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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー第五巻ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第22話 起きている事象

2023/4/19

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

いざダンジョンへ。


ダンジョンに潜る当日、受付嬢さんことコロネさんに挑戦することを伝えた。

本来ならこういった報告はしないらしいが、今回は念には念を入れておくとのことだ。


俺は荷物持ち(サポーター)として大き目なバッグを背負い、アイテムの確認をルピネスと(おこな)った後、ダンジョンへ向かう事になった。


前回のような緊張感はない。

厳密には心地よい緊張感はある。

前回とは違い、俺は少しだけ訓練の成果が試せるのではないかという淡い気持ちがあるからだ。


だからといって、積極に戦闘をする気もないのだけど、それでも何もしていない頃とは雲泥の差だ。


名もなきダンジョンは階層二十階、調査は状況に応じて最大十階層まで降りる事になっている。


ダンジョンに入ってからは、誰も何も口を開かない時間が続いた。

俺は元より、三人が警戒を続けたのは、意見が異なる冒険者にようって異変が起きてしまっているダンジョンに神経を尖らせていたからだった。

俺も三人の後を追うような形で進んだ。


変化というよりも、その警戒が薄らいだのは二階層に進んだあたりだった。


「何もいないな」


カルトアがそう言うと、


「やはり、『鮮血の爪』の情報が間違っていたのでしょうか?」


ルピネスが確認の為にそう言う。


「それか嘘を吐いたかだな」


メダは持っていたトーチをその辺に放り投げながら座り込んだ。


「やっぱりおかしいんですよね?」


始めてダンジョンに進んだ時は、少なからず小動物などの獣が存在していた。

ところが、ダンジョンに入ってから生物らしい生物に遭遇していない。

そうなると、さすがの俺でもおかしな状況であることが理解できる。


カルトは唸りながら、


「考えられるのはこのダンジョンの死期が近いのかもしれないな」


「ダンジョンも死ぬんですか?」


「ああ、ダンジョンの中には源石で出来たコアがあるんだが、場合によっては力を失い自然消滅を起こす場合がある」


「その前兆が魔物の喪失。ダンジョンで生まれる魔物はその源石から生まれる。源石が力を失えば、当然魔物なんか生んでる暇なんてないからな」


メダは休憩と俺の荷物から水筒を取り出す喉を潤すと、俺に放った。


俺は受け取りしまおうとするが、


「飲めるときに飲んでけよ」


どうやら、休憩を取れと言葉にしないで伝えてきた。


こういったところがメダを嫌いになれない部分だったりする。


「あ?」


「いやなんでもないです」


優しさに眺めていた所為で怒られた。


俺もメダの近くに腰を落ち着かせる。

メダから「ふん」と聞こえたけど、それには反応しないで置いた。


それを見たルピネスがクスクスと笑っていたが、俺の方が恥ずかしい。


それを誤魔化すように、


「そういえば、ここって二〇階層なんですよね。どうして、一〇階層までしか潜らないんですか?」


質問をしておいた。


「ダンジョンで生まれる魔物は源石に近いほど強くなる。それに、ダンジョンの中でも弱肉強食の掟は存在しているんだ。だから、むやみに源石の傍まで行くと、当然俺たちは身を守る為に戦わなければならない。そうなると、その摂理を壊すことになる。キープダンジョンでは、それによってダンジョンが俺たちにとって役に立たなくなってしまうんだ。だから、今回は前の冒険者と同じ所まで潜ることにしたんだが、その判断もひとまず保留にしよう」


