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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第六巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
174/243

第7話 AランクとSランク

2024/5/4

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

冒険者パーティー『迅雷の辻』。

大きな実績こそないものの、その安定さと信頼の高さゆえ、色々な方面から声が掛けられることが多くなった。

そして今回の依頼もまた、その一件の一つだと言える。


受けた依頼は表面上一つ。

ある町で起きたAランク生物通称漆黒のディアが出現したことによる被害状況の確認と、安全上の問題がないか、ディアの出現した理由の調査。


すでに危険水準は下がったように見えていてもディアの出現事態異常な事とされ、ディアが出現した土地では、災いの予兆とまで呼ばれている。


よって、そのディア討伐後はAランク以上の冒険者が終戦処理をすることが多い。


今回もその処理を直接ギルドから依頼されたのだが、少しだけ、今までと違う事があった。


それは、ディアの依頼がおまけのように扱われ、もう一つ秘密裏に依頼を申し込まれたことだ。


その内容とは、とある逃亡者の捜索。


細かい情報は依頼を受ける事になる『迅雷の辻』にすら公には明かされず、与えられた情報は性別と身長や風貌といった見た目の情報のみ。

誰がギルドに依頼したかも、その逃亡者が何をしたのかも教えられることがなかった。


だからこそ、『迅雷の辻』の面々はこの裏の依頼がヤバイと印象だけを受けた。

加えて、ギルドからの条件として、パーティーの中に一人臨時でメンバーを追加することが義務付けられた。


そのメンバーの正体は事前に明かされることはなかった。


が、旅立ちの当日、その正体を『迅雷の辻』のメンバーは知ることになる。


依頼の都合上その存在は、フードを被り役職をサポーターという荷物持ちに収まることになったのだが、冒険者である以上その存在を知らないわけがなかった。


世界でも一〇〇名ほどしかいない内の一人、Sランク冒険者ラーク、その人だった。


最初の会話は一つだけ、「良いというまで、話すな」だった。


その真意に気づき、普段通り仲間たちと話しながら依頼の為に旅立った『迅雷の辻』は、さすがと言うべきだ。

それから数日は、ラークをサポーターとして扱う以外では不要な会話はせず、旅は続く。


そして、目的の地まで残り数日、とある町で変化は起きた。


殺気にも似た気配がラークから突然放たれたのだ。


警戒するなというのが無理な話だった。


『迅雷の辻』は臨戦態勢に身構える。


すると、


「勘は的中といったところかな。悪いな、色々と押し付ける形になった」


初めて会話らしい会話をラークの方からされることになる。


「どういうことだ? さすがに説明してくれるんだよな」


『迅雷の辻』のリーダー、ミル・スパーテルはそう尋ねる。


「ああ、まずは礼を言おう。何も聞かずここまで着いて来てくれたこと、対応の良さ、俺でよければSランクに推薦したいくらいだ」


「そんな事どうでもいいわ。それよりもこの依頼は不明点が多すぎる。これじゃあ、なにか起きても後手に回りすぎるわ」


『迅雷の辻』の精霊師であるシールが怖い顔をして事情を尋ねた。


「そうだな。監視もいなくなったことだし、歩きながら説明しよう」


「監視?」


『迅雷の辻』防壁を担うタンクのグローは辺りを見渡すが、辺りに怪しい人影はない。


「気が付かなくても仕方がない。相手も俺と同等かそれ以上の相手のようだ」


「つまり、Sランクのラーク氏に匹敵するほどの敵がいるということ?」


ラークの言動から当たりを付ける『迅雷の辻』射手であるコートレンズは、攻撃範囲を最大にまで広げる。


「よせよせ、町中で戦闘を始めたいのか? すぐに引いたから警戒は解いてくれ。目立って仕方ない」


そう言われれば、『迅雷の辻』は臨戦態勢を解いた。


「あんたらに依頼がいったのは幸運だった」


「そんなことはいい、それよりも――」


「OK。とりあえず、警戒させてしまっているようだが、君たちの依頼内容は変わらない。ディア討伐の終戦処理だ。でだ、もう一つの依頼に関してだが、これは君たちではなく俺に依頼が来たものだ」


