第35話 待っていた者達
2023/4/19
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
タイミングとしては完璧だった。
「タダシっ⁉」
どこから聞こえるカルトアの声。
声をする方を探し、そこにギルドで見かけた面々が複数いる。
ギルドでは出来るだけ顔を合わせたくないと思っていでも、こんな状況に置かれるとホッとしてしまう。
「わぁああああああああああああっ」
泣きそうになるぐらい嬉しい。
こんなに人と会えることが嬉しいと思える瞬間があるとは思わなかった。
さっきまでの孤独が一瞬で消え去った。
見た目通り、子供みたいに手を大きく振って頑張ったことをアピールしてしまった。
でも今はいい、後で後悔してもこの瞬間だけは、そんなこと気にしていられない。
「うわ、ばか、ディアの標的になるぞ!」
見た感じがチャラい、エゴイスって名前の冒険者に注意をされるが、俺からすれば今更なのだ。
だが、俺の予想に反して、ディアが標的にしたのは冒険者達の方だった。
まぁ、相手にするだけ無駄な俺より、源素の餌になる冒険者を標的にするのは当然か。
ディアが襲い掛かる為に飛び掛かった。
位置関係で、俺の横を素通りしなければいけない。
「こら、邪魔するな!」
そこを、俺は足の裏で蹴とばした。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「へ?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ディアが横に放り出され転がっていく。
「っんとに、感動の再会まで邪魔するなっての」
俺は、おっさん多めの冒険者でも嬉しさを爆発させながら冒険者達の所まで駆け足で近づく。
「ありがとうございますっ、皆で来てくれたんですね! よかったー、マジで不安だったよー」
感動のあまり抱きしめられるくらいのつもりで駆け寄ったのだが、なぜか、困惑の表情を作って出迎えられた。
「……どうかしたんですか?」
予想外の出迎えに急に不安になった。
俺は知らぬところで何かをしでかしてしまったのだろうか。
「あ、いや、何はともあれ生きていてよかった。それに遅くなってすまない」
どこか戸惑いながらもカルトアが迎え入れてくれる。
「あ、ルピネスさんは? それにメダさんも」
今まで余裕がなくて、考える暇がなかったが、カルトアの顔を見たら少しだけ余裕が出来て他人事に気を回せるようになった。
「ひとまずは無事だ。それよりも――」
とりあえずは一安心に胸をなでおろすが、まだ全てが終わったわけではない。
「……聞きたいことができたが、今はそれどころではないな。おい小僧、お前は後ろにいる仲間の所まで急げ!」
話している余裕はないと言わんばかりに『鮮血の爪』のリーダーが俺に向かって叫ぶ。
確か名前が、
「ウエハースさんっ――」
「ハーヴェスだっ!」
「す、すいませんっ!」
怖い顔がさらに鬼に変わる。
そんな間違えも普段なら喧嘩の火種になりそうだが、ハーヴェス含め他の冒険者達の視線は敵から視線を離さない。
「くるぞっ!」
まだ終わっていない。
そんな感情とは裏腹に俺は咄嗟に前に出ようとした。
「うげっ」
だが、俺はハーヴェスに首根っこを掴まれて後方に投げられる。
「そいつだけでも連れていけ!」
誰かが、投げ飛ばされた俺を受け止めてくれる。
その間に、一斉に源素で冒険者たちは各々の攻撃を仕掛ける。
そんな時だった。
「――なんだ⁉」
地面から突然、黒い棘が現れ、あれだけ強かったディアを串刺しにした。
それでもディアは死んではいない。甲高い悲鳴を上げそれでもなお、攻撃を仕掛けようとしている。
一瞬の戸惑いが冒険者に生まれる。
それを瞬時に行動に移し、指示を出したのはハーヴェスだった。
「チャンスだ! 仕留めろぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
次々にディアに属性源素の砲弾が飛んでいく。
そんな中、ハーヴェスが斧を構え、斧に岩を纏わせ一回りも二回りも強化していく。
ディアは黒い棘により拘束され、無抵抗のまま受けた砲弾によって、膠着が続いていた。
終わりの時――。
つい先ほどまで、絶望も恐怖を与えた生物がハーヴェスの斧によってその頭部と胴体を切り離された。
もうピクリとも動かない。
生物という割に、体液らしく物もなく、最後は霧のように静かに消えていく。
完全にその姿が消え、その瞬間冒険者達から歓声が上がった。
あまりにあっけない最後に、俺は呆然と冒険者達から離れた。
ディアが消えた場所にはもう、その存在も黒い棘も残っていない。
「最後のあれはお前がやったのか?」
ハーヴェスとカルトアは歓声を上げている冒険者から離れ、俺の所までやってくるとそんな質問をしてくる。
俺は源素が使えないのは、知っていると思ったけど、一応答える。
「いえ、冒険者の方がやったんじゃないんですか?」
勝手にそう思っていたのだが、
「闇属性の冒険者はいなかったはずだ」
カルトアは棘の正体の一端を明かす。
「じゃあ、誰が?」
大騒ぎする冒険者を俺たちは眺めながら、一つの疑問を持った。
だけど、もうどうでもいい。
「まぁ、何もともあれ、最高の結果だ」
「そうだな。誰も欠けずにこの結果ならこれ以上ない」
「……疲れましたね」
後は、戻れるだけだ。
それで、この大事件は終幕を迎える。
そう気を抜いた瞬間だった。
「あ…………れ………、…………?」
腰がストンを抜け尻餅をつくと、瞼が急に重くなっていく。
「タダシっ!」
カルトアの声を最後に、俺の意識は静かに消えていった。
第五巻、残り2話です。




