第26話 冒険者たち
2023/4/19
誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。
カルトアが扉を壊す勢いでギルドへと飛び込んでからの対応は迅速だった。
ルピネスは奥の部屋まで運ばれ、ギルド内にいた冒険者の修道女がすぐに手当てを開始する。
いつもはいがみ合っている冒険者同士であっても人の命が掛かっている時は、協力的だ。
手当など生きている時にしか行われないのだから。
奥の部屋で人命救助が行われ、きっとそれでルピネスは大丈夫だろう。
そうなると、残された者たちはその理由を聞きにカルトアを取り囲んだ。
取り分け、『鮮血の爪』のハーヴェスは事態を理解しなければならない。
「何があった?」
冷静かつ虚偽が無いようにその真意を問いただす。
そこへ、
「てめぇ、大げさなことして、俺たちのランクを下げる為にっ――」
『鮮血の爪』と言い争いをしていた冒険者がカルトアに掴みかかろうとしたところで、ハーヴェスの手によって放り投げられた。
「てめぇは黙ってろ! 仲間の命賭けてまでそんなこたぁしねぇ」
カルトアは静かに冷静に言う。
「誰か剣を貸してくれないか?」
「おいっ、カルトア!」
いつもの腰の低さはない。
ただただ冷静にメダに言われたことを思い出す。
「きっと、タイミングが悪すぎただけだ。気に病む必要はない」
「もったいぶるな。説明しろ」
カルトアはダンジョンでの出来事を話す。
ダンジョンの一〇階層までは何もいなかったこと、そこで突如ディアに襲われたこと、最初にルピネスが狙われ、タダシを取り残してしまったことを。
「神出鬼没のディアか……」
ハーヴェスは自身がダンジョンに潜った時、もう少し丁寧な調査をしていれば何か変わったかもしれないと少しの後悔を残す。
そこへ言い訳をするように、エゴイスは、
「無理っすよ。ディアは正体不明の生物。どこで生まれ、何故ダンジョンにいるかもわからない。そんな奴を事前に察知するなんて不可能。言い方悪いっすけどあの時俺たちが襲われてたって不思議じゃない。偶然とタイミングが重なった不運ってだけ」
非常な意見だが、事実は事実。
最初か、真ん中か、最後かただそれだけだと言い放つ。
「そんな事はどうでもいいんだ。」
すでに結果は出ている、誰が悪いとかそういう話ではない。
「コロネさん」
「は、はい」
慌ただしくなるギルド内で、タダシを見送った責任を少なからず背負っている彼女の表情は暗い。
「剣を貸してくれ。俺の剣はディアに折られてしまったんだ」
「ま、待ってくださいっ! 剣を持ってどうするつもりですか⁉ 今、冒険者ギルドは他の町へ応援を頼んでいます、それまで――」
「すまない、すぐ戻ると約束したんだ」
武器が無いのであれば、道中で調達するしかないと、ギルトを後にしようとするカルトアの前に、ハーヴェスが立ちふさがる。
「どいてくれ」
「死ぬ気か?」
「どいてくれ」
「何もできなかったD級が行っても何も変わらない」
「――どけっぇええええ!」
普段温厚なカルトアの怒号にギルド内が重々しく静かになる。
「すまない。ルピネスを頼む」
戻らないと決意した男を止めることは誰にもできない。
「コナカミ、剣はあるか?」
「は? 行かせる気か?」
「いや、俺も行く」
Cランク冒険者のハーヴェスの意見にギルド内がざわつく。
相手はA級に認定されている生物。
この町では上位にいるハーヴェスでもとてもじゃないが勝てる相手ではない。
「無理をしないで、後で応援にきた冒険者と共に――」
「あのガキは冒険者じゃねぇ」
「それが――」
「だったら、冒険者で俺たちが助けねぇで、冒険者の意味があるか?」
冒険者は金を稼ぐ職業の前に人々の生活を守る為に出来上がった組織だ。
その根底を吐き違えてはならない。
「かっー、カッコつけんのはいいけど、それ俺たちもいかないといけないやつっしょ。勘弁してほしいわ」
そう言いながらも、エゴイスは支度を整える。
「他の仲間たちにも応援にくるように伝令を走らせたよ。間に合うかは怪しいが、最悪なにがあったかは伝わるだろう」
コナカミはパーティーで管理している剣を持つと、カルトアへ差し出す。
「いいのか?」
ハーヴェスは鼻で笑う。
「命なら冒険者になった時に賭けている」
心強いとは言えない。それでも、一人ではない事に力強さを感じる。
そこへ、
「くそったれ」
次々と冒険者たちが立ち上がる。
「どのみち、ディアをのさばらせておけねぇな」
「ディアは確か、その身に傷を負い、逃げるようにダンジョンを移動する」
「なら、今の内に俺たちは数で押し切るしかねぇ」
「隊列を組むぞ」
「パーティーは四人一組に。変則にはなるが、今回は緊急事態だ。足りない所、バランスが悪いところは一度、他のパーティーと話し合い、一時的にパーティーを組め」
「被害は出るだろう。ランクが高い順に後続に続け」
あれだけいがみ合っていた冒険者たちが一丸となって準備を整える。
ただ、現実問題、最悪の事態が想定される。
「お待ちください! 万が一全滅なんてことがあれば、町が機能しなくなります」
ギルド内の職員たちが総出で止めようとする。
「だったら、最高のバックアップをしろ! 行くぞ、お前らっ!」
おおっ! と命を懸けた冒険者たちがギルドから次々と出発していく。
ギルドから冒険者が消える。
未だかつて起きた事のない事態にギルド内の職員は頭を抱えた。
「無謀です……。でも、こうなっては……」
「折り返しの連絡がきています、応援は数日後になると……」
「町が壊されてしまう」
嘆きが呟かれ、絶望の雰囲気が漂う。
その一人である受付嬢のコロネは、未だ治療が続いている残された冒険者を心配そうに見つめる。
「何かできる事はないのでしょうか?」
心配を抱え、送り出し、迎える、その日常は常に壊れる不安を抱えている。
「我々は祈ることしかできない」
そして、この日もまた祈ることしかできないと誰かが嘆いた。
短い文章を同時Upしました。




