第33話 気力の戦い
2023/4/19
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
サンドバッグ再び。
猫が転がすボールが如く、俺はピンボールのように弾かれ続ける結果になった。
絶妙に追い込まれている中で思考が廻るのは、もう恐怖が壊れてしまったからに違いない。
だから、ことの経緯を少しだけ思い出してみよう。
妙な形で連携を取れるようになった狼型の魔獣と共に、ディアを追い込んでいたと思いたい。
やり方はこうだ。
俺が自然源素を集める。
そこに口を空けて飛び込んでくるディアを狼型の魔獣が襲う。
もちろん最初からうまくいったわけではない。
タイミングを間違えればディアが自然源素を喰い回復したり、狼型の魔獣が俺を噛むこともあった。
だが、同じことを連続で行っていくうちに、狼型の魔獣が察してくれた。
狼型の魔獣は見た目通り、賢いイヌ科なのかもしれない。
それが功を奏し、徐々に形勢は逆転の狼煙を上げ始めた。
ダンジョンが作り出す狼型の魔獣が新たに生み出されることもなく、ディアは損傷していく。
影のような生物だけあって、血液を流したり見た目でケガを負う事はないものの、見るからに速度が落ち、連続でくる攻撃が緩んできている。
このまま続ければ、もしかしたらカルトア達が来る前になんとかなるかもしれない。
そう思い始めた矢先だった。
まるで、ゲームの第二形態、もしくは、ヒットポイントの下限フラグが立った時みたいに、ディアの行動に変化が起きた。
単純な話だ。
追い込まれたディアは捨て身に変化した。
俺は見誤ったのだ。
自分の状況に視点を置きすぎた所為で、相手が何を考え、何をしでかすかまで思いつかなかった。
偽物の餌に見向きもしなくなったディアが狙ったもの、それはダンジョンの核だ。
狼型の魔獣を生み出し、決定的なディアへのダメージソースを壊しに来た。
これも本能だろう。
いち早く狼型の魔獣たちがディアへ攻撃を始めるが、今度はそれを利用された。
飛び込んでくる狼型の魔獣が次々と喰われていく。
振り出しだった。
「くそっ」
だけど、また同じことが出来れば、そう思ったが、目先の甘い罠に俺は気が付くのが遅れた。
もう、俺が作る餌に釣られることもなくディアの標的はダンジョンの核一つに絞られている。
ダンジョンの核が壊されると、いよいよ手立てがなくなる。
俺はナナさん直伝の拳を振るいディアを核から遠ざけようと、殴りにかかった。
「うっ」
気づいた時には暗いダンジョンの天井が見える。
また、同じだ。
覚悟をしても、決意をしても俺には何もできない。
出来る事……、いや、もう違う。
これはいつもと同じ、なるようにしかならない。
俺の心は諦めに支配される。
諦めるが勝ち、諦めるから悔しくない。
それで俺の心は逃げられる。
「……まだ、立つわけね、俺は……」
しかし、俺の心をつなぎとめるように、落下した俺の身体を立て直したものがあった。
「……無駄にできない」
こんなことを繰り返すためにナナさんは訓練したわけじゃない。
「俺の意思はもうどうでもいい」
こんなことの為にシンは訓練に付き合ってくれたわけじゃない。
「これじゃあ、生きているだけ無駄じゃないか」
こんな俺を救いにカルトア達が来てくれるわけじゃない。
「心が折れる?」
情けないのはもう知っている。
「おじさんを舐めんじゃねぇよ!」
かっこ悪いのは重々承知、
「折れる心すらもう持ち合わせてねぇよ!」
ここからは気力の戦いだ!
「かかってこいやっああああああああああああああああ!」
眼前にディアが現れる。
もうディアは俺を餌だと思っていない。
「まだまだぁっ!」
食後の運動のように、
「まだまだナナさんの方が強い!」
右へ、
「ナナさんの方が早い!」
左へ、
「ナナさんの方が怖い!」
ただ弾く。
「人見知りは人にしかしねぇんだよ!」
それでもなお、俺は叫び続ける。
「帰ってナナさんの妥当な飯をまた食う!」
叫びを辞めてしまえば、
「俺は冒険者じゃねぇぞ!」
本当に心がなくなってしまうから、
「冒険者ギルドの雰囲気の方が怖いんだよ!」
それの方が恐ろしい。
「さぁ、我慢比べだ!」
自動防御がいつまで続くかわからない。
「お前の力はそんなもんか!」
だから、その正体不明の能力がなくなるまで、
「今度は俺が噛みついてやる」




