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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーー 第六巻 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
170/243

第3話 恐ろしい日々

2024/5/4

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

元々あった4話は、3話に追加。

よって一話減りました。

俺は初めて冒険者になって『風の行方』に同行したいと心の中で思っていた。


現在『風の行方』を含めたほとんどの冒険者は遠征に出払っている。

理由は、キープダンジョンの封鎖に伴い、この町での依頼が激減しているからだ。


ギルドの対応として、外部の高ランク冒険者を応援に呼んでいるらしいのだが、思った以上に時間が掛かり、到着が遅れている。

その為、この町の冒険者は稼ぐ為に近くの町へ遠征しているのだ。


そうなると冒険者でない俺は、遠征となると同行はさすがに許可が許されず、同じ町に留まっている。

もちろん最初はラッキーだと思っていた。


しかし、そんな俺の余裕っぷりにナナさんは気がついた。


その為、冒険者活動もない事も合わさって早朝の訓練は、さらなるレベルアップを強いられることになったのだった。


基本的な戦闘は実践的なものに変わり、ほぼほぼ殴られる。


ダンジョンでの一件以来密かに強くなったと思っていたのは驕りでしかなかったと言わんばかりにナナさんは、リミッターを外して襲ってくる。


どれだけ段階的な強さを隠しているのか、まだまだナナさんは手加減だと言う。


「死ぬっ、死ぬっ!」


悲しき原点回帰。

逃げ惑う事しかできなくなった俺は、体力が尽きるまで追いかけ回される。

しかし、これすらもナナさんの計画の内、逃げる事に対して文句を言わないと思ったら、逃げる事を考慮に入れている。


それに気が付いたところで、逃げないと俺がぎりぎり耐えられない攻撃を仕掛けてくるから、結局俺は逃げることでしかそれを回避できない。


今までが最低限、いや底辺と思い知らされながら俺は力尽きて転がった。


「さて、準備運動はこのくらいでいい」


おそろしい事を言ってくれるメイド服を着ているナナさん。


「か、勘弁、して、ぐだ、さい」


穴という穴から水分が留まることなく流れ出す。


「言葉は必要ない」


提案など無駄だった。


やらなきゃただでは済まない。


「ひっ」


体術訓練などまだ序の口、パチンコ玉の硬度とサイズの黒い球が無数に出現する。


これがナナさんの源素を介した、魔法。


「放射」


弾丸の雨が狙いを定めて放出される。


疲労も恐怖も感情も要らない。

ただ、この瞬間に動かなければ体中に風穴が空く。


走り出せ、いや、走り逃げろ!


足がもつれそうになるのを必死に耐えろ、転んでも終わるのだ。


体裁を捨てろ! 恥を捨てろ! 他人の評価も、見た目も、何もかも捨てなければ、限界を超えられない!


