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異世界だろうとのんびりと  作者: ダルマ787
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー第五巻ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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第21話 分からないものは分からない

2023/4/19

誤字脱字、文章編集、ルビ振りを行いました。

その日のうちにナナさんへの報告は行われた。


リーダーであるカルトアが経緯を細かく説明し、何が起こるかわからない不確定な事態で起こる危険度、それへの同行を許すかどうかをナナさんへ求めた。


俺はそれを聞きながら、俺が行くかどうかは確定していなかったことを知った。


それに関してナナさんは「私が関与する部分にはありません」と薄情ともとれる意見を返した。

冒険者である『風の行方』は、言葉を失っていたが、三人が思う俺とナナさんの関係とは違う。

あくまで、ナナさんは俺の監視役であり、警護対象ではない。


訓練そのものは、俺の源素切れの結果、おそらく俺の捜索をしているであろう聖騎士関連の組織から逃げる手段を増やすものだ。

俺個人としては、お金を稼ぐ手段がなくなってしまったゆえ、その手段を増やす必要があったためだ。


それだけ聞くと警護しているともいえるのだけど、最近になって思う。

ナナさんは学園長のイェールの指示だけで動いている以外にも何かしら理由がある。

それに気が付いたのは、時折ナナさんは「なぜこんな奴に」とか「理解に苦しむ」など、誰かを思い浮かべた独り言を零すことがあったからだ。


そして、その人物に心当たりは一人しかいない。


聖騎士という繋がり、ナナさんの前の立場――ジャンオル・レナンしかいなかった。


それに気が付いたからと言って、何かが変わるわけではない。


ナナさんの目的が解かったところで、俺に生活能力がないことも、逃走しようと思う理由にならない。


結局の所、各々の行動には各々の理由がある。ただそれだけだった。


そんな理由からなのか、ダンジョン調査の引き延ばしにもらった数日は、意味のないものになり、カルトアの進言でも訓練の内容も変化は起きなかった。


だから、夜行われる師匠であるシンの行くのも変わらない。


とりあえず、そんな事情を説明した後、


「ふむ」


一通り、冒険者としての仕事で数日は、源素の訓練に来なくなると伝えると、シンは理解したと頷いた。


すると、


「なぜ、訓練に変化が起きなかったか理解しているか?」


唐突にそんなことを言われた。


「付け焼刃じゃ意味がないから?」


「残念ながら、付け焼刃すらお前さんじゃ身につかんからだ」


オブラートに包んでほしい。


もちろん、俺だってそんなすぐに何かが変わるなんて思ってもいない。

ただ、実感として得るものがないからと言って、モチベーションの維持には関わってくる。


「お前さんには基礎以前に概念が足りない」


落ち込む俺に対して、シンは改めて教えてくれる。


「概念?」


「この世界の人間であれば、人の戦う姿やそういった思想を幼き頃から当たり前に備わる。しかし、お前さんは元の世界の概念がそれを邪魔をする。例えば、目の前に魔獣が現れたとしよう。その場合お前さんはどうする?」


「逃げる」


「そうだ。しかし、この世界のお前さんくらいの子は、逃げる為に何をするべきかを考える」


「それが俺には足りないと?」


「そうだ。その為に、ナナカミラはそれを植え付けようとしている」


考えても見れば、俺はナナさんの訓練は格闘術を身に付ける為だと思っていた。


「お前さんらはもっと会話をするべきだと思うがな」


訓練よりもハードルが高いものを言いつけられた。


「ど、努力はしてみる……」


無視する相手にどれだけの神経をすり減らさなければならないか。


「話は変わるが、成果を理解しておるか?」


「あるの?」


「やはり理解しておらんかったか」


そう言われても、実感としてないものは理解しにくい。


「理解も訓練の一つだな。では、話しからその成果を実感してもらおうか」


そう言われると、緊張とは違う、遠足の前日の夜のように胸が高鳴る。

だって、もうその成果が起きているという事だ。


「ここにやってきてから月日はどれくらい経っておる?」


「一か月、二か月? ……いや、もう少し立ってるかな」


カレンダーもなければ時計もない。

さらにいえば、毎日が怒涛に過ぎているから、時間の流れを把握していない。


「では、その頃と比べて今、疲労感はあるか?」


慣れからなのだろうか、疲れは特に感じていない。


「え、体力が付いたとかそういう話?」


期待はずれにもほどがある。


「そうだ」


がっかりである。


「間違いなく、体力は付いているであろう。しかし、休息を取らなければ、疲労は残り続ける」


それはそうだろうと思うと同時に、最近休息といえる日はあっただろうか。


「自然源素のコントロール」


「あ、」


「そうだ。お前さんが自然コントロールをするようになってから、その効果は確かに起きている」


「吸収してたのか……って、まさか、源素がっ――使えん⁉」


「それが出来たなら視覚化できているだろう」


早とちりしすぎた。


「つまり、自然源素のコントロールによって、お前さんの色と同じ源素が取り込まれている」


「そのおかげで体力が回復している」


「そうだ、それと同時に元のお前さんの源素の回復」


「でも、それって自然源素のコントロールでは、源素切れが治らないってことでは?」


「可能性としては、考えられることはいくつかある。一つは、お前さんの源素の絶対量があまりに多すぎ、使用できる段階まで時間がかかっているという可能性。あるいは、そもそも別の理由で使用ができない。もしくは、」


「もしくは?」


「二度と使えない」


「えぇっ⁉」


「冗談だ」


「ぅおいっ!」


「世の中にそういった者もおるという話だ」


「そこにヒントがあると?」


「どうだろうな」


さっきからなんなんだ。


「源素が使えなくなった者にはいくつか理由がある。一つは先天的な物」


「生まれつきってこと?」


シンは頷く。


「後天的なものでは病気や、事故、精霊との契約破棄。一時的な者もおれば生涯使えない者もおる」


「俺が該当するのは後天的か」


「その者たちに共通するものがあってな」


そこから、見えてくるものがあるはず。


「その者から源素を全く感じられなくなる」


今までの話しを整理しながら考える。


「ああ、そうか。じゃあ、俺からは源素を感じられているから、それらにも該当しないってことか」


にやりといたずらをする子供の様にシンがにやける。


これは何かあると考え直すと、


「あれ、」


よくよく考えてみると、源素って微量ではあれ自然に体外に放出されているものだ。

ただ、俺の場合、練習してそれをするようになった。


それはなぜかと言われれば、そうしないと、返って目立つからだと言われたからだ。


「ちょっとまて、俺の源素って元々感じられなかった? あれ、でもシンは俺の中で源素を感じ取れる? え……?」


笑いを堪えるシンの頬が膨らんでいる。


「ぶははっ、まったく意味わからんだろ!」


人を馬鹿にしたように、理解できませーんとお手上げのポーズを決める。


「結局、何もわからないってことじゃねぇか!」


シンの馬鹿笑いと共にこの日、俺は自然源素のコントロールで体力の回復が向上するという事実を知った。


それと同時、源素切れの理由は全く理解できないという事実も同時に知ることになったのだった。


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