第32話 困惑
2023/4/19
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
冒険者たちはナナカミラの存在に気づくことはできない。
それが影であるナナカミラの実力ともいえる。
冒険者たちの一報は、驚異的な速度で追いついたナナカミラの耳にも届いた。
「(あいつは生きている? どうやって?)」
不思議とそれは自然に受け入れられた。
それがどういった理由か曖昧になっている。
ジャンオル・レナンが認めた人間だから。
言葉にすればそれしか出てこない。
「ナカムラタダシ」
自称異世界人の名。
たったそれだけの事しか知らない。
どこかで思う。
「その理由も知ればわかるのか?」
ジャンオル・レナンと時とは違う興味が少しだけ湧いた。
ナナカミラは冒険者達がいなくなった穴を見下ろす。
ここから先は、冒険者達と同じ岐路を辿らない。
さも、当然のようにナナカミラは穴の中へと飛び降りていった。
短い髪が巻き起こり、次第に下層へと近づいていく。
「ナカムラタダシお前は何者だ?」
悪意か興味本位か、ナナカミラの源素が高まっていく。
下層へ到着と同時、攻撃はどちらに向けられるのか、ナナカミラの表情が緩む。
本気で敵対すれば、ジャンオル・レナンが興味を抱いた理由がわかるかもしれないと、殺意が芽生えた。
『影』の主たる役割は暗殺。
全てを終わらすその能力は標的をようやく捉えた。
そして、なぜか懐かしい感覚に襲われた。
「なんだ……、この感情は……?」
まだ十二の姿をした少年をナナカミラの瞳が捉える。
知らない感情が、ナナカミラが握る決定権を放棄させた。
ナカムラタダシが、何かを叫びながら一方的に蹂躙されるその姿。
「なんだこれ?」
危機的状況なはずなのに、
「訳が分からない」
そのタダシが発した言葉に心が揺れた。
本日10時と17時にもUp予定です