ていうか限界を迎えたら、


「死ぬっぅううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」


恐ろしい訓練が日常に追加された。


ところが、その厳しい追加はこれだけでは終わらない……――。



「ってなことがあって……」


俺はへろへろになりながら、シンに同情を買おうとナナさんの厳しい訓練の含めた世間話をしたつもりだった。


しかし、悪い事がある日は続くものだ。


「なるほど、一理あるな」


「へ?」


現状、自然コントロールの訓練は大きな変化を迎えなくなって長い。

集める量は以前よりは確かに増えた。


だから、俺も変化を求めて、必殺技なんてものを求めた。


ただ、訓練の強化は求めていない。むしろ現状で出来る事が増えればいいなんて口走ったに過ぎない。


「必殺技か」


もうその話は忘れてくれ。


現状維持、現状維持が俺には合っているんだ。


「試してみるか」


いや……、


「いやっぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」


墓穴はさらなる試練をお与えになった。


振る舞いは同じでもシンの新たな訓練は過酷を極めた。


根本的な話、自然源素を集めるには集中力を使う。

直接的な体力は使っていなくとも精神力は使うわけで、昼間に散々疲れ切った俺には集中力の欠片も残っていない。


そんな状態で自然源素を集め、それを体内に取り入れようとする新しい訓練は悲劇を生んだ。


方法としてはこうだ。


シンが俺の(まなこ)に源素が見えるように源素を集め、視覚化できるようにする。


そして、以前出来た源素の色の識別をしながら、俺に合った色の源素を効率よく取り込んでいくというものだ。

見込める効果としては、使えない源素の復活。もしくは、それに伴う自然源素のコントロールの変化。


それが出来るなら最初からそれをすれば源素の回復を早められたんじゃないかって、確かに疲労困憊でない俺がいれば同じことを思っただろう。


ただ、実際はそう簡単な事じゃない。


疲労がなくとも、集めた源素の分別は神経を使う。

いうなれば、集めた源素を暴発させず、ジェンガのように俺の色、つまり白色の源素を抜き取る必要がある。


「あ、」


全てが抜けきったような俺の間抜けな声は失敗を意味する。


乾いた音が洞窟内を響き渡った。


失敗=源素の暴発。


それも目前で起き、以前より集める量が増えた所為で、被害は思いのほか増えている。


顔面に爆発で起きた衝撃が襲い掛かり、髪型をボンバーヘッドに変えて、俺は吹き飛んだ。


痛みは衝撃で吹き飛んだ体が、地面に転んだ衝撃程度なもので、それほどではない。

しかし、これを何度も繰り返すとなると話は変わってくる。


なにより、忘れてはならないのが、源素が暴発するとそれを餌と勘違いする生物がいるという事実だ。


「うむ、きたぞ」


最初の頃とは違い。

ナナさんとの訓練を説明したことによって、シンは餌に群がる対処も俺にするように指示していた。


「どうしろと⁉」


ディアとの一戦以降、戦いは訓練のみ。

そもそもディアとの闘いと言っても、俺は蹴りやあしらう程度の攻撃しかしていなかった。


つまり、叩きの基本を実践で試したことはほとんどない。


拳一つで獣とは戦えない。


洞窟の入り口から餌に釣られた獣達の遠吠えと鳴き声が聞こえる。


「成功させんと、喰われるぞ」


もうパニックになって言われるがまま自然源素の取り込みを再度試みる。


だが、精神状態、疲労困憊状態の俺がそれを成功させることは叶わない。


二度目の暴発に吹き飛んだ先で泣きそうになった。


「……う、」


「う?」


「うわぁああああああああああああああああっっっ!」


俺は初めて、全てを投げ出し逃げ出した。


こんなの無理だ!


いくら状況の変化が起きないからって、順序を一気に飛ばしすぎだ。

こんなこと続けていたら本当に死んでしまう。


散々逃げてきた俺が言うのもなんだけど、投げやりに、やってきた事を放り出して逃げるのは初めてだ。

情けないとは思う。

ただ、体力が、何より心が持たない。


壊れてしまうくらいなら逃げるのが俺の正義だ!


すまん、シン。

弱い俺をどうか許してくれ。


「おう、ここを想って、外でやってくれるか。すまんな」


ちげぇっええええ!


何もかも違う!


この世界の人間がどんな訓練で強くなるか知らないけど、元の世界の現代っ子がこんなハードワークに耐えられるわけがないだろ!


舐めんなよ!


俺のベースは引きこもりの出不精なんだよ!


「ばーかっ、ばーかっ! 家出してやるわ!」


追い込まれた人間は、後先を考えない。


安息を求めて俺は走り出した。


「まだまだ、元気じゃないか。これはナナカミラも苦労しそうだな」


シンは逃げる後ろ姿を見ながら、獣たちを殺すことなくあしらう。


「しかし、いつ何時、誰かがお前さんを守るとは限らない。その時、対処する為の方法は一つでも多い方がいい。それほど、お前さんが置かれている状況は悪いと言える。ディアの一件も偶然の産物。タダシよ、お前さんは強くなる必要はないが、戦う力はきっと必要になるぞ」


届かない声を零し、シンは帰りを待つために洞窟の中へと戻っていった。



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