第28話 いびつな三つ巴
2023/4/19
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
いつから逃げるばかりの人生になったのだろう。
性格形成はどれくらい。
何でもできる代わりに、何もできない。
よく言えば、万能。
悪く言えば器用貧乏。
限界を迎えれば、横道にそれ、また新しいことを迎える。
根っこは、同じことを繰り返すのが得意なはずなのに……。
「――っ⁉」
気を失う前のネガティブな出来事が、変な夢を見させた。
それを衝撃音によって覚醒させる。
というか、
「生きてる?」
見上げた先で光のない暗闇が続いていた。
「ケガもしてない?」
続いて、ありきたりに手を、グーとパーを繰り返し、体に損傷もなければ痛みもないことを確認した。
どうしてと当然思う。
「まさかっ」
考えられる事は経験の上で一つしかない。
「自動防御が働いている」
この世界に来て何度も俺を救ってくれた、絶対不可思議、理解不能の能力。
それしか該当するものがない。
そうなると、戻ったのかと源素を使ってみた。
「そう都合いいものではないのね」
期待も空しく、源素切れの後遺症はまだ続いているようだった。
そうなると、気を失う前の出来事に目を向けるまでそう時間はかからなかった。
さっきから、獣の唸り声が辺りに響き、異常な状況は続いているのだ。
俺は、その音がする方へと、音を立てない様に近づいていく。
そこで目にしたのは、俺を窮地に追いやったアイツと狼型の獣が争いを続けていた。
「どういう状況だ……」
このダンジョンに入ってから生物らしいものと遭遇していない。
それはきっと、アイツが喰い続けたからに間違いない。
それが突然、俺を助けるために現れた?
「ないな」
絶対にそれはないと、教えてもらっていたダンジョンの構造考える。
ダンジョンは魔獣を作り出すものである。
それはダンジョンそのものが意思を持ち、ダンジョンを守る為に生み出すためだ。
そうなると、再びダンジョンは魔物を作り出した?
つまり、ディアという名の生物がダンジョンを襲っている。
それにしては、抵抗は続けられていた。
俺がどれだけ気を失っていたのかは分からないが、あれだけ強かったディアが簡単に勝利を掴めていない。
つまり、ディアが手こずる相手が生まれていた。
「ここって、最下層なのか」
今更ながら自分が置かれている状況を整理してみる。
カルトアやメダ、ルピネスの話しからこのダンジョンの最下層は二〇階。
そして、ダンジョンは深層に近づくほど魔獣の強さは上がっていく。
それは、ダンジョンの心臓ともいえる源石を守る為だ。
穴がどれだけ深かったのか今となっては分からないが、そこまで落ちたのなら結果的に運がいい。
俺は時間さえ稼げれば、カルトア達が来てくれるのを待つだけでいいのだ。
そうは言っても、
「来るときに数時間、引き返して戻ってきて、さらに深く戻ってくる時間……、結局やばいな」
それはその場でじっとしていた場合であり、俺が戻っていけば短縮される。
さらに、戻る道に魔獣などの敵がいない保証付きならば、時間はさらに短縮。
結論、さっさと、上に戻る為の階段を見つけるに限る。
ディアと狼の戦いを尻目に、俺はいそいそとその場から離れていく。
ふと、あることに気が付いた。
ダンジョンの中は二つの光源が置かれている。
一つは、松明などの火で照らす光と、もう一つは光源を持つ源石の粒による光だ。
松明は冒険者が一時的に設置し、寿命は長くない。
かえって源石の粒は仄かに明るい程度でうっすらと前が見える程度。
そんな中、どうして争いがはっきり見えているのか。
こんな状況で興味本位というわけではない。
松明は落ちる前に荷物ごとルピネスの役に立たせるために放り投げてしまっていた。
それがルピネスの役に立っていれば、よくやったと自分をほめてやりたい。
だから、どうか無事でいてほしい。
そんなわけで、俺は先を照らすための光源を手に入れようと思ったのだ。
一〇階層辺りまで光源さえ確保できれば、メダが設置していた松明がまだ残っているかもしれない。
