。
それはつまり冒険者ギルドと何かしら敵対関係を意味している。
そうなると、規模はどうであれ罪人の可能性があった。
「あの、もうそろそろ行ってもいいですか? 俺、用事があるので」
これは嘘ではない、方便だ。
飲み会行きたくない勢は、自宅でのんびりすることも用事に入るのだ。
すると、彼女は俺の方をじっと見る。
これは真偽を確かめるための眼差し。
どこか不自然な素振りや仕草を見つけようとしている。
だが、それを俺に気づかれている時点で意味がない。
この手の誤魔化しは、俺は神がかっている。
「ガキのように純粋な目をしているようだが、中が濁っているように見えるな」
事実だけど、結構ひどくない。
「まぁ、どっちでもいいんだけどな」
「?」
その意味は純粋にわからない。
「少年、オレはしばらくここにいさせてもらう」
さようなら、俺の秘密基地。
「はぁ、別にいいんじゃないでしょうか?」
「そうか。じゃあ、食事とその他雑用頼むわ」
「はいっ?」
「だから――」
「そうじゃなくて、どうしてお、僕が?」
「少年、魔王配下の原種って知ってるか?」
どうして、今その言葉が出てくる。
俺は嫌な予感に、隠していた表情が保てなくなっていた。
「オレは原種持ちだ」
その言葉を聞いて脳がフラッシュバックを繰り返す。
そして、出た答えは、
「それってどういう意味でしたっけ?」
純粋に意味を忘れていた。
「教えてやれ」
彼女の発言にまだ誰かいるのかと後ろを振り返る。
だが、そこにはもちろん、辺りに人の気配は存在していない。
その意味を確かめるように再び彼女の方を振り向いた。
「――っ⁉」
俺は言葉を失う。
さっきまでそこにいた女性の姿形が変わっている。
服装やフードを被っていることは変わらない。
それでも、フードから流れる黒い髪は先ほどまでなかったはずだ。
さらに細かく言えば、胸の膨らみも華奢な肩幅も先ほどと違っている。
座り方も片膝を立てた座り方から、女性特有の横座り、些細な身長の変化、どうみても別人。
「……いったい」
一人混乱している俺に、透き通る声で彼女は言う。
「混乱させていますね。ですが、説明を聞いてください」
俺は返事もできずにただ彼女の言葉を待つことしかできない。
「魔王配下の原種。世界でもその力を有してしまった存在は少なく、暴走を起こす存在として認識されています。事実、その原種とその時代に生きる者が分かり合うことなどないのでしょう。ですが、私たちは少しだけ違います。互いの意思を一つの身体に持ち、互いに共有し生きている存在なのです」
どうしてだろう。
小難しい話になると理解できない所為で考えるのを止めてしまうのは。
その結果冷静に話を聞けてしまう。
残念なことに混乱が解けた。
「それが、俺……あ、いや、僕……、いやもう誤魔化しはいいか。それが俺のパシリとどう繋がるんです?」
「……パシリ?」
久しぶりに言葉が通じない。
「はぁ」
ため息も吐きたくなる。
「パシリの説明ってどうすんのよ? あ、奴隷みたいな?」
彼女は慌てたように首を振る。
その仕草はさっきまでの彼女とは違い、好印象を与える。
「奴隷なんて、そんなこと決してさせません。少なくとも私は、お願いを申し上げるだけです」
丁寧な言葉だけど、言っていることは変わらない。
「わからないんですよねー。魔王配下の原種って冒険者ギルドから討伐対象なのは知っています。さらに言えば、俺も一応冒険者見習いって位置付けにいるんです。それを確認もしないで、簡単に正体を明かすところが」
「冒険見習い⁉」
少なくとも彼女の反応からそれは考えていなかったことが解かる。
「失礼ですが、あなたからは源素の気配が感じられません」
「あー、そういうこと」
この世界では源素を使えない者は差別対象になっている。
つまり源素が使えない冒険者はいないから、俺の気配からそれはないと判断したってことか。
「あながち間違っていない……ですね」
「あまり褒められた方法ではありませんでしたが、彼女がとった言動は、原種の言葉で相手を恐怖に落とすには十分すぎる存在です。それを理由にあなたを利用しようとしました。もちろん危害を加えるつもりはありませんでした。信じてもらえないとは思いますが……。それほど私たちは追い込まれています」
いくら素直に事実を言おうと、恐喝の次に同情を買うのは無理がある。
「止めなかった私もその罪を背負うつもりでした」
「ん? つもりでした?」
目の前の彼女の眼光が変わる。
「あなたは何者ですか?」
警戒心の現れ。
だが、意味が分からない。
「どういう意味ですか?」
「魔王の原種の意味を知り、その正体を明かしても驚いた素振りもない。存在を疑っているなら、まだ納得できましたが……。あなたは、私たちの存在を受け入れてなお変化が見られない。その見た目とは裏腹に、何かを隠し持っていると私は考えます」
なんで、俺の方が怪しい存在のように言われているんだ。
納得がいかない。
「別に特別何かがあるわけじゃないですけど、単純に魔王の原種の知り合いがいるだけです」
まぁ、異世界人という部分を抜かせばだけど。
ところが、俺が隠した部分とは別の部分に彼女は引っ掛かりを見せた。
「へ? は? 魔王配下の原種の知り合い?」
「あ、言っちゃいけない奴だっけ?」
すまん、アイミ口が滑った。
「それを信じろと」
「いやいやいや、それはおかしい! 信じるも信じないも、俺たちの関係に必要ない! むしろ信じないで! いやいやいや、忘れてください!」
ぽかーんと口を空けて素っ頓狂な表情を作る彼女に、次になんて声を掛ければいいのかわからない。
「どうやら、私が間違っていたようです」
その言葉は俺に向けられたものじゃない。
「ひとまず、私の役目は最後です」
投げやりにも見える彼女は最後に、
「遅くなりましたが、私の名は、シナ。そして――」
目の前で変身にも似た変化が起こる。
「――オレはリンドだ」
摩訶不思議な、自己紹介が行われた。
最近、月曜日に更新が多いです。
もちろん、お約束はしません。
偶然です!
引き続きよろしくお願いいたします!




