第30話 影の出撃
2023/4/19
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
ナナカミラの身体能力があれば、メダが行ったような移動方法がなくとも異常が起きた場所へ行くことは容易いはずだった。
しかし、不運にもその足を止めたのは、ダンジョンの入り口に隊をなしている冒険者達だった。
木陰から冒険者たちの動向を伺いその意味をナナカミラは悟る。
中にいるナニかに戦力を割かなければいかず、少数部隊を順々に送り込んでいるのだ。
その姿の中に顔見知りの姿は見えない。
現状ナナカミラは正確に状況を理解できてはない。
理解できたのは、ダンジョンの中にナカムラタダシが取り残されているという事。
メダが報告に来たことから、取り急ぎ命の危機が迫っている可能性があるという事だけだった。
正確な情報がない分、急ぎ行動に移したのだが、こうなってしまうと、動きは制限された。
正体をバレるわけにはいかず、情報の収集の為に聞き耳を立てる。
「よし、俺たちが最後の部隊だ。現状Cランクのハーヴェス達が先頭に行動している。そして、Cランクの部隊が戦闘を行う。ここまで理解しているよな」
「はいっ」
比較的若い冒険者と中堅冒険者のパーティーがダンジョンに入るよう前の確認を行っている。
「この戦いの目的はあのガキ一人を救出することが目的だ。俺たちはあのガキを見つけ次第、何に変えても脱出をすること。間違っても戦おうとは思うな」
盗み聞きする情報から、何かしらの魔獣が出たとナナカミラは緊急性の高さとタダシの訓練状況を考える。
「え、でも魔獣がでたら――」
「はっきり言うぞ。相手はA級生物ディアだ。万が一でも俺たちに勝ち目はない」
最悪だった。
「(A級生物だとっ⁉)」
戦闘訓練のいろははまだ初歩の初歩。戦う以前に逃げる事すら困難な相手だ。
「ちょ、ちょっと待ってください! じゃあ、なんのために潜るんですか⁉ そんな相手にあの少年が生きている保証なんてないし、むしろ…‥もう」
ガサッ――。
「(しまった――⁉)」
不覚にもナナカミラは音を鳴らしてしまった。
「ん? 気のせいか? まぁいいか」
些細な事に特に気にはされなかったが、ナナカミラは自身の動揺に驚いていた。
「(っち、腕が鈍ったか)」
身を隠しながら、苛立ちが募り始めているのにナナカミラ自身気が付く。
結局、その程度で死ぬような存在なのだ。それのどこにジャンオル・レナンは惹かれたのかが理解できない。
あいつに何を期待している?
あいつになんの可能性がある。
ジャンオル・レナンは何を想っている?
そんな嫉妬の苛立ちが募る。
「分かってはいる。それでも俺たちは冒険者だ。それが確定しない限り、助けに向かう。あのガキが冒険者だったら、少しは違ったんだがな」
「じゃあ、前線は――」
「言うな。覚悟の上だ」
「ぼ、僕たちはどこまで潜るんですか?」
「カルトアの話しだと、一〇階層からさらにディアが作ったと思われる穴に落ちていった。最悪最下層まで落ちている可能性がある」
「じゃあ、猶更……」
「骨拾いですか……?」
「そうなる可能性が高い。俺たちが潜るのはその一〇階層まで、そこで連絡を待つ」
冒険者の言うようにここで死んでいるならば、ナナカミラの行動に意味はなくなる。
「(こんなことで死ぬのか……?)」
学園への報告は簡単だ。
不慮の事故で命を落とした。
きっとそうすることで、ジャンオル・レナンの耳にも届くだろう。
その報告を聞いた時、ジャンオル・レナンはいったいどんな表情をするのだろうか。
「(ふざけるなっ、そんな表情をさせるな!)」
ぎりっ、とその想像の中のジャンオル・レナンの表情に、ナナカミラが歯を食いしばる。
「(なんだというんだっ、あいつはっ――)」
憧れの存在の見た事のない姿。
それが現実として近づいてくる。
そんな時、
「そろそろ、行くぞ」
間隔を空けてダンジョンへと潜る最後の冒険者たち。
「――っ、まて連絡だ!」
アイテムによる通信手段によって一報が入る。
『退避部隊っ、急いで来いっ!』
「どういうことだっ、一体どうなってるか説明しろ!」
『わからんっ、ただ、アイツはまだ生きている!』
響き渡ったナカムラタダシの生存の一報。
その瞬間、冒険者たちの横を影がすごい勢いで通り過ぎた。
「なんだっ⁉」
冒険者達の目には映らない。
「(まだ、死なせるわけにはいかないっ!)」
ダンジョンの中の後続部隊も置き去りに、元聖騎士団国家、聖騎士機関、所属『影』のナナカミラが出撃した。
理想はもう一話……。
期待はしてはいけません。。。
頑張りたいとは思いますが……。