一時的にさえ凌げればとその光源の元へ、静かに近づいていく。
争いが見えるという事は、その傍に光源がある。
だから恐ろしく慎重に近づいていくつもりだったのだが、案外それはすぐに判明した。
「………………」
俺はその正体を見つけると言葉を失う。
それは接近する必要がないほどの大きな源石の塊が台座の上に置かれていた。
そして決定的な瞬間、その源石の塊から獣が数匹飛び出した。
それと同時、源石の大きさが一回り小さくなった気がする。
どちらにせよ、
「無理だ、あのサイズじゃ持てない」
人の数倍の大きさがあった源石を持ち上げることなど不可能だと悟る。
仮に、見た目より質量がなかったとしても、あれを持ち運びながら階層を昇るのは不可能。
どんなに軽いぬいぐるみでも大きくなれば、邪魔になるのと同義。
なによりも、源石から魔獣が飛び出てくるのが解かった時点で、常に魔獣に飛び出してくるリスクが伴う。
光源は諦めるしかなかった。
とにかく今は、この争いの場から離れるのが先決だ。
そう思って、その争いを確認し、ダンジョンの魔獣を心の中で応援する。
いっそ、ディアを倒してくれたら助かる。
そう思っていたのだが、ディアが狼を食い殺し、傷を負う。
そして、狼が食い殺される度、傷が癒えていっている。
「(源素を喰って傷を治している。だから、源素を狙っているのか)」
しかし、ダンジョンの深層に近づいていくうちに、一方的な蹂躙は反撃によって一筋縄ではいかなくなった。
だから、俺が自然源素を集めた時に、おび寄せてしまったのだ。
「俺の所為かぁー」
とことん、足手まといになっているんだと悔やまれる。
謝るのは後でもいい、ダンジョン産の狼が時間を稼いでいる限りある時間を有効活用しないといけない。
「ひとまず、階段を探そう」
踵を返し、気づかれないうちに帰り道を探そうとする中で、キャンという鳴き声と共に狼型の魔獣が俺の横を猛スピードで流れていった。
「え?」
俺は慌てて振り返る。
形勢はそこまで変化はしていない。
だが、数を増す狼型の魔獣に深手を負わされたのだろう。
喰うだけでは処理できなくなったディアは振り払う動作を加えて、その中の一匹が不運にも俺の方へ飛ばされたのだった。
「嘘だろ……」
飛ばされた拍子に狼型の魔獣の視線がいくつか俺の方へと向けられる。
そして、飛ばされた一匹の狼型の魔獣が俺の後ろに態勢と整え存在している。
敵か味方かなんて考える必要はない。
どう考えても、
「か、加勢しますよ」
言葉が通じたとしても、それは無理な提案だろう。
遠吠えよりもイカツイ唸り声が俺に向けられる。
魔獣に思考なんてものは存在していない。
間髪言わずに俺に向かって飛び掛かってきた。
「――ッ⁉」
俺は咄嗟に自然源素を集めて狼型の魔獣へと向ける。
考えての行動なんて余裕はない、できることがそれしかなかったから、そうせざるを得なかった。
狼型の魔獣に効果は起きない。
当然だ、それは自然にあふれる源素を濃縮したものでしかなく、言ってしまえば、ちょっと酸素濃度が高い空気と同じ。
狼型の魔獣の牙が俺に襲い掛か――、
「ひぐっ」
――ろうと、さらに大きな口が狼型の魔獣ごと喰いつくした。
目の前で起こる弱肉強食、小さな悲鳴が漏れた。
そして起こる、ディアの回復。
咄嗟の事で自然源素を霧散させていることまでできなかった。
というよりも、そんな事微塵も考える暇がない。
目と鼻の先にいるディアは自然源素がなくなると俺の存在がないように無視をする。
源素が感じられないものに、本能が語り掛けないのだろう。
俺は尻餅をついて、ただ眺めた。
その危険な生物を。
まさかのこっちと共闘、そんな甘い考えは、
「フベッ――」
すぐに消える。
眼中になくてもそこには俺がいるわけで、ディアは邪魔な障害物を払いのけた。
俺は転がり、舞台に上げられた。
左にはA級生物ディアが、右には生まれたての狼型の魔獣が。
悲しいくらい自動防御のおかげで無傷。
それでも、
「なんて理不尽な三つ巴だよ」
置かれている状況は、悪化の岐路を辿ろうとしていた。
最近一話が長めですが、ご容赦ください。




