第1話 心に住まう者
2024/4/29
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
赤い月が城内を照らし、昼間は人が賑わう街並みも静かな物だった。
その静穏の中、駆ける音が一つ響き渡る。
フードで顔を隠し、追手が来ていないか確認することもできず、跳ねる息はどんどん荒くなっていく。
そもそも確認など必要なかった。
城壁に囲まれた国の外へ出ると同時、複数の影が待ち構えていたかのように、逃走者の前に現れる。
「はぁ…………、はぁ……」
立ち止まった先で、後ろを振り向けばすでに囲まれている。
目に見えている数で言えば八名。
逃げ道は完全に塞がれていた。
「大人しく戻れ」
その中の一人が、まるで忠告するよう言った。
「もう……こんな生き方はイヤ」
逃走者は身構える。
「お前たちは生き方を選べない……、お前達は特にな」
どこまで行っても平行線な意見に、逃走者は端から意味の無い事だと理解している。
――お互いの源素が溢れ出た。
始めからこうなることは予想されていた。
だから、追跡者は街の外へ出るまで待っていたにすぎない。
住民に被害を出さない事――そして、逃走者の存在を露わにしない為に。
「捕らえろ」
追跡者のリーダーらしき存在の命令によって戦闘が開始された。
勝算などありはしなかった。
それでも、一縷の希望に賭けるしかなかった。
追跡者は命令で動いているのだから――。
「オレが出ないと思ったか?」
『ダメッ!』
そこからは蹂躙だった。
気づいた時には八名の追跡者は跡形もなく消え、そこには闇だけが広がっていた。
「逃げなきゃ」
逃走者は当てもなく走り始めた。
「どうしたらいいの……?」
誰も待ち合わせていない答え。
『さぁな』
「――っ」
『オレが表に出る』
逃走者達は目指す場所もないまま走り続ける。
その心に源種がいる限り…………。
6巻目に突入しました。
引き続きよろしくお願いいたします。