「ならば、なぜ俺たちに話が来た」


スパーテルは前を歩き、お互いの役職通りの隊列を組む。


「ここまで隠してきて、警戒は簡単に解けないか。まぁいい。それはな、この情報は外に絶対に漏らさない為だ」


「意味が分からないわ」


シールの表情は硬いままだ。


「そうだろうな。簡潔に言おう。ある国で原種持ち(スピーシー)が逃げ出した」


「「「「っ⁉」」」」


思わず四人の足が止まる。


「まだ存在していたのか⁉」


「ちょっとまって、逃げた?」


「それはおかしい。原種は討伐されたはずだ」


「……きな臭い」


ここまで、話しを聞いていたグローとコートレンズも口を挿む。


騒ぐなと掌を振る。


「ここからは他言無用だ。原種持ち(スピーシー)は表向き、討伐済みとされている。どれほど原種について知っているか知らないが、原種持ち(スピーシー)は大体がどこかの国で捕虜の身だ」


「どこの国も裏では汚いわけだ」


スパーテルが天を仰ぎ呟いた。


そんな姿を見ていたグローとコートレンズは何も口には出さない。


「今に始まったことじゃない。それに源種は定期的に生まれ変わるとされている。無駄に討伐して、行き先が解からなくなるよりはという意見もある」


「確かに、一般的にはその方が安心はできるわね」


冒険者の鏡のような意見で納得するシールだったが、腹の中ではスパーテルと同意見の感想を持つ。


「そんなわけで、偶然原種が逃げた方角が、ディアが現れた町の方角と一致した。だから、君たちに同行させてもらったというわけだ」


「まだそこにいると決まったわけじゃないだろ」


「ああ」


「だとしたら、なぜ私たちと同行を、それに変装や身分まで隠して」


「あー、これは別件だ」


急に歯切れが悪くなったラークだったが、隠す気はないようで話し始める。


「ディアの討伐は珍しいは珍しいが、特別不思議な事じゃない。だが、今回の向かっている町は高くてCランク冒険者が集う町だ。それがどうやってディアを討伐したのか気になってな」


「それはまぁ、確かに」


「それに冒険者の報告では、一二歳の少年が関わっているなんて話もあってな」


「それって特例冒険者なの?」


「いや、冒険者見習いらしい」


「無理だろう」


「そのへんは報告も曖昧なんだな、これが。実際、倒したのは誰かが不明瞭で、少年はそこで耐え抜いていただけ、それでも冒険者の資格はあるんじゃないかって、Cランクの冒険者が嘆願したらしい」


「ラークは……、サポーターであるあなたが興味を持ったと?」


「まぁ、そんなところだ」


「ちょっと待ってくれ、それだと、さっきの監視の目はなんなんだ?」


「それが、面白いところだよな」


「面白いって……」


「実はな、ある冒険者から不思議な少年の話しを聞いたことがあってな」


「不思議な少年?」


「そいつらが言うには、弱い癖に強いんだと」


『迅雷の辻』は全員が変な表情を作る。


「くくく、俺もその話を聞いた時、おんなじ表情を作ったよ。まぁ、その少年かはわからないが、確認はしておきたくてな。原種に関しても何か行動を起こさない限り簡単には見つからないだろうし、言うなれば暇つぶしだ」


そんなんでいいのかと、メンバーが比較的真面目な『迅雷の辻』思うが、今更依頼を断る気もない。


「まぁ、その暇つぶしに俺たちは参加しないが、依頼で困ったことがあれば、手を貸す。といっても俺たちよりもランクが高いあんたに言うべきことじゃないかもしれないが」


「いやいや、困ったことがあったら、頼りにするさ。すでに予想外の強者もいるみたいだしな」


そう言い、依頼に関して会話はこれが最後になった。


そこから雇われサポーターに戻ったラークは、その役職通りに雑務をこなしながら旅路は続く。


そしてまた、知らぬところで興味を抱かれていた少年こと、ナカムラタダシは自身の秘密基地で、見知らぬ迷い人と出会っていた。



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