「ひとまず、確認してからですね」


「ああ、そうだな。このダンジョンは小規模なものだから数時間もすれば、一〇階層には着くだろう」


小休憩という小さな会議を済ませて、再びダンジョンを進むことになった。


ダンジョンでは帰りのことも考え、余裕がある時に休憩をとる。


そんな事を繰り返しながら、俺たちは目的の一〇階層へと向かう。


道に迷う事はなかった。

キープダンジョンはすでに確立されてからマップも変化が起きていない。

つまり、どこで休憩をとるかも記録通り、行き止まりの道も記されているから迂回することもない。


そして、その途中、誰しもが思っていただろう。


もうこのダンジョンは終わりを迎えようとしていると。


案の定というべきか、何も起きない、何とも出会うことなく一〇階層へと辿り着いた。


「何も起きない事はいいことだが、これは報告が辛いところだな」


「そうですね」


「そう言ってもしゃーないだろ。事実は事実だ」


俺一人だけ頭にハテナが浮かぶ。


それに気が付いたメダが説明してくれる。


「キープダンジョンはあの町の資源ってことだ」


なるほどと納得する。


「町なくなってしまうんですか?」


「ばーか、そこまでじゃねぇよ。だが、衰退するのも間違いないだろうな。冒険者の仕事が減ればその分だけ、冒険者はいなくなる。町の住民たちで細々と暮らすんじゃねぇか」


自ずと、この冒険者との別れが近いことを暗示させた。

それが、少しだけ寂しい気持ちを作らせた。


俺はその後、どうなるのだろう。

元々、冒険者になる流れは、俺の居場所の誤魔化しと、最低限の生きる力を身に付ける為。

『風の行方』が拠点を移したからと言って、三人に着いていくことにはならないだろう。


一人しんみりとした気持ちになっていると、


「んだよ、『鮮血の爪』のいい加減な報告の所為で、オレ達が貧乏くじひかされたみたいになったじぇねぇか」


今回の疑惑の冒険者である『鮮血の爪』に再び焦点が向けらえる。


「でもな、『鮮血の爪』は見た目ああだし、柄はもちろん悪いが、冒険者としての仕事をはしっかりこなす奴らのはずなんだが」


「んなこと、言っても事実こうなってるだろ」


「まぁ、そうなんだが」


嘘の報告と、冒険者としての信用。秤にかけても納得がいかないカルトアだったけど、自身で見ている現状に怪訝そうに唸る。


そこに何げなく俺も口をはさんだ。


「タイミング的にそうなっただけじゃないんですか?」


「タイミング?」


一瞬、言葉が通じなかったのかと思ったが、そうではなかった。


「なるほど、確かにそれなら辻褄が合うな。それに『鮮血の爪』の報告でも魔物の出現が微量であると言っていた」


整理すると、このキープダンジョンの活動が縮小していく初期段階で『鮮血の爪』が依頼にダンジョンへと潜る。

そこではまだダンジョンは機能していた。

ところが、その数日の間でダンジョンが活動を停止した。

そのタイミングで次の冒険者が依頼でダンジョンへと潜る。


そうすることで、双方の食い違った意見が生まれたとすれば、


「……っち、納得はいくな」


その理由の方が、納得がいくことにメダが舌打ちをした。


ルピネスがメダを宥める。


「でも、それなら双方に面目が立ちますし、報告もしやすいですよ」


「はは、確かに」


報告のどれもこれも災いの種になるよりは遥かにマシとカルトアは、安堵の表情を浮かべた。


そうなると今後の方針を変えなければいけなくなった。


「ダンジョンの喪失があったのなら、最下層まで行って確認しなくてはいけないな」


「あー、面倒くせ、早くても帰れんの夜だな」


「今のままでは、仮説の報告になってしまいますからね。仕方ないです」


危険がないのであれば、仕方がないだろう。


俺も愛想笑いを交えつつ、「頑張りましょう」と柄にもないことを言っておく。


「お前」


それが、メダの肴の餌になった。


「今回は随分余裕があるなー」


うわー、完全にイジリにきている。


「あはははは……」


誤魔化し笑いでなんとか切り抜けようとするが、


「そうだな。訓練の成果がでているんじゃないか」


悪意のないカルトアが繋げてしまう。


それにメダがほくそ笑んでいるのが見えた。


「本当ですね。ナナさんによいご報告ができそうですね」


悪意のないパート2である。


メダは腹を抱えて笑っている。


悪意がない分、性質(たち)が悪い。

そもそもイジリが面倒なだけで、秘密にするようなことでもない。

俺はダンジョンの潜る前の数日でシンに教わった自然源素の効果をお披露目することにした。


「見えます?」


俺は徐々に掌に自然源素を集める。


「舐めてんのか」


「見えますよ」


Cランクの二人は見るだけなら見えるというが、一人残されたものがいる。


「すまん、俺にはわからん」


だから、俺は前置きしたのだ。


「どうやら、こうやって源素を集めると体力の回復を早める事が出来るみたいなんです」


「え、すごいですね」


「ほう、そんな効果があるのか」


褒めてくれる二人とは対照的に、いち早く俺の意図に気が付いたメダの表情が険しいものに変わっていく。


「だから、今回は体力だけは自信があります」


えらいえらいとべた褒めな二人の反応は予想外だが、メダは聞かなければいけない事を俺に聞いた。


「それ、オレ達に話していいことか?」


そうメダが言うと、ゲッ、と、さっきまで褒めていた二人の表情が曇った。


自然源素の一件、ナナさんのマジ切れ事件を思い出したのだ。


「お前な……」


へっへっへと、俺をイジルからだと内心でほくそ笑む。


そんな小さな仕返しをする中で、ふと、俺はあることに気が付いた。


「あれ、あんなところにでっかい穴がありますけど?」


さらなる仕返しが怖くてそこで終わりにしようとしたわけではない。

事実として、人が簡単に落ちてしまえるほどの穴がある。


「穴?」


「ほら、あそこ」


「そんなもんないはずだぞ」


「マップにも書かれていませんね」


キープダンジョンの喪失はまだ仮説でしかなかった。


それをまだ確認できていない。


だから、本来起きている事象は別にある。


そして、それが正体を現すまで、仮設にも挙がっていなかった。


ひと時の緩み。


いたずら心は最悪を招き入れた。


全身を影のような漆黒に、赤く光る目の生物。


それが穴から突然、飛び出してきた。



「――――ディアだっっっ!」


A級生物、漆黒のディア。

その意味が分からないまま、カルトアが叫ぶ声だけが耳に届いたのだった。


今回も長くなってしまいました。

きりの良いところで切ろうかとも思いましたが、きりの良いところがなかったので、ご了承ください。

引き続き『異世界でものんびりと』をよろしくお願いいたします。


そして、新しく、『ダンジョンクリエイター』という作品も連載が始まる予定です。

そちらもご一読いただけたら幸いです。

詳しくは活動報告をご覧ください。

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